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料理ができない少女Aは、常に言い訳をしている。

昨日のお話がちょっといい話だったと感じた皆様に、現実の恐ろしさをお知らせしようと思います(。>д<)


ここに、料理ができない少女がおります。

……仮の名を、Aと致しましょう。

Aは、好き嫌いのない何でもよく食べる、気のいい人間でございます。
Aは、多少の不格好な見てくれなどまるで気にしない、適当な人間でございます。
Aは、おかしな味がしてもとりあえず口に入れる、剛毅な人間でございます。

とある日、Aは腹が減りました。
買い置きのカップラーメンを、自ら作って食べることを決めたのですが。

「あれ、お湯足りないや、まあいっか!!!」

Aは、お湯を半分しか入れないで、カップ麺を作って食べました。
味が濃くておいしかったんだからいいんだもん!と後々Aは語りました。

とある日、Aは腹が減りました。
買い置きのカップラーメンを、自ら作って食べることを決めたのですが。

「今日はお湯いっぱいあるじゃん!たっぷり入れたろ!!!」

Aは、お湯をカップの淵まで並々と注いで、カップ麺を作って食べました。
優しい味がお腹にやさしかったからいいんだもん!と後々Aは語りました。

とある日、Aは腹が減りました。
買い置きのカップラーメンを、自ら作って食べることを決めたのですが。

「ええー、ポットにお湯ないじゃん、このまま食べちゃお。」

Aは、お湯を注がず、粉をふりかけてカップ麺をバリボリと食べました。
歯ごたえがなかなか魅力的だったからいいんだもん!と後々Aは語りました。

とある日、Aは腹が減りました。

買い置きのカップラーメンを、自ら作って食べようにも、どこにもありません。

「グぬぬ、お母さん買っといてくれてない…!!!」

キッチンの乾物入れコーナーをあさると、袋ラーメンがありました。
Aは、腹が減っていたので袋を破ってそのままバリボリと食べました。
逆にゆでない方がウマイってわかったからいいんだもん!と後々Aは語りました。

とある日、Aは腹が減りました。
横を見ると、弟がいます。

「ねえねえ、おなか空かない?なんか作って!!!」
「わかった。」

Aは、弟の作った袋ラーメンを食べて大喜びしています。

「うまい!!うますぎる!!半熟卵にこがしネギトッピング、チーズがとろけて、こんな美味いの食べた事ない!!」
「でしょう。」

得意顔の弟が胸をはったとき、Aの母親が帰ってきました。

「ちょ!!晩御飯前に何食べてんだ!!!」
「うまいもんだけど!!!」
「かなりおいしい。」

「あんたはまた弟に作らせて!」
「だってあたしが作るよりもおいしいんだもん!」
「まかせて。」

母親は相当怒りましたが、夕ご飯の準備があるので、キッチンにはけてゆきました。
弟は、その後を追いました。

Aは、何もせずにリビングで猫を伸ばして喜んでいます。

「ちょっと、卵ぐらい割ってみたらどうなの!!!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「無理無理!!だって卵触るとなんか卵から触んないで―ってオーラがびっしびっし伝わってくるもん!卵は私に割られることを望んでいない!むしろお母さんにしか割られる前提でうちに来てない!そもそも卵は割ったら気の毒、あんなに硬く殻を仕上げたというのに、人の食べたいという欲求を叶えるために破壊されるしかない気の毒な皆さんに対して…顔向け、できないよ…。」

「ちょっと!!野菜洗うのくらい手伝ってよ!!!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「無理無理!!あたし野菜の扱いに全然明るくないからさ、洗い方がなってなくって、申し訳ない!あたしが洗うと野菜はせっかくのうま味を失う!普通に洗われたら、相当おいしく仕上がるはずなのに、私が洗ったばっかりにその魅力ある風味を一切合切吹き飛ばしてしまうことになるなんて…栄養満点の野菜に対してそんなこと、できないよ…。」

