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第21回「本を売る」ことに魅せられて 

 2007年7月18日、第137回 直木賞は、松井今朝子『吉原手引草』(幻冬舎)が受賞。芥川賞は、諏訪哲史『アサッテの人』(『群像』2007年6月号)が受賞しました。

7月19日、雑誌の売上が低迷しています。
先般の本の学校のシンポジウムでも「雑誌」の分科会があり、多くの人が聴講してくれました。

日本雑誌協会は「雑誌低迷という言葉に騙されてはいけない。自分の店に合う雑誌を探し出す努力、店頭陳列の工夫、顧客とのコミュニケーションなどで売上は必ず上がる」と言ってます。

確かにそのとおりです。まだまだ店頭での工夫の余地はあります。しかし、出版社は、取次は何をしているのでしょう。

先月、某出版社を訪問した時に雑誌担当の販促部長が「看板雑誌が不振」と嘆いていました。確かにその雑誌の落ち方はひどい。格下と思っていた雑誌に次々と抜かれています。
販促POPを作成し、取次の荷物に混在させて書店に送っているが効果はないと言う。
ちなみに取次にたのむと1通65円の手数料をとられるとのこと。

DMで送るよりは安い。しかし、店に届いても確実に担当者の手にわたり、つけてくれるとは限りません。封書ではなく、WEBからPOPをダウンロードしてもらえるように変えようと思うと言うので、その情報をFAXだけではなく書店チェーン本部や担当者宛にメールをすれば良いとアドバイス。ついでに特集記事の内容など事前に連絡してほしいと頼むと、必ず実行すると約束しました。

ところが、今月号発売の直前だというのに出版社からは何の連絡もありません。こちらから連絡すると、まだWEBの準備ができていない。先月同様取次経由でPOPを送ったと言うのです。「不振だ」と言うわりに、「どこまで本気なのか!」と言いたくなります。POPをつけて欲しければ直接書店を訪問すればいいのです。基本的に雑誌版元(大手)は書店をまわらないから、書店を知らなさすぎます。だから提案もできないのです。

そして、版元以上に取次の問題が大きい。取次の配本システムは根本から見直すべきと思います。バカの一つ覚えのように、3ヶ月前のデータで、初速だけみて判断し、定期購読であっても間違って配本を切ってしまいます。取次は返品を減らし、返品にかかるコストをおさえて利益をだすことを第一義としています。「売り逃し」というロスをまったく考えていません。「売れない」ではなく「売れないようにしている」と僕は思います。

この年の2007年の雑誌の総売上は、1 兆1,827億円ありましたが、
2023年の雑誌の総売上は、4,418億円

出版科学研究所


7月20日、池田書店の『やさしい切り紙』(矢口 加奈子)が志夢ネットで売れています。

写真だけでは「切り紙」の良さは伝わりません。池田書店の営業マンは毎日営業から戻ると「切り紙」を手作りしてPOPに貼り付け、翌日書店に持参するという日々を繰返したとのこと。
手づくりPOPの数は、1000枚以上。
その結果、初版8000部の商品は何度も何度も版を重ね、発売から1年かかりましたが10万部を突破したのです。
まさに営業努力が生んだベストセラーですね。

7月26日、出張で仙台に来ました。志夢ネットの新規店、ブックスなにわ多賀城店の開店準備のお手伝いです。
7月27日、早朝から夜遅くまで、不眠不休で続いた開店準備も終わり、本日めでたく新店舗がオープンしました。ローカルとは言えTVコマーシャルがきいたのか開店からレジは長蛇の列。景品の数も足りなくなってきたので、熨斗紙を貼ったり、細かい雑用もお
手伝い。今日、帰るつもりでしたが応援は明日まで延長することになりました。


ちいさなおばけアッチ・コッチ・ソッチのアッチ君が来てくれました。(中の人も「あっち」かったでしょう)

8月28日、午前中は、小学館にて打ち合わせ。江原啓之の『人間の絆』や木村藤子の『「気づき」の幸せ』など売れ筋を手配。
今一番欲しいのは、加島祥造の『求めない』

前作の『タオ―老子』(筑摩書房)もロングで売れているので、こちらも期待できそう。

小学館創立85周年企画の『全集 日本の歴史』の新しいパンフを受けとりました。

本が土に埋まっている。
まるで石器が発掘されたような写真です。
担当者は「この新パンフわりと評判がいいんです」と言っていましたが、別のことを思い出しました。
次々と石器を発掘し「神の手」をもつ男と呼ばれていた藤村 新一の発見は実は捏造だったという事件が2000年の11月にあったことを。
あの報道の少し前に講談社が全集もので『日本の歴史』を発刊していましたが、その第1回配本の01巻『縄文の生活誌』が、うちの本棚にあります。

