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保護犬ハナのこと

出会い

コウタが里親さん家族生活をしだしてから、
6か月ぐらいたったころだった。
ちょうど、保護グループのメンバーらと
「しばらく、県保護センターから連絡ないね」
と話し数日たったころ、センターから「怖がりの仔がいますが、引きだせますか」と問い合わせが来た。

「こちらで保護と里親探しできますよ」と連絡はしたものの、
引取りの日程が合わず、結局グループの先輩に引取りと一時保護
をお願いした。そしてハナが先輩宅で数日過ごした日曜日に
僕とご対面となった。

雨が降り出しそうな昼頃、先輩とある駐車場で落ち合った。
先輩の車中のゲージには、「怖がりなのか?」と思うほど、
僕の目をしっかりと見つめてくる彼女がいた。
多めの白と黒とのブチで、何となくおっとりとした印象の仔犬だった。

また元野良の仔犬との生活が始まったのである。
互いに探り探り、生活習慣をすり合わせていくのだ。
それは楽しみでもあり、驚きの連続になるだろう。

ありがとう。

仮称をつける

先輩と少し話をしていると、お空は我慢できかねたように
小雨を落としてきた。

ワクワクしながら駐車場から自宅に向かう
その帰り道で、保護中になんと呼ぼうかと
仮の名前を考える。
センターからは4月ごろの生まれて聞いていたので、
美人さんだし、サクラかな、でもなんかピンとこない。
少し思い巡らすと、春、さくら、暖かく、やさしい、やわらかい、等々
「そうだ、花祭りがあったなあ」・・・
春だし、彼女の雰囲気も総じて「ハナ」とした。

自宅でクレートからリビングのゲージに移すと
あらかじめ暖めておいたホップレートの上で
じっとしながらこちらを見ている。
とにかく、水と夕食をゲージ内に置き離れて見ていると
食事をし、また暖かいところで寝息をたてだした。

人間の勝手な都合で、あっちこっち動かされてきた。
嗅いだことない、聞いたこともない、見たこともない
環境に来て疲れもあるだろう。
食べて寝てくれればよいのだ。

しばらくハナと呼ぶね、と心でつぶやきながら
小さな寝息を聞いた初日だった。

ありがとう。

かくれんぼ

ハナが自宅に来て、2日経つと
ゲージの中の生活には慣れたようだった。
いつまでもそのままとはいかないので
ゲージの扉を開放して、外側に食器をおいた。
すると、出入り口から顔を出し
コワゴワと周囲の様子を見ながら食器に近づき
食事をするようになった。
少しずつだが慣れてきた様子だ。

こちらも余り見ないようにしていると
いつの間にか、ゲージから出てリビングを偵察している様子だった。

ある時、しばらく目を離していると姿が見えないことがあった。
慌ててリビング、台所、ほかの部屋など探したが見つからない!
「ハナ」と呼んでも、当然だけど返事がない!
やはり野良生活の癖なのか、身を隠すことが得意な様子。
結局、リビングの壁を背にして窓際のカーテン下で横になっていた。

見つけた時はホッとしてが
ハナはちょっと残念そうな表情だったのが思い出深い。
犬でも猫でも、やはり隅っこが安心できるのだろう。

こんな「かくれんぼ」も、保護ではあるあるなのかもしれないが
楽しみながら、少しづつ人や環境に慣れていってほしいものだ。

ありがとう。

いっぽいっぽ

ハナはいっぽいっぽ歩いていた。
怖々だけど、いろんなことを嗅ぎ見聞きし
吸収して乗り越えようとしている。

家へ来た当初から歩く姿に違和感があった。
まえ足を出すたびに、左右の肩を交互に上下するのだ。
まえ足の左右を見比べても左足が少し細いくよわよわしい。
とりあえず、県動物保護センターでの様子を尋ねてみると
いつも隅っこでじっとしていて、歩く姿を確認できなったとのこと。

そこで、お世話になっている獣医さんに診ていただくと
左まえ足の膝と足首の関節が十分に形成されていない
関節形成不全との診断だった。

このことで現在の動物保護の在り方に強い憤りがあるものの
大切なことは「ハナの幸せ」である。
将来障害となって手術などが必要となる可能性もある。
そしてこれは、里親さんの条件として、
ハナの現状と将来を受け入れていただくことが加わったのだ。

いずれにしろ、里親さん探しは時間がかかるだろう。
ハナといっしょにいっぽいっぽ
気長に歩んでいくことを覚悟した。

ありがとう

マイペース

ハナは左まえ足をかばいながら
でもあまり気にする素振りもなく
マイペースで成長した。

おもちゃはロープが好きで
カミカミしたり、引っ張りっこしたり、
またお気入りにロープを、離れたところに投げると
楽しそうに咥えて戻り、もう一度投げろと催促する。
そんな遊びが好みだった。

