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【ショート・ショート】腕相撲

 親父が、弟と腕相撲をしている。
 高校一年になって、この頃めっきり体が出来てきた弟に苦戦している様子。
「何だ、だらしねぇなあ」
 俺が挑発すると、
「遊んでいたんだよ」
 親父はムキになる。弟の粘りも、ついにねじ伏せられた。

「次は、お前だ」
 親父が指をポキポキ鳴らす。
「無理すんなって。息、あがってるじゃん」
「いいから来い」
「じゃあ、左でやろう」

「セット」
 弟が、二人の拳を押さえる。
「レディー、ゴー」
 掛け声と同時に力を込める。二つの腕は、がっちり組んだまま動かない。
 が、徐々に親父に押し込まれて、俺が負けた。
「まだまだだな」
 親父は左腕を揉みながら、意気揚々と部屋に引き上げていった。

 弱くなったな。

 ついこの間まで、親父には全く歯が立たなかった。
 親父の後ろ姿が少しだけ小さく見える。

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 あの野郎、手加減しやがって。


 腕相撲の後も、心のせめぎ合いは続いている。


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