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ほんとうは怖~い源氏物語(4)

帝が溺れた更衣さんの父大納言は既に亡くなっていて、オトコ兄弟もいません。なぜ、オトコの後見人がいない娘を母は入内させたのでしょう。追い出されるかイジメ殺されるかは予想できたはずなのに。

それは夫の大納言が遺言で「絶対に入内させよ」と言い残したから。父の遺言で娘が結局は命を失うモチーフは「宇治十帖」で再び繰り返されます。

源氏物語は「父と娘の惨いモノガタリ」でもあった!

男系の絶えた大納言家は消滅の危機にありました。起死回生のホームランは娘に託すしかない!そして娘は父の遺言を成就、入内。「光るように美しい男御子」(光源氏)を生んで、命果てました。(更衣の死の真相は後で説明します) 

そしてこの男の子、光の君はたいへんな不良で、なんと自分の父親のキサキ藤壷と密通して生まれた子供を天皇にしちゃった!

更衣の父の野心は完全成就。さらに、「明石の巻」で分かりますが、明石の入道は、なんと、更衣の父大納言の甥だったのです!そしてやはり男系がいない。

入道の起死回生のホームランは娘に託すしかなかった!入道は娘に皇族随一のオトコと結婚しないのなら海に飛び込んで死ね、とかねがね言っていた……怖~い父。

つまり、光の君は母方でたどると明石一族の出自だった!源氏物語は明石一族の野望達成のモノガタリでもあったのです。

男系の絶えた明石一族は娘と光を結婚させた。そして二人の子である娘が皇后になった。そしてその子が天皇になった。

光は絶対に天皇にはなれない「源」姓になったのに、今度は不倫の子でなく堂々と正式な婚姻を通して孫を天皇にしたのです。

更衣の入内は必然であり、光の君が明石に流されるのも必然だった。源氏物語はさまざまな陰謀を潜り抜けて生き抜いた非主流派の貴族が、ミウチに天皇を誕生させちゃった話しでもあった!

桐壷の更衣に溺れた帝は、当時、それを知っていたとも知らなかったとも書かれていません。しかし、18歳の若者が右大臣左大臣の圧力をはねのけ、天皇の力を取り戻す闘いの同志として、更衣さんはうってつけだったのです。

更衣は母子家庭。うるさい障害物になりそうなオトコが後ろにいない。子供が生まれても摂政関白ヅラしてのさばるオヤジさんがいない。

「更衣ちゃん。ぼくたちワンチーム組んで天皇の力取り戻そうぜ」

「いいね、いいね。右大臣も左大臣も吹っ飛ばせ」

「僕の目指すのは醍醐天皇の時代だ~」

「二人で醍醐天皇時代を取り戻そうよ、力貸すよ~」

こんな会話は書かれていない。でも、暗黙のうちに、モノガタリは既にひたひたと明石の巻に向かって歩いていたのです。これはもう予定された伏線というより、紫式部が見事に伏線として生かしたのかも知れません。

宇治十帖は別人が書いたと言われた時期がありましたが、今では完全否定されています。なぜなら、最初から最後まで一貫した作者の視線があり、一巻にすべての伏線が組み込まれている。

源氏物語は最初から最後まで紫式部一人の手による、と瀬戸内寂聴さんが断言している所以です。

やはり紫式部は前代未聞の天才作家だった~

美貌の色男の恋愛遍歴の形を取っているけれど、政権闘争、母と子、父と子、主人と臣下、貴族と庶民、すべてが書かれているのです。

つまり、源氏物語は永遠に古今東西通用するテーマを持っている。だから、今では世界中に研究者がいて、源氏研究は国際色豊かな「豊饒の海」になっています~



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