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危険な旅 Ver0.9

(本作の修正版をnoteに上げなおしています。でも、いただいたスキを残すためにこの版も残しておきます。)

普通こういうことを人と話すことはないし、それどころか自分でもはっきりとは意識していない、捉え所のない、しかし確実に頭の中にある想念を小説の筋に落とし込んで、この小説を読んだ誰かの心に共鳴するものがあればうれしいと思う。
(全15000字)


    1

ワイ(私)、朝倉輩我(ともが)は目を覚ました。まだ靄{もや}のかかった脳に飛び込んできた光景のせいで身体が引きつった。考える間もなく逃げようとする防御反応を引き起こしたのは、いくつかの雲が眼下に浮かぶ風景だった。別にどうということはない。今は旅客機に乗ってるのだから。窓の方を向いて寝ていたので目を開けたときに視界が機外の景色だっただけ。

ワイはしかしその景色が嫌いだった。高所恐怖症ではない。だが雲を下に見下ろすのは嫌だ。雲は頭の上あってこそ日常だ。雲が下にあるというのは自分が雲より高くに居るということでそれは日常ではない。そして、かつてこれに近い高空から長時間落下したことがある。

それよりも今の問題は、びくっとなった身体の痙攣が隣席になかなかの被害をもたらしてしまったことだ。左席の安っぽいプラスチックのテーブル、前席の背もたれから引き降ろされていたテーブルに腕がぶつかって、テーブルにはコーヒーの紙コップが置かれていて、幸い倒れはしなかったものの、けっこうな量のコーヒーがテーブル上にぶちまけられてしまったのだ。隣席の客は四十がらみの男、体格はがっしりめ。ブレザーにノーネクタイ、髪はきちっと油で固め、こんなことがあっても動じず油断のない表情。どこにも隙がない。要するに何か面倒を起こす相手としてはできれば避けたいタイプだ。

「あ、すいませんすいません」
謝ると同時に自分の前ポケットに手を突っ込んでさっき食事と一緒に出されたおしぼりを使わずにいたのを急いで探し出そうとする。しかし、そうしている間に男は手を上げて客室乗務員を呼び、すぐ事態を飲み込んだ乗務員は大量の紙ナプキンで手際よくテーブルを綺麗にした。

ワイは「服は大丈夫でしたか」と相手を気遣う旨を伝えたかったが、日本語が通じそうになかったので黙ってようやく探し出したおしぼりを差し出してみた。だが、男はちらりと見ただけで何も言わない。ばかりか、それ以上こちらに目を向けることもなくこちらをすっかり無視する態度だ。

これが普段であれば、「人が謝ってるのにその態度は何だ。こっちだってわざとしたわけじゃないくらいあんただってわかるだろ」くらいのことは言ってやるのだが。しかし、なにしろ言葉が通じない相手では調子が出ない。しかたがない、そうくるならこっちも徹底的に無視してやる。

    2

眉のすぐ上から日に褪せたオレンジ色の幅広いバンダナで額を覆い、頭に乗せた三角帽からはみ出た長髪はざんばらでロックスターのようだ。髪を所々数十本束ねて三つ編みにしてとりどりの色のビーズを通して留め、それ以外の毛先は思い思い四方八方を向いている。操舵輪を持つジャック・スパロウの目に映るのは見渡す限りの大海原。強い光が海の青の深みを増している。顔をなぶる風はいたくここちいい。天候に恵まれた航海日和。

ジャック・スパロウはその快感に浸って身体が訴える不快のひとつを無視しようとしている。しかしさっきから失敗している。強い喉の渇きは耐えがたいほどだ。船に水は一滴も残っていない。早く水を補給できる陸地に行き着かなければならない。もう海賊船は反乱寸前だ。しかし今、船の居る場所は海図にない未探索の海域で、すでに一昼夜行けども行けども島影は見つかっていない。

耐えがたい喉の渇きはさっき目が覚めたときから喉がからからで何かを至急飲みたかったワイだ。隣の男とは冷戦状態でずっと無視を貫いている。それなのにもし乗務員を呼ぶためにいくぶん体を左に向けて声をあげたならば、男がこちらを見て目が合ってしまう可能性がある。それはこちらから冷戦状態を終わらせる手を差し伸べたことになるかもしれない。もう少し機会を待とう。

この機に乗り込むときに入り口に並べてあって、興味からいい加減に選んで持ってきたカバー付きの雑誌は渇きを紛らわすにはちっとも役に立たない。大判の映画関係の雑誌だが日本語ではない。全く読めずぱらぱらと写真を見るのみ。船の上に立つジャック・スパロウに扮したジョニー・デップの写真、別の写真はいかにもスター然とした高級な仕立ての服でとりすました顔のジョニー・デップ。昔はいざ知らず、大スターとなった彼がエコノミー席で旅行するはずもなく、彼だったら指一本上げれば即座にオレンジジュースでもコーヒでもビールでも手の込んだカクテルでさえ目の前にたちまち現れるのだろう。いまいましい。