頁をめくってみると冒頭から上高森遺跡の話があり、著者が藤村新一をベタ褒めしています。藤村新一の業績を信じ、本を書いた著者も、そして本を発刊した講談社も気の毒でした。結局、この本は改訂し、交換されました。ですが僕は交換せずに取っておいたのです。捏造による被害の証拠として。小学館も創立85周年企画ということで、気合がはいっているようですが、発刊直後に歴史を覆すような大発見がなければよいのですが。

9月9日、オーナー会議を前に清宮社長から「忌憚のない意見を」と言われて、以下のことを書面にしてオーナー会議で示しました。

① 志夢ネットのオーナーは、もっとお互いに連絡をとりあうべきです。
②志夢ネットのオーナーは、自ら先頭にたって売上アップの提言を志夢ネット加盟店の各店長に投げかけて欲しい。よその会社と思わないこと。
③オーナー会議は自社の成功(失敗)事例を直接みなさんに話せる機会です。オーナー会議を貴重な時間だと考えて欲しい。現状は事前に資料を用意してくださいと言っても何の用意もなく時間の穴埋めをしているだけです。オーナーの皆様の「理解」「認識」以上のことを店長には求められません。店長やスタッフの皆さんに頑張ってもらうためには、オーナーの皆さんが変わらないと志夢ネットは前に進めないと思います。今、加盟してる人たちがメリットを感じなければ、新しい人たちを勧誘することも説得することもできないと思います。

本部の仕事としては①志夢ネットを支持してくれる版元の数を今よりも増やすことです。これが1番売上と利益に直結することです。
②また大手版元の法人特約となることを戦略的に狙うのかどうなのか。法人特約は黙っていても向こうからはやって来ません。大手版元が「売って欲しい」商品を積極的に販売し、アピールしなければ、実現できません。
売れる商品だけは欲しいけれど、努力しないと売れない商品は売りたくない。これでは版元も相手にしてくれません。この点をどのように考えているのか?みなさんで話し合う必要があると思います。③本部の細かい要望としてはFAX専用回線の確保やFAX機器の交換を望んでいます。現状は、電話FAXの回線が1本なので、FAX送信中は電話が
使えません。FAX機器が家庭用のため一度に10枚以上送信できません。20枚以上受信できない等の問題があるからです。


とりあえず言いたいことは言いました。本当は、まだまだありますが.....

9月10日、日本書店大学9月例会
講師陣は石野栄一氏(明日香出版社代表取締役)田辺学長。
そして、日本書店大学の会員の書店で自己破産した元社長の講演。「まだ免責前で詳しいことは話せないが、一度みんなの前で話をしたい」ということで、出版社・取次は参加できない。会員限定の場で話していただきました。涙なくしては語れぬ話。
取次って、ひどい!と改めて思いました。 「死人に口なし」というけど、会社の倒産は、会社の死です。倒産社長は何も言わず市場から消えるのが資本主義社会の掟です。でも死んだ人は、生きてる人に本当は話したいこともあります。生きていく上で知っておいたほうがいいことを、生きてる人に伝えたいことがあると思います。そういう意味で今回講演をしてもらいましたが、聴いてよかったと思います。そして、話した方もスッキリしたと言ってました。

9月11日、JR立川駅ルミネ8階オリオン書房に集合。オリオン書房の各店を見学。
ダイヤモンドシティ・ミュー店へ移動。
立川北駅~(多摩モノレール)~玉川上水駅~(タクシー)~ダイヤモンドシティ
見学後にわざわざ会議室をおさえていただき、会員書店の質問に高田鉄専務が丁寧にこたえてくれました。(商品回転率やダイヤモンド・シティの家賃まで、根掘り葉掘りの質問にも嫌な顔することなく・・・)
オリオン書房さんの人時生産性の高さに一同溜息。

オリオン書房ノルテ店

9月13日、先般の「出版販売実務セミナー」で紹介していた「雑誌売り名人発掘プロジェクト」の成功事例を志夢ネットの加盟書店で実施。早速成果がでたという報告がありました。
雑誌の「残り一冊」をシュリンクして「ラスト1冊!」というメモをつけて並べたところ、完売する雑誌が増えたとのこと。

