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胸の寒空に灯る唄【詩集】

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#冬

あなたの吐息が凍りつき 描いた白い霜模様 わたしを見つめて光り出す コロンが点滅する時計 今日も一枚窓を割る 弾ける透明のシャワーが 止まって見える刹那 あなたのように思えるの 吹き付ける風を味わって ひとりの朝を迎え撃つ 手の甲を抉るガラスの破片 痛みも寒さに消えていく 窓の外では陽が昇る 点々と落ちた名残の水滴 呼吸がなくてもいいくらい 一生懸命キスをして 最後の一枚残ったガラス 指でなぞれば声がする わたしの名前を呼んでいる 甘い時間はぜんぶ嘘

アイスマシーン

冬になるといつも ここに氷が産まれるの 女は笑って言いました それはとても小さな粒で 気づかれないことも多いのよ 女は胸のあたりを押さえます 透明にきらきら反射して 宝石みたいに綺麗なの 女はうっとり目を伏せました それはとても冷たい粒で やみつきになってしまうのよ 女はため息を漏らします 産まれたばかりはいいけれど しばらくすると危険なの 女は声を潜めて言いました それはとても鋭い粒で 触れるとひどく痛むのよ 女は指先を擦り合わせます 我慢できなくなったら 誰か

冬のダイヤモンド

何も言わずに右手をとって 仏頂面で黙り込むあなた 人工的なネオンの針が うなじの隙間にちくちく刺さる 青のリゲルに橙のポルックス 黄白色のプロキオン はじめて話した冬の日に 指差し教えてくれた名前 他には何もいらないと 思い込ませて飛び立った さみしい心を見下ろせば 瞬く冬のダイヤモンド ビルを彩るLEDの礫が まぶたの裏にころころ詰まる 送っていくよとわざわざ言って くちびるの端で笑ったあなた 白のシリウスに黄色のカペラ オレンジ色のアルデバラン おわりを告げた冬の