だいたいワイは海外旅行など少しも来たくなかった。抹茶アイスが思わぬ爆売れをして会社始まって以来の利益を上げ、前から予定していた社長の海外工場視察に各部署から一人ずつ追加で参加することになったのがそもそもだ。視察以外の観光の予定もたくさん組まれていて、好業績の褒美の意味合いもあった。ワイの部署では深沢と田口がとても行きたがってた。どちらが行くのだろうと思ってたら二人とも仕事の日程がどうしても合わず、部署から誰かは行かなくてはならないのでワイに指名が回ってきて断ることができなかった。それからというものは不満たらたらの二人と廊下ですれ違うのさえ気が重いありさまだった。

「朝倉、パスポートは間に合うのか?」
「ああ、出発日の四日前には受け取れるらしい」
「気楽なもんだなあ。俺なんかいつだって準備万端、明日から海外出張になったって大丈夫なんだがな」
「深沢はしょっちゅうアメリカに行ってるもんな。俺は海外は初めてだ」
「おやおやこれはこれは、深沢さんと朝倉さんじゃないですか。お土産の打ち合わせですか? 私は贅沢は言いませんから、高いものじゃなくて全然大丈夫ですよ」
「土産なんかより俺はコロッセオを見たかったんだ。ブルース・リーの映画にも出てたところだよ。知ってるか?」
「そういう話なら私はオードリー・ヘップバーンの座った階段に座ってみたかったですね。ローマの休日。あそこに座ってアイスクリームを食べたい。何か新商品のインスピレーションが湧きそうですよね」
「田口、知らんのか。あそこで座って物を食べるのは禁止になったんだぞ、確か」
「え、そうなんですか?」

だいたいイタリアは遠すぎて、直行便でも13時間掛かる。何の思い入れもないワイには飛行機に乗っている時間は苦行でしかない。どうせならもっと近くのハワイとかなら良かったのに。ビーチでゆっくりできたらずっと楽しめただろう。だが、ハワイには社長が視察したくなるような大規模アイスクリーム工場がなかった。

それなのに当の社長が土壇場で来られなくなった。スキーに行って転んで足を骨折しただと? 年を考えろよ、まったく。まあいい、これで視察旅行も中止か延期だろうと密かに喜んだものだ。しかし出張は予定通り行われることになった。そして、ワンマンで何事にもリーダーシップを発揮しないではいられない社長を欠いてからは視察旅行団の話はいろいろとぐずぐずし出した。さまざまなことがぎりぎりまで決まらなくなったりした。

今日空港に着いてからも、この機の座席は団体で押さえたはずなのにひとつの席だけがぽつんと離れていた。皆が嫌がる雰囲気の中でワイがその席に座ることを志願した。海外旅行ではしゃいでる奴らの側より一人で離れている方がましだと思ったんだ。でも言葉の通じない奴が隣だと渇きに苦しむ危険が待っているなどとは思いもよらなかった。

    3

徐々に外が暗くなってはるか下にはときおりの漁り火と覚しき小さな光の点が見えるばかり。広い海原の上を飛んでいるのだ。やがて照明も落ち、機内は夜モードになった。客室乗務員もめっきり薄暗い通路に姿を見せなくなった。もう飲みものを頼むには呼び出しボタンを押すしかない。隣の男が寝たら呼ぼうと思うのだが、男はずっと手元の明かりをつけてペーパーバックを読んでいる。どうせ愚にもつかない小説かなんかだろう。そんなのを読むくらいならいっそ音楽でも聴いたらいいのに。そうすればうまいこと眠くなるかもしれないぞ。

男が寝ることのないまま時間が経ち、機内に明かりがついてアナウンスがあった。皆がもそもそしたり背もたれを起こしたり動き出した。どうやら到着のようだ。

着陸のことを考えたとたん急にそわそわと落ち着かない気分になった。恐怖心。着陸が怖いという思いが吹き出す。全く想定外だ。恐怖が強烈に胸に迫る。しかしそれは理屈に合わない。ワイは国際線はもちろん国内線でも飛行機というものに乗ったことがなかったのだから。しかし、ないはずのおぼろげな記憶は強硬に乗っていた乗り物が墜落したことがあると主張して止まない。

警報音が鳴り続け、計器の針が狂ったように踊り、見慣れぬ姿の乗務員はそれでも冷静にせわしくよどみなく手を動かし続ける。私は迫り来る地面から目を離すことができず、衝突の地点から1mmでも遠ざかろうと腕をつっぱって背中をシートに精一杯押しつける。耳をつんざく叫びは自分の声か。

