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手抜き介護 135 譲り合い

両親が通う病院は地域の中核の1つで、いつもとても混んでいる。ようやく母の番号が掲示されて待合室に入ろうとしたら、座れそうな場所がない。奥の人がこちらの車いすに気づいて、空けてくれそうな素振りを見せたのだけど、わざわざ出てきてもらうのも気が引けるのでまたホールに戻った。

人が入れ替わったすきに母だけ診察室の前に置き、自分は少し離れたところで呼ばれるタイミングをうかがう。そのうち母近くに空きが出来て座ったら、すぐに診察室からお婆ちゃんを連れた私くらいの女性が出てきたので、また席を立った。

邪魔にならないように壁に張り付いていると、お婆ちゃんを座らせたその女性が、「草方?」と声をかけてきた。今でも唯一交流がある高校時代の友人だった。「えー!」と甲高い声を上げて盛り上がり、すぐ我に返るアラ還ズ。「さっき、座るとこなくて戻ってったの、草方なんだね。遠慮深いなと思ってたんだよ」という。

たくさん人がいる中で、1人だけ「譲りましょうか」的に少し動いたのが、彼女だった。50年近くぶりにお母さんに挨拶すると、「あら、若いわねえ」なんて言われて思い出す。そういえばいつも、おっとりと何かを褒めてくれる人だった。

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