見出し画像

手抜き介護 65 けもの道

父は除雪が嫌い。昔、商売していたころも、店の入り口まで一人通れるくらいの細い道をつけるだけだった。道具を使わないことも多く、長靴で雪を蹴って散らしたりする。隣近所はみな、広く敷地全体を雪かきしていた。熱心な家は、真冬でも地面が見えるほどで清々しい。これも、夫婦げんかの大きな原因の一つだった。

「よその家、見てごらん! みんなきれいにかいてるのにウチだけ。格好悪い!」
「店に入る道は作った」
「2、3人で来たら入れないじゃない!」
「縦に並べば、入れる」

そんなやりとりが延々続く。店舗を構えているのなら、どこからでも入りやすいように広く空けておかないと、ウエルカム感がない。積もった雪をそのままにしていたら、子ども連れのお客さんが足を取られて危ないことも考えられる。今思えば私がしても良かったんだろうけど、当時は気持ちが尖がっていて浮かびもしなかった。

今の実家の除雪は、昨年まで私が、今年は兄が滞在してやっていた。しかしその兄も自宅に戻り、また2人の生活になった今朝方、少し積もったらしい。ヘルパーさんに外仕事を頼むわけにはいかないから、父の出番だ。父は心臓の既往歴があるため、負担にならない程度の運動が勧められている。

玄関から通りまでは、3、4mくらい。新聞配達に支障がない程度の、細いけもの道があれば十分だろう。昔のように長靴を履いて、数回踏み固めれば終了だ。母は外にどんな道がついたか確かめることも出来ないし、大げんかにはならないはず。時代がやっと、父に追いついてきた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?