ドシンと強い衝撃があり、周囲から不満のうなり声が出る。飛行機が空港に、ローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港へ到着したのだ。ワイは墜落せずに無事着いたという事実をおのれの脳みそに言い聞かせ、忙しく瞬きをしながらなんとか恐怖を鎮めようと深く息を吸ったり吐いたりしていた。

機から降りるために座席から出て通路に並ぶ。目の前は隣席の憎き敵の男。男の体の幅が無駄に広くて前方の視界をほとんど塞いでいる。すきまからちらりと同僚達の姿が見えた。機を降りて空港の建物に入った所にはしかしいくら見回しても誰の姿もなかった。首を伸ばして前方を探しつつ振り返って後ろを見たりしながら着いたのは入国審査の列だ。

長い列の最後尾について、前の人々の背中をよくよく吟味したが見覚えのある姿は見つからない。入国審査はここしかないはずだが。真新しいパスポートに判が押され入国審査のブースを出たところにもワイを待ってくれている者はなかった。さらに進むとだだっ広い荷物受取所で、自分の便の荷物の出てくる回転台を探し当てたときにはどんどん荷物が出てきているところだった。そしてそこにも誰もいなかった。

みんなずいぶん薄情だ。見よう見まねでカートを持ってきてスーツケースと手荷物を載せて税関検査の列に並ぶ。そろそろ憂鬱になってきた。税関を抜けたすぐ外で皆が待ってくれていればいいが。そこにも居なければ空港のどこを探せばいいのか。大きな荷物を持って広い空港をあちこち探し回ることになることを思うとうんざりだ。

税関を出たところもハズレ。ようやく不安が押し寄せ、カートを押しながらの小走りで空港の端から端までここかあそこかとかけずり回った。探しあぐねて汗みどろになり、渇きにもはや動けず、行き倒れそうなところに雑貨店があった。冷蔵庫に冷えた紙パックのジュースを見つけて、1リットルを2つ購入した。オレンジみたいな果物を二つに切った瑞々しい写真が印刷され、そのオレンジ色と濃い青い色に上部が塗られてイタリアらしい色の取り合わせで、上端の真ん中にプラスチックの栓がある。それをねじって開ける。1リットルを一気に飲み干す。予想したよりもはるかに鮮烈に、美味かった。たまらず残るパックも開けて3分の1ほどを飲んだ。

それはただのオレンジ・ジュースではなくて、ブラッド・オレンジ・ジュースだった。紙パックが不透明だから色が分からなかったがジュースは間違いなく赤ワインのように真っ赤なはず。独特の芳香はまちがいない。そういえば、ブラッド・オレンジはイタリアはシチリア島の特産品だった。シチリアはイタリア半島の長靴に蹴飛ばされている島だ。もう何十万年も蹴飛ばされ続けている。蹴っている長靴はヒールが高く明らかに女性のブーツ。粋なファッションに身を包んだと覚しき女性に蹴られていることには何か物語性を感じる。

そしてこれは全て人間の妄想にすぎない。この数十万年シチリア島はそんなことは何も知らず、どんなものからも蹴飛ばされずにただ存在している。

    4

しばらくの後{のち}、ワイは到着したフロアからひとつ上の階にいて、乗ってきた機の航空会社のカウンターの前に立っていた。汗がすっかり冷えきっている。

カウンターには細身の制服がぴたりと身体に合って髪をみごとにセットした整った顔立ちのいかにもな女性が座っていた。そしてワイを見て業務上的笑顔を浮かべた。
「さっき東京から到着した409便に乗っていたんですが」
たどたどしい英語で話し出す。
「まことにありがとうございます。お客様は日本の方でしょうか?」
いきなり日本語で返される。
「ええ、ええそうです。日本語がとても上手ですね。日本人には見えないけど」
「わたしはイタリア人です。父がイタリア人で母が日本人なんです。それでご用件はどのようなことでしょうか?」
「ああ、ええと同じ便に乗っていた同僚達を呼び出して欲しいんです」
カウンターの女は手首を返して小さな時計の文字盤をちらりと見ると言った。
「すでに到着から2時間ほど経っておりますが、みなさまは空港にまだいらっしゃるご予定なのでしょうか」
「そんなことは知らない。でも空港以外のどこで呼び出したらいいと言うんだ?」
職員の女は美しく描いた眉を寄せた間に縦皺をつくってワイの思い詰めた目を見た。そしてそれ以上は余計なことは言わず、ワイの名前と同僚達の名前を聞くと受話器を取った。どこかに電話をして受話器を置くと私に言った。
「空港アナウンスを依頼しました。お客様がこちらのカウンター前でお待ちだという内容で。ほどなくアナウンスが流れると思います。しばらくお掛けになってお待ちください」