「ちょっと!!肉鉄板の上に並べることぐらいできるでしょうが!!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「無理無理!!!肉が肉のうまみたる肉汁を一滴たりとも外ににじませることの無いよう、きっちりと焼き上げねば肉に対して失礼に当たるでしょう、肉と鉄板の出会いは、ほんの一瞬のタイミングですべてが台無しになってしまう、素人が手を出してはならぬ領域!肉の表面に不快な闇を纏わせるわけにはいかない!…肉には、肉らしく、いつまでも…朗らかであって…欲しいから…。」

「ちょっと!!!米ぐらい研いでくれないと困るんだけど?!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「米が水を怖がって研がれることに立ちすくんでたから…あたしには、それを…無理強いする事なんて、できないよ…米は、ただ、ただ、美味しく炊き上がることを望んでいる…だけなのに…。」

「ちょっと!!!ゆで卵の殻ぐらいならむけるよね?!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「玉のようなつるつるお肌に…あたしが触れる事なんて、できやしない、できやしないんだ…きっと…ああ、ツルツルの白身、白身が泣いている、ガサガサの手で触れられて、キズがついたと、泣いている…。」

「ちょっと!!ポットのお湯が空っぽじゃん!お湯位沸かしてみようと思わないわけ?!」

母親がキッチンからAに向かって声をかけました。

「水は…煮えたぎることを、望んでなど…いない。水は、ただただ、限りなく透明に…透き通っていたいと、願って、いるだけ…あたしは、それを、見守る事しか…したく、ない…。」

「ああ言えばこう言う!!!あんたもっともらしいこと言ってるけど、何一つ手伝いしないで出されたもん食ってるだけの図々しい人っていう自覚あんの!!!」

「ない!」

Aはいつも理屈をこねては料理をしようとしないのです。
Aはいつも理屈をこねては料理を手伝おうとしないのです。
Aはいつも理屈をこねては人に料理を作らせてのほほんとしているのです。
Aはいつも理屈をこねては人の作ったもんを遠慮なしに食い散らかしているのです。

なんという事でしょう。
なんという事でしょうか。

怒り心頭も甚だしいことなのですが。

「ごちそう様~!めっちゃ美味しかった、ありがとう!」

Aには、感謝という必殺技があったのです。

「洗い物はしとくね!」

Aには、後片付けという必殺技があったのです。

Aは、今も言い訳ばかりしています。

「自分が、作るよりも…人が作った方が、うまい…。」
「人が、作ってくれたものが…一番、尊い…。」
「美味しく作られることを望む皆を、台無しになんて…できない…。」

「もっともらしいことばかり言ってるけどね!あんたいつか大変な事になるよ!」

おそろしい言葉をはく母親を目の前にして、少女Aは言いました。

「大変な事になったら慌てるわ!」

Aは、その後、水産加工の会社に勤めるようになって、そうとう大変な事になりましたが。

「ねー!あたしの得意料理、食べるー!?」
「活け作りは、料理って言わないんじゃないの…。」
「お父さんのは大きく切ってね!」
「煮魚用も欲しい。」

わりとすぐに困難を乗り越えて、今ではご自慢の腕をふるうようになったと言うことです。

「ちょ、なにこのご飯!お粥じゃん!」
「水テキトーに入れたらこうなった!食べれる食べれる!」
「なんかうろこ浮いてるんだけど!まあいっか!」
「雑炊にしよう。」

なお、たまに料理の手伝いをするようになった模様ですが、かなり大胆な調理人気質が幸いして、ずいぶん被害も出ている模様です。

Aによって発生する被害はそうとうなのですが、それなりに穏やかな食卓を囲んでいる模様です。

「なんでメモリ確認しないのさ!なんで魚捌きながら米研ぐのさ!」
「米を…一般常識で、がんじがらめに、したく、ない…。魚だけを、孤独にするなんて…そんな非情なこと、できるはずも、…ない…。」

「言い訳すんなやっ!」

母親の苦悩は、まだまだ続いている、模様です…(。>д<)

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