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みじかい小説 #135『C.レモン』

 部活帰りのリョウは、アスファルトからあがってくる春の陽気に高揚しながら家路についていた。

 晴れあがった空が抜けるように広く、毎日通る通学路がいつもよりまぶしく感じられる。
 土手の桜並木は、あらゆる者を祝福しているようだ。

 見ると、いつもなにげなく通り過ぎていた販機が、今日はなんだか何かを主張しているように思える。
 リョウは立ち止まると、注意深く、その並べられた缶のオブジェを眺めた。
 すると、いつも買っていた「あったか~い」の列にあった「ゆずレモン」が見当たらない。
 三列あるうちの二列が「あったか~い」だったはずなのに、二列あった「あったか~い」が一列になっており、空いた一列を「つめた~い」が占めていた。
 春はこんなところにまで。
 
 リョウはなんだかうれしくなって、「つめた~い」にある130円の「C.レモン」のボタンを押した。
 がこんと音をたてて、自販機はC.レモンをはき出す。
 リョウは、ひざ近くの取り出し口からそれをひろいあげ、揺らさないようにそうっとふたを開けた。
 ぷしっと音が鳴る。
 C.レモンはゆずレモンと違い炭酸飲料だから、注意して飲まなければならない。
 ひとくち口をつけて、そのまま来た道を引き返す。

 今日は部活も早く終わったし、ひとり花見にでも洒落こもうか。

 C.レモンを片手に、リョウは土手のベンチの一つに腰かけると、いつまでも桜を眺めていた。


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