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みじかい小説 #148『眼科と花びら』

 県内の入学式という入学式があらかた終わり、同時に桜は役目を終えたかのようにはらはらと散り始めている。

 かねてより、かすみ始めていた目をみてもらおうと、今日の午前中、私は朝から眼科に赴いていた。

 目がかすみはじめたのには、はっきりとしたターニングポイントがある。
 先々週だったか、長くパソコンで作業をする日があったのだ。
 どうもそれ以来、寝起きや風呂上がりに、決まって視界がぼんやりとにごるのだ。

 眼鏡でどうにかならないかしら。
 私は先週、思い立って眼鏡屋に行ってみた。
 すると細かな検査をしてもらった結果、「まずは眼科に行ってください」との結論に至った。
 私はなんだかおもしろくない気がして(新しい眼鏡というアイテムにワクワクしていたこともあり)すごすごと眼鏡屋を出た。
 結果的にそのアドバイスは正しいものだったのだけれど、その時の私はすぐにでも解決したい気持ちにせかされていたのだ。

 そして数日が経った。
 それだけの時間が経過しても目のにごりはおさまらない。
 そのためたまらずネットで「目 にごる」で検索してみることにした。
 すると「白内障」という病気にぶち当たった。なんでも老化とともに皆がなるものらしく、手術は3割保険で数万円とのこと。
 数万円かあ……。
 気の早い私は、もう自分の目が白内障であると決めてかかり物事を進めていた。

 しかしいきなり手術というわけにもいくまい。
 私は観念して眼科に行くことにした。
 それが今日のことである。

 眼圧の検査や、視力検査を細かにしてもらった結果、白内障ではなくアレルギー性のものだということだった。
 上まぶたの裏をひっくりかえして見てみると、なるほどぶつぶつでいっぱいだった。
「じゃあ、両目ともに点眼薬だしときますね」
 そう言われ、私はまた、すごすごと眼科を後にすることになった。

 眼科を出ると、目の前の土手に桜並木が広がっていた。
 幸い、目のかすみは出ていない時間帯だったので、桜の花びら一枚一枚まではっきりと見ることが出来た。
 いつまでも目は大切にしたいもの。
 はらはらと散ってゆく花びら、地面をころころと転がる花びらの一枚一枚を眺めながら、改めてそう思った次第であります。

 

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