ラスト1冊POP

今までは最後の一冊になると痛んでいるため売れ残りになるケースが多かったが、1時間に1回雑誌のメンテナンスをするようにチェック表を作成。
その時に残数が1冊になった商品をシュリンクして、「ラスト1冊!」と書いたメモを貼り付ける。(メモは商品販売時に回収し再利用する)
雑誌担当以外も雑誌の残数を意識するようになったのと、レジ担当が品切れになったのがすぐわかるようになったので、お客様の雑誌の問い合わせにスムーズに対応できるようになったとのこと。超アナログな管理ですが、このほうが入れ替えの時も抜き忘れがないので便利。 
もともとは、横浜の酒井書店さん(2015年3月末閉店)がはじめた施策でした。

9月17日、清宮社長、小菅常務と打ち合わせ。今年は、天真堂書店甲府国母店、ブックスなにわ多賀城店の2店舗が加わりましたが、さらに仲間を増やして、志夢ネット全体の売上を100億円以上としたい。そのためには加盟店の募集が必要と言うことで、小菅常務と一緒に以下募集チラシを作成しました。

【募集】志夢ネット加盟店

「大手資本の系列」か、「廃業」 2者択一の時代あなたの店は生き残れますか?
志夢ネットは、中小書店が独立性を保ちながら発展しているボランタリーチェーンです。
あなたも志夢ネットに参加し「第3の道」を歩みませんか?

志夢ネットの加盟書店は、現在18店舗(2006年6月1日 現在)
2005年度の雑誌・書籍の総売上は、30億39万3582円
(前年比102.9%)

志夢ネットの全国書店法人ランキング
 幻冬舎・・・・・・・74位
 日本文芸社・・・・・60位
 PHP研究所・・・・70位
 文化出版局・・・・・67位

小学館『きっずジャポニカ』予約冊数 全国1位(2006年5月23日現在)
主婦の友新年号 1288冊  ESSE 1200冊  すてきな奥さん 1032冊
さらなるボリュームアップをめざし、強化中
あなたの参加をお待ちしております。

志夢ネット加盟のメリット
① ベストセラーの確保
 2005年ベストセラーの実売数
 『頭がいい人悪い人の話し方』3,394冊
 『1リットルの涙』2,318冊
 『電車男』2,049冊
② 特別報奨金の分配
③ 情報の共有
④ 店長教育
⑤ 備品の格安購入

志夢ネット加盟条件およびご負担金について
① 志夢ネット加盟条件
POSの導入
取次支払率100%
既存の加盟店と同一行政区以外
年商5,000万円以上の店舗
②新規加盟金は30万円
月額費用は1企業当り20,000円 
店舗当り14,000円
売上の0.0006

例 
月商1,000万円の店舗の場合
   1ヶ月の負担金は
   10,000,000×0.0006=6,000 +20,000 +14,000 月額40,000円

月商2,000万円の店舗の場合
   1ヶ月の負担金は
   20,000,000×0.0006=12,000 +20,000 +14,000 月額46,000円

月商3,000万円の店舗を経営の場合
   1ヶ月の負担金は
   30,000,000×0.0006=18,000 +20,000 +14,000 月額52,000円


9月21日、次の志夢ネット大賞に向けて全店で仕掛け販売をお願いした『父からの手紙』(小杉健治 /光文社文庫)の実売が3ヶ月で1000冊を超えました。

各店思いをこめたPOPを作りましたが、ユニークだったのがブックスなにわ塩釜店の「トイレPOP」

目にとまるように、目線の位置にPOPを貼ってます。 すると「トイレの本ください!」となるのです(笑)

9月26日、今年も椿山荘で大和書房の説明会があったので出席しました。2008年2月開催の「だいわ文庫創刊2周年記念フェア」は、創刊1周年同様1冊50円の特別報奨つき。
定価500円~600円の文庫に、50円の報奨は高額ですね。
さらに2008年の大型企画として直居由美里の『幸運を呼ぶ九星別ユミリー風水 2009年版』が文庫で9冊発売されるとのこと。
細木数子の六星占術の文庫と同じように.....
企画説明のあとに直居由美里の講演があり、そのあと立食パーティとなりました。全国から約200人の書店員が参加。但し、こういうパーティだと経営者や店長の出席が多い。偉い人が来ても文庫の売上は上がらんのに...

