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パッケージ素材や技術への新鮮なデザイナー視点。そこに、新しいビジネスが生まれるんじゃないかな by 佐々木さん

こんにちは。クルツジャパンのタナカです。
2022年5月13日〜29日、パッケージの未来と可能性を探るエキシビション、Packaging-Inclusion vol.1「つながる」を開催しました。その参加デザイナー・関係者への取材を通じて、「パッケージの未来を探る」インタビュー企画。今回は、パウチや箔といった素材に高い関心を持つ、アートディレクターの佐々木さん。制作した「Bottling Pouch(ボトリング パウチ)」や共創の過程、箔の魅力やパッケージの未来について、当社代表の中根とお聞きしました。

パッケージが作り手の力を解き放つプラットフォームに

取材は佐々木さんの事務所、PARK Inc. にて

佐々木 智也(ササキ トモヤ)
東京造形大学デザイン学科インダストリアルデザイン専攻卒業。広告制作会社、外資系広告代理店、面白法人カヤックを経て、2015年にPARK Inc.を設立。アートディレクターとして、ブランディングを中心に、Web、パッケージ、プロダクト、グラフィックなど領域横断的に手掛ける。2020年よりメンズスキンケアD2Cブランド「LOGIC」を立ち上げる。主な受賞歴に、iF Design Award、グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞など。
PARK Inc.


ーまずは、Packaging Inclusion で制作した「Bottling Pouch」について聞かせていただけますか?

最近、素材として注目しているのがパウチです。「表現の余白や伸びしろがあるなあ」と、デザインの想像がどんどん湧いてくるんです。加工方法やデザイン表現次第では、プラスチックのボトルや紙箱よりも可能性があるのではと感じています。
 
フジシールさんのパッケージの技術とクルツさんの箔の技術を使うと、普通の印刷とは違う、新しい装飾や意匠にチャレンジができるかもしれない。そこで、パウチをボトル化する「Bottling Pouch」という作品を作りました。

ボトルの代替品という要素が強いパウチ容器は、生活シーンで表に出ることがあまりありませんよね。クローゼットや収納の中にしまっていることが多いと思いますが、例えば環境の面から見ると、包装をライトにすることや脱プラスチックといった環境負荷を減らすなど、いろいろなポテンシャルを持っているんです。
 
今回の作品テーマのひとつは食卓やリビング、お店でも、手にとって置いておきたくなるものを作るということ、パウチを堂々と生活シーンの表に置けるようなデザインにしたいという想いから着想しました。

そしてもう一つトライしたことは、パッケージのプラットフォームを作ることです。

ー プラットフォームですか。

僕自身は、ここに大きな意義を感じています。プラットフォームがあれば、「物を売りたいけど……」と、立ち止まっていた人たちの商品や思いを流通に乗せやすいと考えました。
 
小規模なものづくりをする人が一番困るのは、パッケージなんです。例えば、「すごく美味しいジャムができた。売れるんじゃないか!」と、思い立ったイチゴ農家の方が、「さあ売るぞ!」という時に、瓶を買ったり、箱を作ったり、魅力が伝わるデザインを施したり......と売り始めるまでに予算も時間もかかってしまいます。
 
もっと、簡単に売ることができるにはどうしたらいいのかと考えて構想したのが、「パウチボトルを購入して充填し、自分のメーカー情報を登録するだけでOK」となるようなシステムです。

オンライン上に作り手の情報を載せるページを設けているので、「こだわりのイチゴを生産していて、売りたいジャムがある」のであれば、あとはパウチに充填して、自分の情報を入力していくと、オンライン上に紹介ページが出来上がり、ものが売れるようになる。パッケージがプラットフォームとなり、そんな未来が実現するということを作品に込めていました。

心を揺さぶるプロダクトが、価値転換を促す

ーPackaging Inclusion 共創プロジェクトには、どのような思いで参加してくださいましたか?

高度な技術を持ち、ものづくりを支えているクルツさん、フジシールさんから声がかかったことは光栄なことで、ワクワクしました。一方、「めちゃくちゃ、むずかしいなあ」というところからのスタートでもあったんです。具体的なモチーフがなく「未来のパッケージ」という漠然としたテーマだったので、時間をかけて話し合い、4人のデザイナーが違う視点と捉え方で作品を作り出しました。
 
僕はパウチに非常に強い関心があったので、パウチをモチーフにクルツさんの技術を組み合わせて、「物を売るプラットフォームとパッケージの未来」を作品にしました。

ー箔をどのように用いたのかなど、技術的なことを詳しくお伺いできますか?

今回はコールド箔に色をのせています。コールド箔は上から色を引けるので、パウチの中で際立たせる部分に使ったり、モノグラムでパターン化するなど自由度の高い使い方ができました。

そして、箔はパッケージのプラットフォーム化のポテンシャルを広げると感じています。クルツさんの偽造を防ぐセキュリティー箔の技術や、スマホをかざすと情報が得られるQRコードを組み合わせれば、「生産地は◯◯で、私がつくりました」という情報を見ることができたり、「これは本物です」と、食べ物のトレーサビリティを可能にし、食の安全性が向上すると考えています。

ー D2C向けプラットフォームでの活用、私たちも新しい発見でした。制作の過程で、「箔」のイメージは変わりましたか?

