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第15回 ほんまる神保町の棚主として

 2024年(令和6年)5月28日、株式会社 文化通信社のBookLinkで、特別企画として「【特集】書店振興プロジェクト 〈寄稿〉書店が求める支援、学び・文化の拠点を絶やさないために」が掲載されました。



特集では5人の書店経営者から寄稿「書店が求める支援」を寄せられています。また歴史小説・時代小説家でもある今村翔吾氏の特別寄を掲載してます。

では、5人の経営者を順に見てみましょう。

日本書店商業組合連合会 会長  矢幡秀治氏(真光書店)

まずは目の前の利益確保のため、キャッシュレス手数料の低減を求めます。書店の経常利益は1%にも満たない中、3%前後のキャッシュレス手数料は大変厳しいものになっています。
 次に、補助金です。事業再構築補助金については申請が大変面倒であり、それを理由に手を出さない書店もあると聞きます。申請の簡略化を望みます。また、書店存続、増加が必要であると考えると、再構築ではなく、拡張縮小などにも補助金を支給していただきたい。さらには、書店のイベントへの助成も望みます。それに関連して金融支援があればと考えます。
 さらには、入札の禁止。価格決定権のない書店が値引き分をすべて負担しています。地元書店からの定価納入を望みます。
 その他、経産省への要望とは異なるかもしれませんが、粗利改善、出版物への軽減税率の導入、EC書店の配送無料及びポイント付与への規制、円滑な事業承継、図書カードの配布、POSレジ等の導入補助、読書推進教育などなど我々が存続し続けるために解決が必要な課題は山積しています。


つづいて、書店新風会 会長、大垣書店 代表取締役会長の大垣守弘氏

先日、経済産業省が進める「書店振興プロジェクト」のヒアリングが行われた。書店業界にとっては待望の施策であるが、求めるのは現状への補填ではなく「未来へ向けての投資」と捉え、書店が経営を継続できる支援が必要である。
 書店が減少していく原因は様々で、後継者不足・低賃金・収益性などが考えられるが、書店はもともと文化の発信基地であり、憧れてこの業界に入った方も多く、これからは「魅力ある書店」作りにチャレンジしたい若者を支援することが大切である。
 希望する若者たち向けに書店開業スクールを設け、書店経営に必要なスキルを身につけてもらい、卒業者には開設に向けた創業支援を行えないだろうか。書店員が「なりたい職業」になれば、継続的に活性化された書店を経営できる。
 もちろん現書店員のリスキリングも重要課題の一つである。プラットフォーム構築や参加費用の助成を行い、勉強会や現場研修を開き、さらに書店員資格制度の導入なども、より意識が高まると考える。
 そして、いま普及促進させたいのはRFID。タグのデータを非接触で読み書きできるシステムを取り入れれば、サービスを充実させ、販売促進と売上UPにつながり、万引防止にも活用でき、なにより書店員が作業に忙殺されることも少なくなり、より魅力的な棚づくりやプロデューサー的人材の育成も可能になる。
 支援の形はいくらでもあるが、真に必要とされる実りある投資を希望する。


3人目は、株式会社紀伊國屋書店 代表取締役社長  藤則幸男氏

経産省が「書店プロジェクト」を立ち上げられ、書店の経営・読書の価値と必要性に関心を寄せられて、活動を始められることは大変喜ばしいことと思います。この報道が出た直後のニュースでは、「書店を国が支援なぜ今?」「需要がなくなった書店に税金を投入するのは無駄」、「図書カードを配布した方が本を買うのでは?」などの報道がされておりました。
 わが国の出版界は海外と異なり、長年、再販制度・委託制度の下で書店経営がなされてきており、市場が半減した現在でも年間出版点数が減っておりません。一時的な書店への施策だけでは解決されないほど構造的な問題を孕んでいるのが現状です。出版社・取次会社・書店が一致団結して構造改革を急いで進めると共に、書店は特色ある品ぞろえと店づくりを行い、来店者を増やす企画・イベントを増やし、書店の魅力をもっと高める努力を続けなければなりません。
 国際的な学力低下、教育研究の遅れを改善するためには、政府、学校、家庭を挙げて活字離れを防ぐ施策を強力に進めていく必要があります。今回のプロジェクトが国をあげての大きな読書推進につながるよう期待します。


