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『オッペンハイマー』(上・中・下巻)感想

2024年1月25日に早川書房から発行された『オッペンハイマー』上・中・下巻、読了。

海外での映画『オッペンハイマー』評が「難解で複雑」だと言う意見を目にしていたので、「予習がてら原作本を公開までに読み切れれば良いや」と思っていたけど、案外早く公開が決まってしまったので自分にしてはかなりのハイペースで読み進めた(それにしても読み終わるまでに2か月かを要しましたが・・・)。

海外の翻訳書特有の読みにくさみたいなものが自分は苦手で、今作も”彼”や”彼女”が誰のことを指しているのかが分からなくなる時が時々あり、そこには苦慮した。

しかしその読みづらさを超える、オッペンハイマーのフィクションのようなな生い立ちから、事細かに語られる本人とその周囲の人間の緻密な描写と生い立ちの説明がとても面白く、割とテンポよく読み進められる。
自分が知らないことがあまりにも多すぎたし、日本人としては読み進めるのが辛い箇所もあるとは思うが、それでも必読と言ってもいいくらいの作品ではある。

まず勉強になったことの一つは、原爆開発の目的。
当初はナチス・ドイツに対抗するための兵器として、原子爆弾の開発、「トリニティ計画」が始まるがヒトラーは自殺。そこで核となったのがソビエトとの対立で、ざっくり言うと、アメリカが日本を降伏させたという既成事実の作成のため、政治的な意味合いで広島・長崎に原爆が落とされたと言う(詳しくは読んで欲しい)。これらの事実を今回初めて知った。

オッペンハイマーは生涯、原子爆弾の開発については後悔していないとも取れるような態度を見せており、そこには「まぁそうなるか・・・」という気持ちがあったけど、瀕死状態であった広島・長崎への原爆投下には懐疑的であり、水爆には一貫して反対してきた。
その正直さみたいなものが、良くも悪くも彼の魅力であり、多くの人が彼の周りを取り囲んでいた理由なのだろう。

そして、読んだ人にはお馴染み”保安聴聞会”はなんと卑しいことか。
ロバート・ダウニー・jr演じるルイス・ストローズは中巻の終わりぐらいでやっと出てくるのだが彼が本当にいやらしい。
こんなものが平気で存在しており、且つこれがオッペンハイマーの運命を左右することになったのかと考えるといたたまれない気持ちになる。

本の感想に戻ると、まあ登場人物が多いわ、事細かに説明するわでかなりの重量になっていて、「あれ?この人誰だっけ?」みたいなことが下巻まで頻出する。

この原作にノーラン節が加わるとなると、もう考えただけで気が滅入るくらいだが、それでも映画『オッペンハイマー』を滞りなく楽しむには原作を読むに越したことはないと思うし、せっかく時間をかけて原作読んだので映画も3回ぐらいは見に行きたいなと今は期待している。

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