何かを際立たせたいときと上質な物を見せたいときに、箔を使っていました。黒の墨を印刷するよりも、黒の箔を使うほうが凹凸や独特のテクスチャーが出るので、手に取ったときの質感はかなり向上します。代替手段としてのUV・ニスでは、箔にかなわない。とっておきの素材なんです。金額的にも、とっておきになってしまうんですけど。
 
箔の見本帳をもらったので、食い入るように見ていますね。3D表現が箔でできるということも知り、「むっちゃ、できることあるじゃん!」と発見や気づきがありました。

ー 展示会で印象的なシーンがあったんですが、一緒に企画展示をしたフジシールの会長さんが、自分の子どもを見るように愛情を持って「Bottling Pouch」を見られていたんです。

そうだったんですね。誰かの心の琴線に触れるものになっていたのなら、嬉しいです。
 
そもそもこの「Bottling Pouch」を作った背景には、大量生産のビジネスモデルに問題提起やヒントを提供できればいいな、という思いがありました。この作品一つで社会に大転換を起こせるかどうかは怪しいですけど、消費活動が変化していることやインディペンデントな作り手が増えているということに、企業が気づくきっかけになったのかなと思います。

ー 実際にプロダクトを見ることが人の心を揺さぶり、ビジネスモデルの価値の転換に大きな影響を与えるのですね。

マーケティングで理論武装したプロダクトよりも、心の琴線に触れる、感情を揺さぶる何かが、価値の転換の強いきっかけになると思うんです。この作品をそのまま事業化するというよりも、どこかの発展途上国でニーズがあると気づいた企業が、パウチボトルは「アフリカでの流通には最適だ」と使命感を持って取り組むことに結びつくかもしれない。そういうということがあると嬉しいし、面白いと思いますね。

狭くなるキャンバスでも、
人が欲しい・楽しいと感じるパッケージを

ー パッケージを取り巻く環境や現状を佐々木さんはどう捉えていますか?

パッケージデザインに関わる人には受難の時代になってきていると思います。サステナブルやSDGsへの意識が高まり、包装をどんどん減らそうという動きがあって、大手企業ではラベルレス、余計なシールは貼らないということが起きています。
 
そうなると、意匠的に工夫できる面積が減ってくるので、デザイナーとしてのキャンバスがどんどん小さくなっているんですよ。ペットボトルだと、小さなシールしかキャンバスがないというような状況です。
 
ただ僕は、商品がつまらなくなるのは人間のQOLを下げるんじゃないかと感じています。ラベルは「食べたくなる」、「飲みたくなる」、「欲しくなる」という思いや、「商品の持つストーリー」を表現する場なんです。


環境に配慮することはもちろんなのですが、パッケージデザインというもの自体に文化があると思っています。なので、単純に合理化されていくのは自分の中ではもやもやしているところがありますね。
 
その中でパウチには、まだまだデザインの余地が残されていて、既存のプラスチックよりも環境負荷が低く、デザインできるキャンバスがまだ大きいという感じがしたんですよね。

ー佐々木さんがつくりたいパッケージの未来はどのようなものですか? 

人間は味覚だけで食べ物や飲み物を味わっていません。透明のボトルに茶色い水だけが入っているのと、京都老舗の家紋をデザインしたパッケージのボトルに入っているのでは、デザインされている方がお茶を美味しく感じると思うんですよね。
 
確かに、徹底的に合理化すべきパッケージもあるんですが、なんでもかんでも情緒的要素を取り払うこともないのかなと思います。
 
キャンバスが狭くなっていく中で、いかに情緒的な要素を消さずに、人が「欲しい」と思ったり、「美味しい」と思ったり、「楽しそう」と思えるようなパッケージを作ることを、今後のテーマとして行きたいですね。

おとぎ話で終わらせたくない

ー佐々木さんが描く未来に向けて、Packaging Inclusion で今後やっていきたいこと・やっていくべきことは何だと思いますか?

僕は自社事業としてメンズスキンケアD2Cブランド「LOGIC」を運営していることもあって、「自己表現のような場で終わるのはもったいない」、「おとぎ話みたいな作品にはしたくない」という思いが強くあります。「素敵なものができたね」で終わるのではなくて、社会経済活動に関わる作品を作りたいですし、展示していた作品に続きがあったら面白いなあと思います。

ー展示では、欲しいというニーズがあることが実証されたんですよね。欲しいという人がすごく多くて、買いたいと言われても、「販売できなくて...」ということがありました。

狙いとしてリアリティーを追求していて、明らかなプロトタイプやコンセプトモデルというよりは、明日見かけても違和感がないものを作りました。
 
展示に関してですと、僕はもっと、「ビジネスにつなげるんだ」と僕たちデザイナーに言って欲しかったですね。今回は、自由度が高くて「優しいオーダーのプロジェクト」だったと思っています。
 
でも、自己表現やアートとして素晴らしい作品を発表するよりも、作品を通じて、「もっと大きな変化が生めるかもしれない」と企業が着想して、深掘りをする。具体的な開発計画を立てたり、現実的にビジネスモデルとして成立するのか、技術的にできるかどうか、世の中にニーズがあるかどうかを検討し、次の段階へと入っていく。そうやって、事業化や実現化への動きやビジネスに繋げられるようなものがあった方が嬉しいと思うんです。

ー ありがとうございます。今までのパッケージや箔の使い方からの価値転換を考える実験の場だったので、今回はアート的志向が強くなりました。次回は、具体的な方向性を明確に示して、ビジネスとして成り立つものを目指したいと思っています。

フジシールさんとクルツさんが、すごい技術を持っていらっしゃることを、作品を作る過程で思い知らされました。我々のようなデザイナーは、パッケージや箔の技術を新鮮な目で見ることができる。そこに、新しいビジネスが生まれるんじゃないかなと思います。その種をどんどん蒔いて、今までとは違う顧客やニーズを生む、スモールスタートの場になるといいですね。
 

 
実装できるパッケージの未来について、強く考えさせられるインタビューでした。佐々木さん、ありがとうございました。

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