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父と暮らす ⑱ヘアカット

昨日のお坊さんは旧知の間のせいか、お話が長かった。玄関先まで見送ったら、湯飲みを片付ける間もなく、父が再びバリカンを取り出した。
 
普通は6㎜、12㎜とカートリッジがついているものだけど、そんなものは捨てたようで、2㎜のボディー部分しかない。前回オイルを塗ろうと刃を外したら、それまで5年間1度も外したことがなかったらしく、髪の毛がいっぱい詰まっていてびっくりした。よくあんなので今まで刈ってたもんだ。
 
父の頭皮は薄く、3cm近くに伸びた髪は細くて絡まり、刈りにくい。ちょっと間違えたら落ち武者になりそう。夜道を歩くと、人を怖がらせるかもしれない。何とかフツウの老人に見えるよう丁寧にやっていたら、面倒くさそうに「もう良いべ」という。10分も経っていないと思うけど、さっさと済ませろということらしい。
 
父が髪の毛を捨てに行った帰りに鏡を見ていたので、「結構いい感じでしょ?」と声をかけたが、聞こえないのか聞こえないフリをしているのか、返事はなかった。これで見た目はお坊さんと同じ。でも父の語彙は、少なすぎる。
 

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