家族のスクラップアンドビルド/無職転生
物語の始まりというのはとても重要で、その物語がなぜ語られなければならないのか、それを明示的にせよ間接的にせよ述べられるべきですが、無職転生においては、両親の葬式に出向かなかったことで家族から家を追い出され、主人公は転生することとなります。広く一般のいわゆる物語というものの基本構造には欠落があり、その欠落を動機としてストーリーは進行していきます。そのため本作では、"家族を失った主人公"というのが物語の始まりであり、そして新たに家族を作ることが至上命題になります。
しかし、一口に家族を作るといっても、転生して新たに別の家族の一員になりました。終わり。という訳にはいきません。問題は、なぜ家族を失うに至ったのか、その経緯や理由であり、また、それについて主人公が抱える課題をどう乗り越えるのかというところにあります。
そのため、父であるパウロとの再会や妹であるノルンとの和解など、主人公が家族を作るうえで抱える問題を解決しようと奔走する度に、転生前の家族を思い出さない訳にはいかないのです。つまりは、パウロやノルンと向き合うということは、主人公にとっては、転生前の家族と向き合うということに等しいのです。
無職転生の魅力はここにあると思います。転生前と転生後それぞれの家族とどう向き合うのか、パウロと向き合うには転生前の父と向き合わなければなりませんし、ノルンと向き合うには転生前の兄の立場を慮る必要があります。作中において、家族は重層的な意味を持ち、パウロやノルンと和解したとしても、既に家族を失っている状態はある意味で継続しているのです。
それゆえに、家族を作るという点において切実さがあり、和解という言葉以上の意味が生まれるのだと思います。
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