ワイはカウンターが見張れる椅子に崩れ落ちるように座った。もう二度と立ち上がれない気がする。さぞしょぼくれた姿に見えるんだろうな。やがて流れたアナウンスに自分の名前を聞いたとき、離れたカウンターから職員が天井を指して、これだという表情をした。

見覚えのある姿が現れるかとまわりを見回しながら、20分以上を過ごし、とぼとぼとカウンターに近づいていった。ワイに気づいた職員が見せた営業スマイルは微かすぎて気のせいだったかと思うほどだった。
「同僚の方はお見えにならないようですね」
「お願いだ。もう一度アナウンスしてくれ」
「そう言われましても、もう私共にはお手伝いできることはないようです。皆さんは空港を出てすでにホテルにいらっしゃるんじゃないですか?」
「ホテル。ローマのホテルに行くにはどうしたらいいんだろう?」
「それにつきましては空港のツーリスト案内所でお尋ねください」
そういうと職員は『業務は終了しました』という意味らしき札をカウンターに置き、そそくさとカウンターを閉じる仕度を始めた。ワイが時間を確かめるともう11時を回っていた。
「あの、ツーリスト案内はどこ?」
「あちらから一階へどうぞ」
せわしく何かをしながら顔を上げもせずぞんざいに腕を伸ばして左の方を指した。
「あちら?」
「あちらのエスカレータで一階まで降りて右側です。看板があるのですぐわかります」

ワイが首を回してエスカレータを見つけようとしながらも相変わらずカウンターに手をついたままなのを見て職員の女は言った。
「私の勤務時間が何時までか知ってます?」
「え? ええと、もしかして11時までかな?」
「10時50分です」
「そう。それじゃあもう超過勤務だね」
「ええ。だから私は急いで家に帰らないとならないんです。何故かわかります?」
「いや、わからないな。早く休んで疲れを取りたいから?」
女はワイの目をしっかり見据えて言った。
「家に宇宙人がいるからです」
「え? 宇宙人って言った?」
「ええ、早く帰らないと宇宙人に家を壊されるんです」
「そうなんだ。宇宙人が家を壊すというのは知らなかった。僕は宇宙人にさらわれたんだけど」
「あなたが宇宙人にさらわれた?」
「うん。あ、でも開放されたときに記憶を消されたらしくてはっきりとはわからない。でも、いろいろ考えるとそれが一番辻褄が合うと思う」
「なるほど」
「でも、あなたは記憶がはっきりしてるんだね。で、その宇宙人はどこから来たの? そこが僕には一番はっきりしなくて」
「うちに居るのは水星人です」
「え? そんなに近くから? てっきりもっと遠い星からと思ってた」

職員のあわい紫色に綺麗に塗られたまぶたがほんの少し降りて目全体が細くなり、まるで興味がうせた表情になった。自分で始めた話だというのに。
「あの、その水星人はいつから家に居るの?」
「8年前から居ます。でも宇宙人と名乗るようになったのはほんの1ヶ月前ね」
「そうなんだ。すぐには正体を言わない宇宙人て多いみたいだね」
「あの、無理に話を合わせなくていいんですよ」
「いや、ジェシーがそう言ってたから」
「ジェシー?」
「うん。ジェシー・オズワルド。彼もさらわれてて宇宙船の中で会ったんだ。と思う。彼はアメリカのコロラド州のポテト農家で、僕より前にさらわれたんだ。たぶん」
彼女のまぶたがさらに下がり興味ないを通り越して表情は陰険と呼ばれる領域に踏み込んだ。
「変な話をした私が悪かったのね。ごめんなさい、もう止めるわ。それではこれで」
黒のひもつきバッグを肩から下げた恰好でカウンターの横から出てきて、去って行こうとする姿にワイは呼びかけた。
「水星人ってどんな姿をしてるの?」

呼び止められた女は立ち止まり、勤務時間が終わっていることを背中で雄弁にもの語ってからようやく振り返った。
「背は低いわね。ちょうど八才の男の子くらい。見た目も八才の男の子そっくりで、最初は火星人だと言ってたんだけど後から水星人の方が格好いいと思い直したみたい」
そう言うと、顔の横に手を上げて小さく振り、にっこりと微笑むと再び背を向けて早足に歩いて行った。もう二度と呼びかけるなと背中に書いてあるのが見えるようだった。ワイはその姿が小さくなっていくのを見送った。

    5

以前にたまたま読んだ雑誌でジェシー・オズワルドの記憶を見つけた。海外翻訳記事に独占インタビューが載っていた。何年も友だちづきあいをしていた男が実は宇宙人で、その宇宙人によって円盤にさらわれて二ヶ月分の記憶を無くしたとジェシーは主張していた。その記事には私のことは出ていなかったが、ジェシーと宇宙船の中で会った気がした。

