【ショート・ショート】爪
爪を噛むのが、あなたの癖だった。
考え事をしている時の、あなたの悪い癖。
何度注意しても直らなかった。
握りしめた時の、手のひらに当たる爪の硬い感触が厭なのだそうだ。
「気になって、集中できないんだ」
「変なの」
私が笑うそばから、まだ不満らしく歯を立てている。
「止めてよ、みっともないから。貸して」
あなたの手を掴んで、爪切りで整える。
パチン、パチン。
尖った切り口をヤスリで丸める。
「もう、いいよ」
「まだ、だめ。もう少し我慢して」
今も、私が切り揃えて、丁寧に磨く。
「もう、いいよ」
手を引っ込めることもない。指先の温もりが、あなたの生きている証。
脳出血で倒れて、意識が戻らない。寝ているだけでも爪や髭は伸びる。髭は、二日に一度、看護士があたってくれる。
でも、あなたの爪を切るのは、私の役目。
少し長めに切る。
握りしめた時、ちゃんと手のひらで感じるように。
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