4人目は、株式会社リラィアブル(コーチャンフォーグループ)代表取締役社長 佐藤暁哉氏

書店経営で求めたい支援は主に2つです。
 まずは粗利率の改善。元々利益率が低い業界で、水道光熱費の高騰、人件費の増加、キャッシュレス拡大に伴う手数料の増加、万引きロスなど多くの費用を書店側で負担しています。
 各書店に公平に支援することを考えると、キャッシュレス手数料の負担金額を一部でも補填いただくのが望ましいです。最終利益率が平均1~2%と言われる中で、キャッシュレスの手数料は2%を超えており、年々金額が増えてきています。国の施策としてキャッシュレス推進がありますので、この傾向は更に強まるものと思います。
 また2024年問題で今後は配送の頻度が減り、返品にかかるコストも遠隔地では値上げ幅が大きくなってきています。書店として返品率を下げる努力はもちろん必須ですが、返品があるからこそ大きく展開できる商材も多々あります。これにかかる費用の負担も、地方の書店が生き残るために必須だと考えています。


5人目は、カルチュア・エクスペリエンス株式会社  代表取締役社長  鎌浦慎一郎氏

 「書店ゼロの街を無くす。」北海道から石垣島までFC展開する私どもTSUTAYAは、多様な出版物を届ける全国の書店経営を「守る」ために、「守破離」に挑戦しています。書店が発注権を持ち、販売数をコミット、売上粗利を増やす流通構造へと「突破」するためには、書店DXが必要です。
 例えば、AIによる需要予測と自動発注システム、顧客と書店をデジタルでつないで今すぐ試読・購入できるアプリなど。これには業界が一体となり、書店横断型のスタンダードになりえる共通インフラの開発が必要です。
 そして、「離」とは、デジタル時代だからこそのリアル書店の新業態化。「BOOK&CAFE」、書店だから安心して遊べる「トレーディングカード」、コミュニティとしての「SHARE LOUNGE」などの併設サービスの充実。いずれも本やIPからの体験の複合化によって、また書店に足を運んで頂くための取組みです。そんな書店併設サービスの開発や導入のための経済的支援があれば、書店が活性化され、永続的なものとなり得ると考えます。


