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第3回 ほんまる神保町の棚主として

 さて今回は、棚主として、どのような本を並べるかについて書きたいと思います。

僕が考えるシェア型書店の「あるべき姿」は、単なる「蔵書整理」の売場ではなく、テーマがある売場です。

だから蔵書から本を選んでもいいのですが、どうしてもお別れしたくない本や蔵書にはないが、このテーマなら無くてはならない本は、新たに購入(仕入)することに決めました。

これも2月末まで棚主だった別のシェア型書店Books & Coffee 谷中 TAKIBI🔥でも実施していたことです。 
その時のテーマは「知の巨人たち」
日本を代表する哲学者や思索者、民俗学者、文化人類学者などの本を選書しました。
南方熊楠、西田幾多郎、柳田國男、折口信夫、丸山眞男、小林秀雄、梅棹忠夫、木田元など

以下は、小林秀雄をメインとして創った棚の写真です。

結果的に、この棚は良く売れました。閉店日に引き取りに行きましたが、残りは数冊でした。

今回の【ほんまる】では、どのうなテーマでいくか、家の本棚を眺めながら、やっぱりこれでいこうと決めました!

僕は、歴史が好きで大学は、國學院大學に入学し、史学科での専攻は「日本古代史」でした。卒業論文は、「源義経と平泉」
奥州藤原氏と源氏との戦いは、「前九年の役」「後三年の役」まで遡ります。源義家が果たせなかった夢を頼朝が奥州征伐というかたちで実現します。そこに義経の悲劇があったと僕は思います。

ただ古代史に限らず鎌倉、室町時代も好きですし、特に関東を舞台とした太田道灌や後北条氏、関東管領の上杉氏などの時代、そして近世、いわゆる戦国時代や幕末も好きです。

やっぱり司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで、坂本龍馬が好きになり、その師である勝海舟にも興味を持ちました。

そこで、本棚から本を選びました。
そしてテーマは「FOR  HISTORIAN」
歴史家のための本棚を作ることに決めました。

そうなると、まず無料配布するリーフレットを作ろう!

夜なべ仕事して完成したのが、以下の写真です。

A4サイズの紙をたたんでA6サイズにして、本と一緒に陳列します。ご自由にどうぞ!

どれだけ「歴史が好き」なのかは、以下をお読みください。(話が長いです😆)

今回の選書した本の中で1点(2冊)だけ、この本に出会ったエピソードを書きます。

それは、2011年の秋頃でした。僕がまだ丸善丸の内本店の文庫・新書売場を統括していた時に中央公論新社の舘山悠さんが「うちの新人営業マンが東大の生協で薦めて売れている文庫があります」と言うのです。
"東大"それは、丸の内という立地では、大好物なワードです。なぜなら、ここ丸の内には銀行の本店や、さまざまな大企業の本社があり、そこで働く人の中に、東大卒が一定数います。そして企業のトップもまた東大卒だったりします。
僕は即座に「各100冊ください」と言うと舘山さんは「ごめんなさい。この本は、ずっと品切れ重版未定の文庫なんですが、毎週、取次から一定数の返品があるので、その分から東大生協に出荷しているんです」とのこと。
「出せる数だけください」と言うと、翌週各30冊入荷しました。
その本は、ウィリアム・H・マクニールの『世界史』上・下巻であり、オックスフォード大学出版局から発刊されて、40年以上読み継がれている名著です。

僕は、「東大生協」よりも、「オックスフォード大学出版局〜」に注目しました。

と言うのも、僕ら日本人は、山川出版の「世界史」教科書を読んで、世界の歴史を勉強して来ました。
ところが世界のビジネスマンは、このマクニールの『世界史』を読んでいるのです。しかも40年以上も読み継がれています。そう言う意味で、この本は世界標準の教科書と言えます。
丸の内には、世界を相手に仕事をしているビジネスマンが多く存在しています。そのビジネスマンにとって、この本は素養を高める必読書になる筈!

僕は「世界標準の教科書」と記したパネルをつくって、多面で平積みしました。

すると予想通り30冊は、あっと言う間に完売。次も返品を急ぎ改装してもらい、各100冊入れてもらいましたが、それも即完売。こうなったら重版しかないでしょ!

しかし、この本の価格は、1,333円+税(当時)上下巻合わせると2,932円。これは文庫の価格ではなく、単行本、専門書の価格。高額商品であるが故、上層部は重版を渋っているとのこと。ならば、さらに積み上げようと返品改装分200冊を売ってみせると、2012年1月に「5000部」重版が決定しました。

ちょっと少ないぞと思いましたが、僕はエスカレーターを登った3階で一番目立つ場所に各500冊を積みあげました。

そんな最中、中央公論新社で、丸善丸の内本店を担当していた舘山悠さんから転職するとの連絡を受け、後任担当者は、東大生協に、この本を薦めた菅龍典さんになりました。成果を見届けることなく舘山さんは、出版業界をあとにしたのです。(ちなみに新しく担当になった菅さんは、いずれ編集部へ異動となり、担当した本を、わざわざ届けに来てくださる等、いい関係が続きました。そして、菅さんは現在、講談社で働いています。お元気でしょうか)

さて、500冊を積み上げ、さらに追加した結果ですが、丸善丸の内本店の1月の売上冊数は、上巻496冊、下巻359冊。ちなみに紀伊國屋書店新宿本店は、上巻204冊、下巻140冊でした。2月になると重版は2万冊、丸の内本店の売上は、上巻577冊、下巻432冊とさらに伸ばしました。

この売行きに敏感に反応したのが朝日新聞社。2月26日「売れてる本」に掲載。すると3月は10万5000部が重版され、テレビでも取り上げられると丸の内本店の売上は、上巻830冊、下巻565冊となりました。しかし、さすが紀伊國屋書店新宿本店。マスコミが取り上げる本は強い。上巻1,033冊、下巻742冊を売ったのです。
うちが先に仕掛け販売した商品なので、負けたくないです。ただマスコミ、特にTVで取り上げられると、全国的に売れ行きが広がります。菅さんに依頼して、さらに重版分を、1皆のベストセラーランキングの棚や話題書、歴史の専門書の棚にも広げました。

その後も展開の手を緩めずに売り続けた丸善丸の内本店は、1月〜10月までの10ヶ月間で、上巻3,204冊、下巻2,306冊。紀伊國屋書店新宿本店は、上巻2,740冊、下巻1,941冊。

丸善丸の内本店は、文字通り「日本一」の売上を達成することができました。金額に換算すると上下巻合わせると1,615万円、5,510冊。

さて、【ほんまる】の出品に話を戻しますが、この続きは、次回とします。

つづく


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