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de&iマガジン〜ダイバーシティ関連記事〜

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ダイバーシティ・コンテンツ・リサーチャー草冠結太のマガジンです。ダイバーシティ&インクルージョンを感じられるイベントやコンテンツに関する記事をまとめます。あとヒップホップも。
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#ダイバーシティ

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #5 罪と妻

テーブルで、スマホがブルブル震え上がっていた。 画面の表示は、営業チームのメンバーK。彼が「いい報告と悪い報告あります」という時は、結局どちらも悪い報告。そんなナイスな後輩だ。 来るべくして来た、バッドニュース。いや、ワーストニュース。テレフォンパンチとは、よく言ったものだ。意味ちがうけど。 在宅勤務日だった私は夕食の支度を中断し、ひと呼吸おいて通話をONにした。 「Kですけど今いいですか?」 「いや」 「あのチャット、メンバーみなさん入ってますけど大丈夫ですか?」 今い

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #4 めまいと食欲

オフィスに着くと、後輩のこれ見よがしな白Tシャツが目に入った。肩・胸・腕の筋肉が張り切って、精肉売り場に並べたくなるほどだった。 「おつかれ。またバルクアップしてんな。週に何日ジム行ってんの?」 「9回です!」 自宅以上じゃねぇか。この後、プロテインの厳選や摂取タイミング、そして質の高い睡眠まで、いかに生活を筋肉に捧げているかというプレゼンが続くのだが、「仕事をサボらないと辻褄が合わない」と私が勘づいたことに、彼はまるっきり気づいていなかった。 「草冠さんは痩せましたね。ダ

親子で体験した「目が見えない」の向こうがわ〜ノービジョン・ダンジョン冒険記〜

「どこがゴールデンやねん」 妻がカレンダーに毒づいた。 春の大型連休。谷間の平日は有休奨励日とかいうやつで、正社員様はみな休み。そのシワよせは契約社員である妻にきて、彼女の眉間にも深いシワがよっていた。 似たくないところほど似てくるのが夫婦。私も飛石連休だった。 とはいえ、腐っても連休。ふだん行けないところへ、娘を連れていきたいと思っていた。 ハイシーズンの旅券に手が出ないわけじゃないが、断じてそうじゃないが、身近にだって知らない世界への扉は開いていたりするものだ。 だ

刑務所アート展と私の父親たち

全国66か所で運営されている。 つとめている人は、2022年末時点で約3万6,000人。 これが刑務所と受刑者のことだと知った時、私は 「上場企業かよ」 と驚いてしまった。 しかしよく考えれば、意外でもなんでもない。刑務所は法務省が所管する、三権分立の重要な一部なのだ。 刑務所という制度について。所内の環境について。 そして何より、受刑者について。私はその日、多くのことを学んだ。 今年(2024年)の3月下旬。東京・北千住で催されていた、刑務所アート展でのことだった。 ア

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #3 嫌な予感とカウンセリング

嫌な予感ほど、よく当たる。 初カウンセリングの日も、のっけから不吉だった。 降水確率は50%。降るか降らないか半々のはずが、降る気満々な強雨となった。 そもそも確率50%というのは、予報と言えるのか。そんな日はいっそコイントスで決めてくれたほうが、諦めもつく。 びしょぬれで到着したメンタルクリニックの窓口では、受付の人がスマホに没頭していた。 右手でスクロール&ストップを繰り返し、左手で私の診察券と保険証の受け取る。離れ業だった。 その間、視線は画面に固定され、他には一切

トランスマーチとチョコレートケーキ

娘の名づけで、後悔していることがある。 ヤバッ。我ながら、まさかあんな不覚をとるとは。 そしてこんなに早く、娘にバレる日が来るとは。 その日とは今年の3月31日。国際トランスジェンダー認知の日だった。 私と娘は東京のJR新宿駅前で、トランスマーチのパレードがやってくるのを待っていた。 正式名称は「東京トランスマーチ2023」。トランスジェンダーの権利と差別反対を訴える催しで、私たちは沿道から声援を送ろうとスタンバっていた。 目の前は、日本最大のバスターミナルの一つ、バス

もしS君が母と夫婦になれてたら〜トランスジェンダーと家族と結婚と〜

彼は美輪明宏様の生まれ変わりなんじゃないか。 そう信じているほど、私はドリアン・ロロブリジーダさんを敬愛している。その氏が先日、結婚された。パートナーはトランス男性とのこと。 数日後、トランス女性とトランス男性夫婦のインタビュー記事を読んだ。 どちらのカップルにも幸多からんことを。どうか末永く。 ちなみに。2024年3月時点で、美輪様はまだ死んでない。たぶん美輪様は死なない。 それはさておき。ニュースを目にして、むかし一緒に暮らしていたS君のことを思い出していた。 私が大