改めて見回すと空港はめっきり人が少なくなり明かりの消されたカウンターも増えていた。エスカレータで一階に降り、荷物をひきずって案内所を探し当てたときにはもう終了していてカウンターに人がいなかった。フロア全体も薄暗くて人影まばらになっていた。

今日泊まるホテルの名前は、ええと、なんだっけ。確かモンマルティアとかそんな感じだった。空港からホテルにいく手段については皆目わからない。みんなについて行けばいいと思ってたから。一冊だけ持ってきた旅行雑誌を鞄から取り出す。イタリア特集の号だ。肝心のローマのホテルのリストは1ページ分だけ。その中ではマジェスティック・モンテマルティーニ・ホテルというのが名前が似ているが。どうだろう。

ローマのホテルまでのタクシーの費用の見当をつけようと雑誌をめくる。しかしタクシーについて見つけた記述は、空港からタクシーに乗るときは十分気をつけろ、間違って白タクに乗らないように絶対気をつけろ、そんなことをしてしまったら人気{ひとけ}のないところで車を停められて追い剥ぎまがいに料金をふっかけられることも覚悟してとにかく命を大事にするように気をつけろ、というばかりだ。空港からタクシーに乗ることはすっぱりあきらめた。

タクシーが駄目ならどうしたらいい? さっきの雑誌にマジェスティック・モンテマルティーニ・ホテルはテルミニ駅から近いと書いてある。さらにテルミニ駅の周辺には歩いて行ける距離にホテルがたくさんあるとも。とりあえずテルミニ駅、終着を意味する駅まで行こう。まだ列車はあるだろうか。

案内板をたよりに空港の駅まで荷物を引きずって行く。窓から見える外はまっ暗で何も見えない。独りでいる緊張とずっしりのしかかる疲労のため、足下がふわふわしてゴムの道を歩いているような気がする。ゴムを突き抜けて落下する恐怖に何度も足が止まる。

雲の上に放り出されたのは宇宙船から家に帰されるためだった。巷では光線の力で円盤から乗り降りする様がよく描写されるが、それは正しい。ただし高度が違う。ワイが宇宙船から降ろされときは高度8000mくらいからの降下で、ほぼ自由落下のスピードだった。とても不快だったが、ゆっくり降ろすとその高度では低酸素なので失神の虞があるからと説明された。そう説明したのが誰だったかはどうしても思い出せない。

駅についてみると列車は11時35分が最終だった。切符を買ってホームにたどり着くと発車まぎわの最終列車になんとか乗ることができた。

列車は近代的なステンレスの車体で車内も綺麗で乗客もけっこう乗っていた。列車は終点まで直通。ワイは旅行雑誌を出して再び情報収集に没頭した。結果、得られた知識というのはテルミニ駅周辺はローマでも特に治安が悪く、旅行者とみられると被害に遭いやすいので十分気をつけろということだった。まったくありがたいことだよ!

着いたら駅の中からすぐホテルに電話しよう。マジェスティック・モンテマルティーニ・ホテルが宿泊予定のホテルだったらいいんだが。会社の奴らはまだ誰か起きてるだろうか。かまわん、誰でもたたき起こせ。人を置き去りにして行って、心配しているのが当然だ。

旅行雑誌を閉じ、なんとなくジェシー・オズワルドとの会話を思い出した。
「ジェシーってなんだが女の名前みたいだね」
農作業で鍛えたたくましい体つきの髭面の中年男は気色ばんだ。
「ジェシーは男の名前に決まってるだろ。おかしなことを言うな。朝から喧嘩を売るつもりか」
「いや、ごめん。そんなつもりじゃなくて。西洋人の名前はよく分からないから。難癖をつけるつもりじゃなかったんだ。あやまるよ」
ジェシー・オズワルドはこちらを睨みつけたまま、しばらく時間をかけてようやく気を静めたようだ。こちらのカップにコーヒーを足してくれながら言った。
「女ならジェシカだろ。朝飯の時から変なことを言うなよ。今日もまた一日、あいつらにわけのわからんことを散々やらされるというのに」

車窓は真っ暗。さっきから建物や車両の外はずっと黒。ずっと外は存在しないかのよう。疲れているからだ、ちゃんと外だって存在しているさ。あるいは外は空虚ではなくて光を受けつけない物質がみっしりと詰まっているのかもしれない。その物質に空いた洞穴のような隙間を突っ走っているのだ。光が入らない洞窟の地底湖には目の無い魚がいる。その魚は目の所がちょうど傷跡のようになっていて痛々しい。でも元々目が無いのだから痛々しいことはない。その魚は群れずに一匹で行動し、口に入れた餌は好き嫌いなく何でも食べるという。

ワイの目が急に見えなくなったとしたら? 同僚達はちゃんと空港にいて、本当は目の前にいたのに、そして彼らが呼びかける声も聞こえずに一人で列車に乗ってきてしまったのだとしたら。でも、目も耳も働かなくなったとしても腕を掴むなり引き止めることができただろう。だからそれは起こったことの説明としては足りない。


