50年近く、私を見ていた桜、桜を見ていた私
この地に住んで初めて見た桜、堂々と大きな美しい桜で、遠方からわざわざ見に来る人もいた。
誰が所有者かは分からない。いつごろからここに存在していたかも。
子供が小学6年ぐらいのときか、幹が真っ黒になり、空洞が出来た。風で倒壊すると危ない、ということで伐採の話が生まれた。
昔からこの地に住んでいる人たちが伐採に反対、結局、伐採は見送られた。
桜は今年も花を咲かせた。お腹に幾つもの空洞を抱えたまま、雨にも風にも耐えて足を踏ん張って立っている。
50年前の豪華な美しさはないが、伐採に猛反対した人たちの心意気に応えるように、毎年、花を咲かせている。
桜の寿命がどれぐらいか、私は知らない。でも、空洞だらけの黒くカサカサの幹を見ていると、老いた人間の姿に思える。
子どもを乗せた乳母車を押しながら、この花の下を歩いた。花の下にうずくまっていた野良ネコに食べ物をあげた。
二人の娘が、どうか健やかに成長するようにと、祈る思いの毎日だったあのころ。
私を黙って見守ってくれた桜、私のイチオシの友よ。
子供二人はもう手を離れた。
でも、老いた桜がまだ花を咲かせているように、私ももう少し花を咲かせたい。
今日から術後の補助治療として抗癌剤の飲み薬を飲む。副作用で手足がしびれる人もいるらしいが、痺れ止めのビタミン剤も処方されている。
医師を信じて、自分の生命力を信じて、あなたのようにまだまだ花を咲かせ続けたい。カルチャースクールの講師として素敵な花を……。
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