みじかい小説 #137『風』
朝からベランダをたたく風の音が強くて、ハルマは布団のなかで長い時間目をつむったままその音を聞いていた。
ベランダに吊ってあるポールの揺れる音、干してある雑巾が窓ガラスにあたる音、プランターに植えてある植物が網戸をたたく音、どこかでプラスチックの容器が転がっていく音、あるいは風自身が細く隙間を通る音、はたまた小雨が波となって壁をうつ音。
そんな音を、ハルマはさきほどからずうっと布団の中で耳をそばだてて聞いている。
窓一枚を隔てたそれらの音は、布団でさらに隔てられ、どこか現実味がなく耳に届く。
大きなあくびをひとつして、ハルマはぐるりと寝返りをうって仰向けになる。
うすく目を開けると、だだっ広い白いクロスの天井の中央に、ぽつりと点いた常夜灯が視界に入る。
ハルマはもうひとつ、大きなあくびをして再び寝返りをうって横向きになると、そのままひざを抱えてまるまった。
しばらく顔を布団にうずめていたけれど、ふいに思い立ち腕を伸ばす。
枕元の充電中のスマホをひっぱってきて、ぷつと電源ボタンを押す。
「今日の天気:くもりときどき雨、強い風に注意」
ニュースの上の地方の天気情報の欄に、でかでかと赤字がおどる。
今日は外に出たくないな。
ハルマは思う。
いや、今日みたいな日は完全武装してその身を強風の中に投じるのが楽しみってものかもしれない。
そんなふうにも思う。
「ハルマ、もう起きなさいよ」
階下から母の呼ぶ声が聞こえる。
時計を見るともう10時。今日は休日。予定はない。
ハルマはもういちどごろりと寝返りをうつと、しっぽをまいた犬のようにくるりとまるまって目を閉じた。
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