    6

終着駅に到着したのはちょうど日付が変わった時刻だった。テルミニ駅は巨大な駅だった。そして乗客は皆足早に歩み去ってしまい、駅はあっという間にがらんとした空間になった。ワイは改札を出たすぐの所で公衆電話を見つけ、見慣れないコインを適当に選んで投入して雑誌にあったホテルの電話番号を回した。油断なく周りに目を光らせながら受話器を強く耳に押し当てる。

しかし繋がらない。ツーツーという音がするばかり。受話器を掛け、返ってきたコインをもう一度いれて再度掛ける。同じだ。市外局番を取ったりまた付けたり、投入するコインを替えたりいろいろ試したが繋がらない。雑誌にある別のホテルに掛けてみる。どこも同じだ。掛からない。電話の使い方が違うのか。でも公衆電話に他のやり方なんてあるのか。絶望感がじわじわと身体を浸しはじめる。

さらに悪いことに、さっきから離れた所でさりげなくこちらの様子を見ている男がいる。ことさら照明の当たらない暗がりという位置を選んで。公衆電話と格闘していて、ふと顔を上げるとその男が近づいていた。冷や汗が背中を流れる。男は笑顔を浮かべてさらにこちらに寄ってくる。背丈はたぶんアル・パチーノくらい。横幅はアル・パチーノよりずっと広くてずんぐりしている。顔も幅がありアル・パチーノに似ていない。煎じ詰めるとアル・パチーノには似ても似つかない男が着ているのは青いブレザーと黒いスラックス。照明が弱くてこれまで見えてなかったが靴はよれよれ。よく見ればブレザーもスラックスも毛羽立ちの隠せない古い品物で、要するに上から下までかなり安っぽくできあがっている。

受話器を掛けて、何かあったら逃げられるようにコインを回収してポケットに入れる。ついに男が側まで来た。ジャケットの胸には4cm×5cmくらいの四角いバッジのようなものを付けている。そのバッジを指さしながら男はイタリアなまりの英語でぺらぺらとまくし立て始めた。聞き取れる範囲で理解するとおおよそこんなことを言ってるようだ。

「こんばんは。私は観光局TSEの者です。旅行者のお世話をしています。今日のご宿泊はお決まりですか? もしお困りでしたら、快適でリーズナブルな宿泊先をご紹介いたします。何事も私におまかせくだされば安心です。今日ご紹介できるホテルはこちらになります」
そして手にしていたA4くらいのシートを次々に見せ始めた。シートには一枚ごとにホテルの名前と料金とその他数行何かが書かれていた。シートを見せながらぺらぺらと話している。それぞれのホテルの説明をしているらしい。

この男が公式の職員なんかでないことは明らかだ。それでもこんな奴にでも頼ってしまう旅行者が少しは居るからこの男がここでこんな事をしているのだろう。

しかしワイはあることに気がついてぞっとした。
「あっちへ行け!」
大声で怒鳴ったつもりだったがかすれた声しか出なかった。しかし勢いよく振り回した腕を見て男は後ずさりし、周りをさっと確認すると少しだけ離れたところでさりげなく別の方を見て関係ない振りをする。

ここには居られない。駅から出るしかない。荷物をまとめて出口の表示に沿ってずんずん歩く。男は追って来なかった。テルミニ駅は出入り口も広い。薄暗い駅の外をこわごわ眺めた。タクシーらしき車が見えたらもう一か八か乗ろうと思った。だが車は見えるところには一台も停まっていなかった。駅前の広場を男が一人横切っていった。横切りながら男はちらちらとこっちを見ていた。万一男が近寄ってこないかと鼓動が自分で聞こえるほどどきどきした。男はそのまま歩いて見えなくなった。

こうしてただ立っていては厄災を引き寄せるだけだ。ワイはこわごわ深夜のローマの街に踏み出した。足が自分のものの気がしない。とにかく一番広い大通りをずっと歩いて行こう。ホテルでも何でも泊まれそうな所を見つけたらそこへ飛び込もう。それが目下の綿密なる行動計画だ。荷物を引きずって最大限の速度で歩く。しかし大通りにはずっと先まで道のどちら側にもホテルらしい建物は見えない。

さっき男に話しかけられていた時にぞっとしたのは、男の胸のバッジだ。一見もっともらしく見えたのだが、至近距離で見ると透明なプラスチックに挟まれた色鉛筆で書いた塗りムラのある紙だった。いくらなんでも人を騙そうというのに色鉛筆で塗っただけの紙とは。せめて色紙{いろがみ}を切り張るくらいはできるだろう。綺麗に作るには多少手間が増えるとしても。その時こう思ってぞっとしたのだ。いくらなんでもこれが現実のはずはない。色鉛筆の名札で人を引っ掛け気ようとするなんて。

