見出し画像

廃校プロジェクトは罵倒から始まった

廃校に地域力がはじけるとき  4  竹内敏

7  それは「罵倒」からはじまった

 とある保育園の父母から「バザーをまつりの中でやらしてくれないか」という申し出がありました。バザーの主催は近隣の保育園・学童保育父母会が中心になって近くの公園で開催する怛例の行事でした。そういう活動は近年どんどん少なくなってきていてそれを敬遠する父母会が多くなっているなか、バザーで父母の結束を強めたいという趣旨もあるようでした。それには二つ返事で了解しました。
 こうして、まつりの方向も取り組みの準備段階からまつりの実行委員会である「よいしょの会」を開催しました。
 
 ところが、バザーの内容をよく聞くと、食事を提供する模擬店があったり、そのためにまつりの開始時間もお昼前にしてほしいということがそこでわかったのです。「バザー」のイメージがお互いに違っていました。児童館側としては、中古物品のリサイクルのイメージでした。しかし、その父母側は、「模擬店も恒例行事でずっとやってきたので従来どおりやっていきたい。場所だけ貸してくれればよい、それ以上のことはむずかしい」ということでした。模擬店がだめだとか、ポレマネーは絶対だとかいうことは言ってなかったのですが、説明を一面的にとらえて相手を糾弾するような感情が噴出しました。また、幼児をかかえていた保育園の父母からは早く議事をすすめてほしいという怒りも飛ぶなど、会議は険悪の一途をたどるばかりでした。
 
 そのときでした。
 「いままで黙って聞いていたけど、あまりにも一方的じゃないですか。私も保育を頼んできた側ですが、同じ地域の人間として一緒に協力してやっていこうという姿勢がまず大事ではないですか。そういう趣旨のまつりでしょ。そのうえでできること、できないことをお互いに出せばすむことでしょう? そんな喧嘩腰ではまとまらないじゃないですか」
 と、ダンスの先生が語気強く発言しました。定期的に児童館の部屋利用をしている親子のダンスグループでした。すると、その発言をきっかけに会議の雰囲気が一変し、それ以降とんとん拍子に議事が進んでいきました。
 
 結局、当初の案だった午後開催を変更し、模擬店のためにお昼をはさんで早めに開催すること、地域通貨を利用できる店と利用できない店とをカンバンで明示すること、ゴミはできるだけ持ち帰ることなどを合意して当日を迎えることができました。
 
 しかしその後のNPOの理事会では、まつりの趣旨をふまえて盛り上げようとする気持ちや地域で活動している人と一緒につながろうとする姿勢がない団体は参加を断るという結論を全会一致で決定しました。結局、三回目の「ポレポレECOまつり」からは近隣の保育園・学童保育の父母グループの組織参加はなくなってしまったわけです。
 
 それは同時に、働く父母会が地域貢献の核として地域から信頼を得るチャンスがありながら、その機会を逃したのではないかと思えてなりません。というのも、私たちは「働く親はジコチュウが多い」というまわりからの批判を払拭し、これをきっかけに見直してもらういい機会として期待をしていたからです。また、いずれここの学童保育に入室する父母も何人かいるわけですから、参加してもらうのは大歓迎なのでした。同時に、相手がやれそうだという気持ちになるような私たちのプレゼンテーションの未熟さも露呈したことでもあります。
 
 一方、感情的になってしまった会議の背景には、この地城にドラスティックに進行した学校の統廃合や学童保育の吸収にまつわる地域のねじれ現象があったように思います。また、公立の保育園・学童保育の職員と父母との関係もますます乖離していく現状にあったように思われました。その意味で、父母のやり場のないフラストレーションがあったことも感じられました。
 
 それは同時に、子ども交流センター学童保育室も当初はそうした風が吹いていたのは言うまでもありません。ちなみに、そのころの父母はまつりの趣旨についてはあまり合意がすすまず、父母も一部だけでとりくむというのが初期の実態でした。
 「なぜみんなイライラ、ギスギスしているのか。なぜ他人に攻撃的になってしまうのか」というのが開館前後の父母の印象でもありました。同じ父母からでさえも「怖くて言いたいことが言えない!」という声も届きました。
 
 私たちは、子どもを「預ける側」「預かる側」という平行関係ではなく、そこを自立・共生の双方向の関係に成長し合える学童保育をめざしていましたが、さっそく頓挫の危機に遭遇したのでした。その危機は二年ほど繰り返されていました。それは職員の志気にもかかわることでした。スワヒリ語で「のんびり生きようよ」という意味合いである「ポレポレ」という言葉が、皮肉にも切実な響きをもつものとなったのでした、
 こうして、「ポレポレECOまつり」は、多難なスタートを内包していたのでありました。

第一章 地域と職員の総合力「ポレポレECOまつり 
1 「ポレポレECOまつり」の開幕です
2  江戸のまちができていく
3 「子ども時代」を取り戻す
4 「粋なおとな」が江戸を徘徊した?!
5 テーマを貫くまつりにする
6 「エコな江戸」が二十一世紀を救う
7 それは「罵倒」からはじまった
8 グラウンドに突如森ができた
9 愉しさ・美しさ・安らぎが世界を変える
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?