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みじかい小説#168『DJ』

「ハローエブリバディ」

 六畳間の一室に、底抜けに明るいDJの声が響き渡る。

 時刻は深夜2時、ほとんどの人間は眠りにつき、夜型の人間が起きている時間帯だ。

 颯太そうたはさきほどコンビニで買ってきたポテチの袋を開け、昨夜に引き続きペンタブでイラストを描いている。
 お題は「戦国時代」。
 かわいい女の子が鎧姿で勇ましい立ち姿をきめている絵を描いている。

 ツイッターでは、ゆるくつながっている同じ趣味のフォロワーたちが、続々とイラストをアップしている。
 うまいなちくしょう。
 はやく俺も仕上げないと。
 そう思うほど、目の前の自分の絵が、いかにも稚拙に見えてくる。
 いや、実際、颯太の描く女の子の絵は、どこか垢ぬけなくかわいらしいというよりは不気味な絵に近かった。
 どうして俺の絵はかわいくならないかな。

 おっぱいをでかくすればいいという話ではない。
 ちっぱいだってかわいい絵を描く人はいる。
 何が違うんだ――。
 颯太はだんだんいらいらしてくる。

 どこかで烏の鳴き声がする。
 なんだこんな時間に。迷惑な奴だ。
 颯太はいらいらしながらポテチに手を伸ばす。

「さー夜も深まってまいりました。今、君は何してる?」
 DJはのりのりでアンケートを募集している。
 くそ。

 颯太は全然進まない自分のイラストから一旦離れ、気分転換にラジオのアンケートに答えてみることにした。
 えっと、「イラストを描いています。by名無しの権兵衛」と。
 颯太はそれだけ書くと、そっとタイムラインに投稿した。

 それから5分ほどたち、流行りの曲が一曲流されたあとの事、なんと颯太のアンケートが読まれたのである。
 DJは言う。
「ハァイ、名無しの権兵衛さん、イラスト描くの頑張ってね★」
 たったそれだけのコメントだったけれど、なんだか颯太のなかで熱くなるものがあった。

 深夜2時、アパートの他の住人は寝静まっている。
 そんななか、颯太の部屋のあかりだけが煌々こうこうと光っている。
 六畳一間の一室で、颯太は一筋の涙を流していた。

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