そして今歩いている大通りにホテルが一軒も無いのもどうしたことだ。テルミニ駅から歩いて行けるホテルがたくさんあるはずなのに。この通りは現実から切り離されているのだろうか。あるいはあの雑誌が他の現実から紛れ込んだものなのか。駅からやみくもに歩いてきてしまったのは失敗だったかもしれない。この先、行っても行ってもとうとうホテルがなかったら? 自分がどのくらい危険なことをしているのかすら分からない。


    7

薄暗い横道を通り過ぎようとして、ちらと覗き込んだ時に足が止まった。遠くにHOTELという文字の看板が申し訳程度の照明に照らされている。しかしHOTELの看板はやけに遠く見える。そこまで行く途中の路地の道はとりわけ暗くて足下も見えなそうだ。看板まで100mくらいはありそうに思える。大きくはない看板の字がはっきり読めるのだからそんなに遠いはずはないが。ワイはものすごく迷った。大通りの方はたとえこの先1キロ歩いても2キロ歩いてもホテルがないかもしれない。どうしよう。

意を決して、こわごわ路地に足を踏み入れる。左右を見回して、危険そうな物や人がいたりしないか細心の注意を払おうとするが暗くてほとんど見えない。道がでこぼこなので荷物を抱えて歩くしかない。進むとさらに路地は暗くなり、唯一明るい小さな前方の看板だけが頼りだ。重い荷物にあえぐ自分の息が耳に響く。

道の左側はいくつかの建物が連なっている。右側はひとつの大きな建物が続いているようだ。両側どちらにも入り口はなく、所々高い位置にある窓は格子がはまっている。何の活動も感じられず静かだ。死に絶えた街の一角に分け入ってしまったかのよう。ここでもし何か大きな物音でもしたら荷物を放りだして逃げ出したかもしれない。しかしそういうこともなくとうとう目指す看板にたどり着いた。

そこはとてもがっかりさせる所だった。看板の下には確かに閉じたドアがあった。だがとても狭くてせいぜい人一人通れるくらいの木の扉だ。ホテル名もどこにも書いてない。あるいはとんでもない安宿なのか。安宿でも宿泊施設ならこの際無いよりましだが。それともイタリアではHOTELに他の意味があったりするのだろうか。

木の扉の縦長の取っ手を引っ張ってみる。開いた。入り口の中に痛む腕から荷物を静かに降ろして苦役から開放する。そこはあまり明るくはない廊下だった。床は木製で壁と天井は同じ群青色の化繊の壁クロスが張られている。ホテルの豪華さはかけらもないがまあまあ清潔だ。耳を澄ますが何も聞こえない。ここまで来たのだから宿泊施設なのか何なのかまでは確かめよう。後ろ手に扉を閉めて廊下を進む。

廊下はずっと狭い幅のまま続いている。突き当たりで左に折れた。少し先でさらに右に折れる。だんだん不安が増すがそれでも進む。前方が明るくなって廊下が終わり広い空間に出た。

天井も高い。白い照明に照らされている。ホテルのロビーだった。大きなロビーだ。シャンデリア、ソファー、エレベーター、豪華なエントランス。エントランス? エントランスの外は大通りに面しているようだが、それはさっきまで歩いていた大通りと同じだろうか。どうも方向感覚と違うが。

左奥にホテルのカウンターがある。横の長さは一度に少なくとも七人は並んで客をさばくことができそうだ。今は蝶ネクタイのホテルマンが一人カウンターの真ん中に立っている。完全にこちらに注意を向けている。ホテルマンは恰幅が良く、私が近づいていくと顔を少し上げて『御用を承ります』という表情をした。ワイが荷物を引きずってカウンターの前に立つとホテルマンは言った。
「グッドイーブニング、サー」
なんとか英語を絞り出す。
「今日ここに泊まれますか?」
ホテルマンはきれいな英語で答えた。
「はい、もちろんです。お一人ですか? 何泊お泊まりでしょう?」
「一人で、一泊だけでいいんだけど」
「お部屋はスタンダード、プレミアム、スイートとございます」
「そうだな、ええと」
その違いを訊いて理解するのも今は疲れていてできそうにない。ただ、ごく普通の世界に戻れた気がしてほっとする。
「スタンダードで」
ホテルマンは宿泊料を言い、パスポートのコピーを取らせてくれと言い、支払いはクレジットカードか現金かと問う。ワイは言われた値段が円でいくらになるか換算を試みたが、頭がまったく働かないのであきらめた。パスポートを渡し、カードで払うと言うと、カードの登録だけするのでクレジットカードを渡せという。カードを渡すと機械のスリットに通してパスポートと共にすぐに返してくれた。ホテルマンはここまでの手続きを流れるような身のこなしで処理した。

