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ついに仔猫を捕獲、動物病院へ

かねてからペットキャリーバッグを準備はしていた。しかし、抱くことも出来ない猫をどうやってバッグの中にいれるか。

近所の「ネコ世話おばさん」は言った。

「動物病院でネコ捕獲ケージを借りるしかないですよ。野良を捕まえてバッグに入れるなんて、絶対、できやしない」と。

だがケージを貸し出してくれるかどうかも分からない。借りても猫がおめおめと餌につられてケージに入るだろうか。で、ほとんどあきらめていた。

十月七日の夕方。奇跡が起こった。

娘が餌をやっているとき、なぜか仔猫が自分から家の中に首を入れたのだ。そこを娘が押さえつけた。

千載一遇のチャンス!

以前うちの飼猫がお世話になっていた動物病院に電話をかけた。「あ、ハセガワさん?めぐちゃんを連れてきていたハセガワさんでしょう?話し方でわかりましたよ。わたしです」

電話を取ってくれたのは、病弱な野良のめぐを何度も危機から助けてくれたT先生。これが神さまの導きでなくてなんだろう。

後はもう何が何だか分からない。苦悩と恐怖の悲鳴をあげている仔猫をふたりがかりでバッグの中に押し込め、車に乗せる。

そんなに恐ろしい声で鳴かないで。運転が出来なくなるから。お願い。ごめんね。怖い思いをさせて。お願い、静かにして!

四時。午後の診察開始直前に医院に着いた。

受付の女性が「ハセガワさん、ひさしぶりですね」

ああ、先生も受付の人も覚えていてくれたのだ。三年前にめぐが死んでから関係は切れたと思っていたのに。

診察室の中で大変なことになった。

今まで自由に暮らしていた野良は飼い猫とは違う。バッグを先生が開いた途端、電光石火の早業で飛び出し、壁に上るわ、わたしの頭に上るわ、部屋中を駆け回るわ。

最後には忍者みたいに天井まで上った。ほんとうだ!

先生も手が出せない。仔猫と言っても、今では母親より大きいぐらいだ。寝ぼけているときはタイトルの写真のようにボーとしているが、必死になるとすごい。

先生がようやく仔猫に上から籠を被せて捕獲した。

「今夜はお泊りさせて、明日、手術します。午後四時以降お迎えにいらっしゃってください」

泣き叫ぶ仔猫の声を耳に医院を後にする。仔猫に対して後ろめたく、申し訳なく、罪の意識で夕ご飯を食べる気にもなれない。

明日までの我慢よ。きっと迎えに行くからね。

あなたのためにしたことなの。あなたが大人になって、あちこちで種を蒔いて、不幸な野良ネコが増えたらかわいそうだから。

不安と罪の意識を忘れるためには寝るしかない。必死で眠ろうと努力した。

悶々たる夜が明けた。

十月八日の朝。

夕方四時が待ち遠しい。ああ、あの子は無事だろうか。

三時半になった。車を走らせる。早く早く連れて帰りたい!そしてその時がきた。診察室へ入る。

「ケージから出すとまた天井まで飛び上がってしまうから、病院のケージのまま連れて帰っていいですよ。ケージはいつでも都合の良いとき返していただければ」

合計一万六千六百一〇円払って病院を走り出る。

大きなケージ。これがネコの病院の個室なんだ。広くてきれい!あなたは一晩中ここにいたのね。晩御飯も食べずに。

すさまじい叫び声を上げるネコを入れたケージを娘がしっかり抱え後部座席へ。私は運転。後ろの叫び声が気になってビビッてしまう。

もうすぐ家に着くからね。あなたは野良だけど、いちおうわたしの家があなたの家。あなたさえよければ飼猫にしてあげるからね。

家に着いた。

お医者さんには「去勢手術終わった印の耳の切り口がまだ血がにじんでいるから、今日は外に出さないで」と言われたが、ケージの中の仔猫はもう狂乱状態。とてもケージに入れたままにはできない。

外に出した。母猫の和子が来ていた!

びっくりしている母猫とちょっと口づけを交わすと、仔猫は脱兎のごとく何処かへ走り去った。もう黄昏、辺りは暗い。

明日、帰ってくるだろうか。もう二度と顏を出さないかも……。

朝、雨戸を開ける。ウッドデッキに仔猫が!わたしを見て大きく伸びをしている。つぶらな青い目で私を見る。お腹空いたよ~と。

たっぷりご飯をあげた。

耳の傷が痛々しい。でも、これがあれば去勢している証になる。あちこちで子を産ませているという濡れ衣を着せられることもない。

とにかくご飯をたっぷり出した。

「ねえ、うちの飼猫になる?」「いや」と仔猫は言った。ま、いいか。自由に生きていたいんだよね。手術したから、あなたの代で終わる。不幸な子孫は残さないから、これでよかったのだ。

                    猫のいる小さき庭や菊日和


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仔猫が病院ではいっていた個室です!

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右の耳のカットが去勢手術済の印です。

                  去勢せし猫にわびけり秋の宵

                     

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