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手抜き介護 ㊶海老天そば

変なバトルがあってから、母が何となく機嫌良くなったように見える。今日は「お昼におそばを食べようか」だって。それは「おそばが食べたいから、お昼に作って」という意味。でも私はちょっと、用事があった。冷蔵庫には残り物も、温めれば食べられるものもたくさん入っている。

「帰りは12時過ぎると思うから、先に何か食べてて」と言って出かけ、12時半ころ帰ってくると、母が自分でおそばを作り父と食べた跡があった。

「アンタ、お昼食べたの?」
「いや、食べてない」
「おそばあるよ。麺はゆでないとないけど」
「ああ、もらうもらう」

お鍋にはちょうど1人分くらいのスープが残っていた。母は昔から出汁をとるのが上手で、年越しそばやお雑煮はいつも絶品だった。でもこれは、市販のめんつゆをじゃぶじゃぶと薄めたもので、小揚げが1枚そのまま浮かんでいる。冷凍の海老天をチンして載せろと、冷凍庫からパックを出してくれた。

温まったスープをどんぶりに空けたら、底から鶏肉がたくさん出て来た。冷蔵庫に残っていた量から考えると、多すぎる。もしかしたら母は、私に残すためにお肉をほとんど食べていないかもしれない。

母が作った何かを食べるのは、これが最後だったりして、と思う。戦時下に子ども時代を過ごした人だ。私には想像もつかない、生きる厳しさに接していただろう。どうしても、「今」と「自分」を基準に考えてしまうけれど、体力も経済力も情報量もこちらの方が圧倒的に余裕がある。自分も努力が足りないな、と感じた年の瀬の昼下がり。

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