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Tw300ss

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Twitter300字SSという企画に参加した作品をまとめました。気軽にどうぞ。
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火影

「あるじ、ここは私が」 「こんな時ばかり臣下ヅラするんじゃない」  城はすでに焼け落ちた。否、この人こそが城である。  影としてともに育った。覚悟を固めた私に、彼はなおも言い募る。 「生き延びるならお前も一緒だ」 「まだ言うか」  拳で鳩尾を突くと、あるじは綺麗にくずおれた。その服を剥ぎ取り、己のものと入れ替えて、くたりと重たい身体を他の者にあずける。 「行ってくる」 「……ご無事で」  かれらが充分に離れたころを見計らい、石積みの上に立ち上がった。 「もはや逃げも隠れもせぬ

選ばない

リョウは優柔不断で、でも有言実行なことで有名だ。数多の娘を泣かせてきたが、約束はかならず守る。誠意があるのかないのか、しかしそういう男だった。 「私たちが溺れてたら、どっちを助ける?」 「うーん、選べないから、両方助ける」 「むりでしょ、みんな死んじゃうよ」 「死ぬのは嫌だな。でもきっと助けるよ」 あれ、めずらしいこともあるんだな、くらいに思っていた。そんな日々も遠くなり、我が子の手を引いて河川敷を歩いていたある日。 「お母さん、あれ」 騒ぎのほうを見やると、屈強な男が幼い子

長いたそがれ

石の塔のあるじはガラクタ集めの変わり者。翼はあれど岩屋に籠り、集めた品を愛でるばかりと人はいう。 鳥の人は夜目がきかない。予期せぬ黄昏に盲いたかれらは、塔のすみかへ殺到した。翼が絡まり押し合いへし合い、そこへほとりと灯ったあかりが、星のごとく皆を導いた。 「せいぜい、恩を着せてやればよいのに」 アカネは兄に不満を漏らす。ため息が出るほど美しかったクロガネの烏羽は、ぼそぼそと逆立ち見る影もなかった。自らを省みず、〈ガラクタ〉で塔のくらしを支えてきた兄。彼がもう飛べないことは、ア

自由

 はじめは岸壁沿いにいるクラゲだった。  のびちぢみする傘の模様をじっと見つめていたら自分のものになった。鱗の銀にひらめくアジ、陽光を遮る大きな影はエイ、潮流の碧を切り裂くカツオ、次々になりかわり、一体となって水中を駆ける。すかすかだった私の人生は、目についた生命を吸い込みながら奥深く泳いでいった。海は濃密さを増し、まとわりつく無数の渦が時間が食い物が呼吸がからだを通りすぎていく。しまいに私自身が押し流されて、ただの泳ぐ喜びと化した。  ひどく苦しくて目が覚める。明るさできか