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #2 そういうとこだぞ、Y先生

薬って、効くんですね。 それを痛感した一ヶ月だった。 前回の診察後、かなりヘビーな日々が続いた。 めまい。倦怠感。思考がフリーズするほどの焦燥。 うなされて起きる、という夢を見て、うなされて起きたこともあった。悪夢のマトリョーシカ。 筋トレなんて夢のまた夢。なにせ身体のどこにも力が入らない。 そんな生きた心地のしない時間に、薬は心強かった。 優しく効くもので、かつ微量。症状の軽減は薄皮一枚ほどだが、それだけでも心持ちはずいぶん違った。溺れるような息苦しさに襲われることもな

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #1 人気の無さを気にする担当医

「とりあえず、そのポケモンGOをお休みするのはいかがでしょう?」  担当医が言った。ニコリとしたものの、笑顔には見えなかった。想定外の結論ゲットだぜ。 夕暮れの診察室。私は初めて心療内科を訪れていた。 「いやね、先生。レアポケモンをゲットすると、娘が喜ぶんてすよ」  「でも、その娘さんを泣かせちゃったわけですよね?」 ぐうの音も出なかった。 隣の部屋では心が寝込んでしまった誰かが、窒息しそうな胸の内を打ち明けているに違いない。なのにこちらは、最初の診断がポケGO禁止。情けな

【ベスト10】2023年面白かったダイバーシティな映画たち

2023年は60本以上の映画を観ました。中途半端な本数。 その中でもとくに面白かったダイバーシティな映画を10本に絞ってご紹介します。今も観られるものがあるので、ご参考までに。 「チョコレートな人々」 代表の夏目さん最高。チョコレート美味しそう。というか美味しかった。 「エゴイスト」 鈴木亮平くん、宮沢氷魚くん、最高。 「二十歳の息子」 「父親」になったゲイの男性と、施設で育った「息子」。これは少し不思議な、普通と違った「家族」のドキュメンタリー。 「ストレンジ

元・結婚情報誌編集者が見た映画「老ナルキソス」の面白さと、ゼクシィのゆくえ

かつて、結婚情報誌の編集者でした。 今はダイバーシティをテーマにしていることもあり、セクシュアル・マイノリティに関する作品や報道に触れることが増えました。 そんな私にとって東海林毅監督の映画「老ナルキソス」は、今年の日本オレデミー賞の一つ。 ゲイとしての生き方やカルチャー、それらを取り巻く社会を、過去から現在へつないで描きながら、その延長線上に家族というものを問いかける。 映画というアートフォームはこういう作品のためにある、とまで感じました。 波打つ感情がようやく落ち着

ルールを疑え。パラスポーツイベントで感じた、「対話」の先にある可能性。

ひたすら怒りをぶつけて、何か解決したことありますか? 私はありません。 この歳になると、思うのです。人間、怒り方にこそ芸が必要だと。 パパ、イベント運営スタッフに噛み付く というのもですね。先月「BEYOND STADIUM 2023 パラスポーツ ワンダーランド」というイベントに行ったんです。小一の娘と。その名の通り、パラスポーツを知ったり体験したりするイベントでした。 たかだかのスポーツイベントに”ワンダーランド”とは大きく出たもんだな、と思っていたら。 ゲートをく

キッズも楽しい!LGBTQ+イベント「グラデーションキャンパスin関東」に娘と行ってきた

小一の娘が、スキャンダルを報じてきた。 「この前ね、Tくんがね、学校でね、男の子にいきなり口にちゅーされたんだって」 ほほう。そりゃまた随分とトキメいちゃう公立小があったもんだ。笑いながら聞いている私に、彼女はこう続けた。 「男の子にだよ?」 おかしいでしょ?と、同意を求めてくるような表情だった。あ、そっちでしたか。 公教育の現場でちゅー。同意なしでちゅー。段階を踏まず本丸にぶちゅー。 ケシカランことのあるところに、ドラマあり。ラブストーリーはたいてい、いつも突然だ。

言葉を使って生きているすべての人に読んで欲しい本「まとまらない言葉を生きる」

うっかり往きの列車だけで読みきってしまった。そんな本がある。 出張の移動は長いから、そのお供にと思って、それなりに厚みのある一冊を選んだのだけれど。目的地到着の車内アナウンスが聞こえる頃には、ページが尽きていた。 なぜなら、どのページもパンチラインでいっぱいだったからだ。しかも文章が美しい。わざとらしくない美文は、お酒のように後を引く。おかげで車内販売でビール買うの忘れたし、帰路のためにとっておくことなんて考えられなかった。 「きっと俺は、またこのフレーズに会いたくなる