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みじかい小説 #143『プリザーブドフラワー』

 浩二こうじにとっては久々の休日だった。

 おそくまで寝ていて、起きると12時をまわっていた。
 外出する気にもなれないので、冷蔵庫から適当に食べるものをみつくろって胃に入れたあとシャワーを浴び、ひとりネットサーフィンに興じる。

 浩二にはちょっとした趣味がある。
 MAKUAKEというサイトで立ち上がっているプロジェクトに寄付をするという趣味だ。
 今日はどんなプロジェクトに寄付をしようかな。
 浩二がそう目を泳がせているときであった。

 見慣れない言葉が目に飛び込んできた。
「プリザーブドフラワー」
 なんだろう。
 調べてみる。
すると、プリザーブドフラワー(Preserved flowers)とは、生花や葉を特殊液の中に沈めて、水分を抜いた素材だという。
 
 サンプル画像を見ると、生花とみまごうほどのなまなましさで、時を止められた植物が映し出されている。

 
 浩二が見つけたのは、苔のプリザーブドフラワーだった。
 見た目がシンプルで、全体的に品があり、大人っぽい部屋に似合いそうだ。
 浩二はその画像をじっくりと眺める。
 浩二の趣味にピタリと合う。
 
 ちょうど部屋の中に植物を置きたいと思っていたところだ。
 しかし部屋の中に植物を飾るのは大変だ。
 切り花だと毎日の水替えがまず面倒だ。水替えを怠ると水が濁る。変なにおいもしてくる。花がしおれる。結局そういうわけで2,3日で花をだめにしてしまう。
 鉢植えのものだって大変だ。毎日の水やりが必要なのはもちろん、室内だとほこりが積もって白くなるから掃除をしてやらなければならない。カビだって生えやすい。カビが生えると室内が湿った感じになってくる。
 植物を育てるというのは、手間暇かかるものなのだ。
 マメでないとつとまらない。
 そこへいくと浩二は根っからのぐうたらであった。

 そんな浩二にとって、この「プリザーブドフラワー」というのはいかにもよさそうに聞こえる。
 なるべく長く花を楽しみたいという願望が生み出した製品なのだろう。
 イメージは悪いかもしれないが、ドライフラワーが花のミイラだとすると、プリザーブドフラワーはホルマリン漬けといったあたりか。
 調べてみると、ゆうに5年はもつらしい。
 うん、悪くない。

 広告を見ると、周囲の木枠にもこだわりがあるらしい。
 一品一品が職人の手によるものだという。
 家にこんなインテリアがあると一段とおしゃれに見えるだろう。
 浩二は何度もイメージテストを行った末、このプロジェクトに寄付することに決めた。

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