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風のたより

「どんなに便利な世の中になったって、こればっかりはかえられねえ」とは我らが会長の口癖である。
 これとは食道楽ばかりが揃った会合のこと、ともに飯を食うのは言葉を交わす以上の価値があると信じてやまないその男は、しかし先ごろぽっくり逝ってしまった。
 気づけば顔ぶれは年寄りばかり。すわ解散かと思いきや、食への執念は衰えず健康維持もぬかりない。近頃は新たに若者を会に迎えることとなり、活気は増す一方である。
 今日も今日とて焼き鳥三昧。宴もたけなわのその時に、目の前の焼台が火を噴いた。おかげで串は煤だらけである。
「やりやがったな、あのやろう」一人が冗談めかして毒づく。しかりと頷く我々に挟まれて、若者は目を瞬いた。

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