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Tw300ss

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Twitter300字SSという企画に参加した作品をまとめました。気軽にどうぞ。
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#掌編

長いたそがれ

石の塔のあるじはガラクタ集めの変わり者。翼はあれど岩屋に籠り、集めた品を愛でるばかりと人はいう。 鳥の人は夜目がきかない。予期せぬ黄昏に盲いたかれらは、塔のすみかへ殺到した。翼が絡まり押し合いへし合い、そこへほとりと灯ったあかりが、星のごとく皆を導いた。 「せいぜい、恩を着せてやればよいのに」 アカネは兄に不満を漏らす。ため息が出るほど美しかったクロガネの烏羽は、ぼそぼそと逆立ち見る影もなかった。自らを省みず、〈ガラクタ〉で塔のくらしを支えてきた兄。彼がもう飛べないことは、ア

自由

 はじめは岸壁沿いにいるクラゲだった。  のびちぢみする傘の模様をじっと見つめていたら自分のものになった。鱗の銀にひらめくアジ、陽光を遮る大きな影はエイ、潮流の碧を切り裂くカツオ、次々になりかわり、一体となって水中を駆ける。すかすかだった私の人生は、目についた生命を吸い込みながら奥深く泳いでいった。海は濃密さを増し、まとわりつく無数の渦が時間が食い物が呼吸がからだを通りすぎていく。しまいに私自身が押し流されて、ただの泳ぐ喜びと化した。  ひどく苦しくて目が覚める。明るさできか

ゆれる

 目の前の吊り橋は見るからに頼りなく、峡谷を渡る風にふらふらと揺れている。踏み出した足元がぎぎ、と鳴り、一瞬気が遠くなった。  それでもひたすら出口だけを見据えてじりじり進む。どうにか真ん中までたどり着いてひと息、次の瞬間ぐわんと世界が波打って、わけもわからず頭が爆発した。 「誰?!」  なんとか首だけ回して振り返ると、犯人は真後ろで満面の笑みを浮かべている。 「へへ、吊り橋効果!」 「殺されたいの?!」 「……あれ?なんか間違えた?」 「初めから終わりまで間違ってるよ!!」