そして、書店の経営者であり、直木賞作家の今村翔吾氏

【特別寄稿】教育、文化の未来に必要な支援策 書店業界に問われる「三つの観点」

一切の遠慮を省こうと思う。私には三つの観点がある。まず一つ目は「書店は本当に救われるべきか」ということ。私個人としては出版を守ることは、教育、文化の未来に必要だと考えている。が、世には様々な業種が存在し、それぞれに守ろうとしている方も多い。業というものは、歴史と共に盛衰するものである。例えば昭和の文化の一つであった活動弁士という業は恐らくもう存在していない。出版も、書店も、歴史と共に消滅する業ではないか。何故、お前たちだけが支援されるのかと厳しい言葉を浴びせられても不思議ではない。今これを論じることは本題とは逸れる。ただ、我々は常に根本を忘れてはならない。
 二つ目は「出版業の中で書店だけが救われるべきか」ということ。実際は苦しんでいるのは書店だけではない。出版社も、物流を担う取次も、深刻な状況である。出版社は過去最高益を上げる大手がある一方、給料の支払いにも困窮する零細もある。実は書店に関しても同じで、敢えて下世話な言い方をすれば、儲かっている書店も存在しているのだ。取次はさらに絶望的といってよく、元来の物流では多大な赤字を出し、他業種に進出して穴埋めしようとしているのが現状。つまり書店だけが苦しいのではない。大手がまだ益を上げており、中小零細が悲鳴を上げている傾向にある。
 そして最後、「書店を一括りにしてよいのか」と、いうこと。先述のように大手を中心に利益を上げている書店もある。大手、中小、零細、十把一絡げにした支援で、果たしてよいのかという疑問がある。すでに資金は枯渇し、融資も受けられない書店も多く、事業再構築補助金のような建付けだと、申請するのは大手ばかりということにもなりかねない。
 しかし、さらに重要なことがある。この国には、店を開いていないのに黒字を出している書店が存在しているということ。首を捻る方も多いだろう。端的に言えば既得権益である。最も分かりやすいのが教科書販売である。一年に一度、教科書を販売するだけで、他は一切店を開けない。それで黒字、あるいは役員報酬を高くして赤字にする。そのような書店がかなり存在している。教科書は生徒が紛失したならば、たとえ一冊でも最速で届けなければならないという大変さはある。とはいえ、これも「町の書店」なのだ。教科書販売の指定は各都道府県、市町村によって違う。かなり玉虫色な地域も存在する。往々にして、業歴が長い書店が多い。経営者の平均年齢も極めて高い。春だけアルバイトを雇って教科書を販売し、あとは悠々と年金の足しに――。そうしたケースもかなり存在するのである。
 果たしてこれも「支援先」になるか。原資は税金である。平等なものでなければならないし、それによって生まれた「利」や「便」は多くの国民が享受出来ねばならない。
 一件ずつ厳密に精査していく必要がある。難しいというのならば、ベターなのは物流への資金投下だと考える。2024年問題もあり物流費は高騰する一方。書店に並ぶべき雑誌はおろか、いずれは本さえも届かなくなることになりかねない。一例として出版社が共同で使える巨大倉庫でもあれば、本の価格を若干でも下げることも、書店の粗利をたとえ0.5%でも増やせるかもしれない。
 今では必要不可欠となったインターネットでの書籍販売。かなり遅まきではあるものの、零細書店でもこれに食い込んでいける仕組みを作るということも有り得る。ここはかなりのボリュームがあり、例えシェアの2,3%でも確保出来れば、一店舗あたり数万円の利益を生む可能性がある。
 商流の上の方への支援が、出版社、取次、書店問わず、大手中小零細問わず、限りなく平等であり、皆様の利便にも繋がる効果が期待出来ると考えている。

さて、私見を述べます。
まず5人の書店経営者が、それぞれ別のことを言ってます。

①キャッシュレス手数料の低減
②書店開業スクール
③読書推進
④粗利率改善
⑤AIによる需要予測

ここまで一致していないことに驚きました。
書店振興プロジェクトは、纏まるのでしょうか?

僕は、粗利率改善こそが書店が求める第一と思います。
そういう意味では、コーチャンフォーの佐藤社長の弁は、地方の書店として、切実なことを訴えているように見えます。

もっとも紀伊國屋書店、カルチュア・エクスペリエンス(蔦屋書店・TSUTAYA Book Store)と日販は、ブックセラーズ&カンパニーで、粗利益率の改善に取り組んでいるので、国に求めることではないということなのでしょうか。

それに対して、今村翔吾さんは
冒頭で「一切の遠慮を省こう」と語り
①書店は本当に救われるべきか
②出版の中で書店だけが救われるべきか
③書店を一括りにしてよいか
と具体例を挙げて論じています。

そして、教科書販売で濡れ手に粟の書店についても言及していましたね。

うちの近所にも某大学附属の高校がありますが、最寄駅に4月だけシャッターを開ける書店があります。(笑)店の大きさは畳一枚くらいの広さです。

そして、今村翔吾さんは、ベターなのは物流への資金投下と言ってます。

僕も物流(取次)こそが業界の大動脈であり、ここが破綻すれば、書店も出版社も倒産します。

私見を述べますが、
もしも国からの支援で取次を助けるなら条件があります。

まず今、個々と取引している条件を白日のもとに晒すのです。

どこの出版社が高正味で、どこの書店が優遇されているかを全て明かすのです。

そうして、書店、取次、出版社が生き残る平等な新しい条件を提示し、この条件でないと出版社から仕入ない。書店には卸さないということを知らしめたらいいと僕は思います。

過激な弁でしょうか?!

つづく

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