新潮文庫『水曜の朝午前三時』の仕掛け販売で業界誌にとりあげられた丸善お茶の水店の吉海裕一さんや数少ない現場の人たちとだけ話をして、中締めと同時に退席しようとした時、何年も会っていなかった友人と再会。この話は、また改めて書きます。

9月27日、小学館の『全集 日本の歴史』の早期キャンペーンの締め切り日。全店舗の予約分を版元へ連絡。

全集ものなので、敬遠ぎみの店もありますが、一人で全巻予約を7件獲得した人もいました。一清堂に勤続30年のパートさん。
名簿がなくても、お客様の顔を見れば名前がわかる人が100人いるという達人。
今回の企画のチラシを見て、誰に声をかけようか頭の中にあるデータベースをソートし、10名に声をかけたところ7名がOKしたとのこと。すごすぎる。

9月30日、僕は一清堂の清宮社長とともに、新たな志夢ネット加入店を求めて独立系書店を廻りました。最初にお伺いしたのは、東京都内の書店。店舗は駅前と商店街にあり、外商で教科書販売もしているとのこと。
「【募集】志夢ネット加盟店」のチラシを渡して、まず丁寧に説明しました。社長さんは「話の内容は、よくわかりました。ただ同じような話があり、そちらの方が先だったので.....」「NET21さんですね」と訊ねると「そうです」と返事。
NET21とは、恭文堂の田中淳一郎さん、今野書店の今野英治さんら書店経営者が若い頃、埼玉の須原屋で修行し、その仲間たちと作った協業の会社です。昔は、みんな丁稚奉公したのです。そう言えば、ウィー東城店の佐藤友則さんと明日香出版社の2世経営者の石野栄一さんは、近藤秀二さんの、いまじんで修行していますね。

僕がNET21の田中淳一郎さんに、はじめてお会いしたのは、米子の本の学校でした。2000年の春講座で、ともに講師として参加し、懇親会の席で名刺交換しました。この時、往来堂の店長だった安藤哲也さんとも知り合いになりました。

そして、鳥取の富士書店の社長であり、本の学校 郁文塾の塾長であった花井滿さん、田中さん、安藤さん、僕の四人で花井さん行きつけのスナックへ行ったのです。みんなでカラオケを歌い。

見つめ合うと素直にお喋りできない
津波のような侘しさに
I know..怯えてる....


僕は「出版業界に津波が来る」と言ってサザンの「TSUNAMI」(作詞、作曲:桑田佳祐 2000年)を歌ったことを記憶しています。それから四人で話し込み、スリップからPOSに代わりランキングの集計など便利になったけれど、書店人は、そのランキングの「行間」を読み取らなくてはいけない!で意見が一致したことも覚えています。なぜならスナックの店名が「行」だったのです。
すっかり意気投合した安藤哲也さんと東京に戻る飛行機も一緒でしたので、昨夜の続きを話していたら、安藤さんが転職するbk1(2012年、「honto」に統合されましたが、2024年3月31日をもって「本の通販ストア」のサービスを終了)でコラムを執筆して欲しいと言う話になり、bk1立ち上げから一年くらいコラムを書いていました。

だけど安藤さん先に辞めちゃうんだもん。ずるいよー。

また脱線しちゃいました(๑´≧ڡ≦`๑)てへ

清宮社長と僕は長居せず引き上げました。清宮社長が「行くぞ」と言うので、「どこへ?」とあとを追いかけると居酒屋に入って行きました。
「だからよぉ。近藤さんが、この指止まれ!ってやったんだよ。だから俺は、その指に止まったんだよ。そしたらよぉ。俺と同じように止まったバカがいてよ。それで、志夢ネットができたんだよ。なのに、その近藤さんがいなくなっちまうなんて、ずるいよー」清宮社長は酒を飲むと、いつもこの話をします。「清宮さん!近藤さんは、いませんよ。志夢ネットの社長は、清宮さんですよ」
いやはや疲れます。近藤さんは、今頃どこに!え?ミャンマー?

さて、今日は、この曲で終わりましょう。
桑田佳祐「明日晴れるかな」(作詞、作曲:桑田佳祐)

神より賜えし孤独やトラブル
泣きたい時は泣きなよ
これが運命(さだめ)でしょうか
あきらめようか
季節は巡る魔法のように.....


つづく

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