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胸のうち

 甘い香りが、漂っている。
 その胸の、肋《あばら》の檻に抱かれた、赤子の頭ほどの蕾。
 ひとたび咲けば、この世のあらゆる厄災を祓い、奇跡を招くという伝説の花。
 それが此度の贄に弟の身体を求めたのだ。
 弟。
 私が欲してやまず、しかし決して手に入らないはずだった男。
 胸元がめり、と裂け、香りがいっそう強くなる。その面差しにおちる陰は、この期に及んでいっそう好ましい。
 ――その命尽きるならば、我が生涯をかけて世界を呪おう。
 ――永らえたならば、我が生涯をかけて貴方を愛そう。
 想いはすでに重たい粘度をもってどくどくと私をめぐる。
 どう転んでも地獄は地獄。昏い予感に笑む私に、蔦の絡んだ腕が伸びる。

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