宿泊カードに記入が済むとカード型のキーと何枚かの紙を渡してエレベータはあちらと指し示した。ここで思い切って訊いてみる。
「あの、私があっちから入ってきたのを見てたよね」
「イエス、サー」
「あそこから来るのは普通のこと?」
「初めていらっしゃるお客様はあちらの入り口はそもそも分からないことが普通です。皆様メイン・エントランスからいらっしゃいます。お客様が入っていらした出入り口はコロッセオまで歩くのに便利な抜け道としてご用意しているものです。コロッセオまで15分程で行けます。しかし、お客様がどこから入っていらしてももちろん結構でございます」


    8

エレベーターへ向かいながら思った。荷物を持って部屋まで案内してくれないのはイタリアでは普通なのかそれとも時間が遅すぎただけなのかどちらだろう。エレベータで6階に上がって廊下を歩いて部屋を探す。左右にかなりの部屋数がある。これだけ広いホテルの空間がどこにあったのか。無かったところへ空間が突如現れたような感覚を覚える。

部屋にはセミダブルのベッドが二つあり部屋全体もゆとりのある広さだったが、特に豪華な部屋ではなかった。助かった。もしかしてここがかなりの高級ホテルで部屋も豪華なら部屋代も高額なはずなので、それを怖れていた。荷物を部屋の隅に置く。
「やれやれ」
と声に出し、続いて服をどんどん脱いで次々ベッドに放り投げていった。下着は汗をかいて冷え、さらに冷や汗をかいたので不快きわまりなかった。裸のまま浴室に向かう。シャワーしかなかったのは残念だが熱い湯をたっぷり浴びてやっと人心地がついた。身体をタオルで拭きながら残りのブラッドオレンジジュースを飲み干す。シャワーの前に冷蔵庫で冷やしておけばよかった。

裸でベッドに倒れ込むと猛烈な空腹が襲ってきた。晩飯を食っていない。しかしもう時間も遅いし今から食料をなんとかしようという気力もない。今日はもう寝よう。空腹は我慢して寝てしまおう。シーツの隙間に滑り込む。

目をつぶって眠りを待つ間ふわふわと思考が浮かぶ。明日になったらすぐ飯を食って、それから会社の奴らを見つけなければ。そうだ、泊まるはずのホテルの名前をはっきり覚えてないんだった。それは最大の失敗だ。まあ明日考えよう。今日は散々な日だった。それにしても腹が減ったな。そういえば、このホテルの名前も知らない。明日確かめよう。気になっているのはフロントにいたホテルマンだ。どことなく人間離れしているように感じた。どこが変というのじゃないが。なんだか宇宙人っぽかった。そうなるとこのホテルは宇宙人が経営する宇宙人向けのホテルなんだろうか。そうじゃないといいんだが。

なんだか…、どうも明日になっても会社の人間をみつけられないような気がする。彼らはこのローマはおろかイタリアのどこにも居ないんじゃないか。会社の連中といっしょにローマに来たというワイの認識は現実から剥がれ落ち、剥がれ落ちた現実の中にワイが閉じ込められたんじゃないか。そして剥がれ落ちないで残った方の現実には宇宙人にさらわれる人間は一人もいないのだろう。

ようやく睡魔が空腹に打ち勝って朝倉輩我は孤独な眠りに落ちた。そしてひとつだけ情報を付け加えると、彼がこの部屋に関して気づいていなかったことがある。部屋のライティングデスクの前の壁に飾られたホテルによくある絵のことだ。具体的な何かを表してはいない右側の赤っぽい塊と左側の青っぽい塊が対抗し合い、また調和し合っているかのような要するによくある抽象画。ただ、近くで見るとそれは色鉛筆で描かれていた。弁明の余地無く稚拙な塗り具合。

これは彼の頭にまとわりついて離れない疑惑の決定的な証拠となるのかもしれない。

――し、あるいはただこのホテルが学童教育を支援していて、ホテルが開催した絵画コンクールで優秀評価の作品をホテルのロビー、廊下、客室に期間限定で展示しているだけなのかもしれない。その学童支援キャンペーンのことはこのライティングデスクに置かれた紙片に分かりやすく説明されていて、明日の朝、一時は動転した彼もそれを読んでひとまずは納得するのかもしれない。

それでも、一旦は納得はしたとしても、彼がこの絵のことをそれ以上気に病まずに済むかというとそれはそうはいかないかもしれない。それは明日になって彼が会社の同僚達と会うことができてこのホテルを引き払うまで続くかもしれない。あるいは何故か再会がかなわずその思いが必然的にもっと先まで続いてしまうかもしれない。

あるいは、もしかすると、彼が気に病んでいる疑念は、この先に彼が宇宙人にさらわれるという(彼の記憶によれば二回目となるわけだが)ことでとうとう決着をみるのかもしれない。

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