リビングのソファには、知らない間に上がり込み
わがもの顔でくつろいでいたこともあった。
また、ある時には階段を、
脱兎のごとく、昇ったり降りたりし
まったく足のことなど忘れているようだった。

全くの他人が入ってきても我関せずで
番犬にはならないよ、静かに言いたげだった。
恐らく、怖さもあったのだろうと推測される。

体重が当初の4.5kgから10kgを超えるあたりで
再受診したところ、日頃の様子の説明や触診により
「継続的な検診は望まれるが、当面は問題なさそうだ」
と獣医さんに診断され、まずはひと安心した。

ブラッシングは気持ちよさそうで、
お天気の良い日にすると、白い体毛が眩しく輝くようになった。
更に月日が経つと、お顔も体形もスラットし、海外のモデルさんのような
美人さんになって来た。

運動の動きを観察しつつ、楽しく日々を過ごし
里親さんからのお話を待っていた。

ありがとう。

かしこく美しく

少しづつ自我が芽生え、お作法も覚えつつ日々を送るハナ
全体的には、控えめな性格だろう。
一言でいえば「怖がり」だ。
それは生まれ、この家に来るまでの生活環境によるのだろう。
ものごとや環境を慎重に判断するのだ。
どのようなものでも新しいものには、
一旦引くが、ゆっくりと慣れていくのだ。
ブラッシング、爪切り、外の音、匂い、人などなど・・・。

だが、一つだけ慣れないことがあった。
それは若い女性で、男性はさほど苦手感を出さなかった。
このような事は、特に保護犬にはあるあるではないかと思う。
老若男女のいずれかに苦手意識を抱いていることがあるらしい。

楽しく遊びながら、人との生活の仕方に
かしこく美しく慣れながら
里親さんのリクエストをお待ちする日々が続いた。

ありがとう。

遠方からのお手紙

ハナは、足のことなど全く気にかけることもなく
元気に日々を楽しく過ごしていた。
そんな日常を過ごしていた7月下旬に、
少し遠方の知人からお手紙が舞い込んできた。
それはハナの里親さん希望のお話で、
知人の友人がハナをご希望とのことだった。

住所を見ると高速道路で片道5時間ぐらいの遠方だ。
我々グループの想定してる範囲は、せいぜい県内。
当初は、譲渡後フォローのしやすさや少人数グループ故の財政的な問題など
活動上の課題があること、
ハナは足に問題を抱えていることを考え少し躊躇した。

そこで、メールなどでハナの身体的問題や飼養環境について、
里親さんのお考えなどをお尋ねした。
内容的には、最も懸念していた身体的問題も了承をいただいた。
更に会議アプリで顔合わせを実施し、問題などについて協議した。
顔合わせの時の協議内容は簡単な確認でおわったが、
そこでの里親さん希望者の印象は、
「真面目で誠実そうな方」であり、安心をした。

本来であれば、飼養環境確認と終生飼養の意思確認をするため、
実際にお会いして話すのだが、今回は会議アプリでの印象を信じ
里親さん宅でのトライ実施ステップに進めこととした。

まずは、ハンディーのある保護犬を迎えていただける可能性を
見いだせたことに感謝しつつ、ほっと安堵した。

ありがとう

優しいまなざし

7月から話をはじめ、ネットでやり取り行い
日程調整してみると、結局3.5ヶ月経ってしまった。
11月中旬の日曜日、里親さんのお宅に向かう。
最終的には会ってみないとわからないのだ。

高速道路は通常でも最も渋滞する区間が
更新工事のため一層混む予測があったのと
雨予報だったので、とにかく早めに出発。
ハナも初めての高速の長距離移動なので
その体調に注意しながら、こまめに休憩しつつ丁寧に走行した。

しかし、幸いに渋滞や天候に悩まされず
順調に目的地に進むことができた。

目的地で里親さんと会ってみると、ネットの印象通りに
真面目で優しい方だったので、まず安堵した。
全く知らない香りや音がする中で
里親さんと初対面したハナは
緊張した様子もなかった。

そしていざ、里親さんに引き渡した時、彼女が話しかけてきた。
「やっと来るべきところにこれたわ、ありがとう」って。
犬が話す訳ないのだが、僕にはそう聞こえたのだ。
ふと彼女を見ると、その瞳は安心しきった優しいひかりを放っていた。

ここに来ることが彼女の宿命だったのだろう。
いや、僕の使命は彼女をここに連れてくることだったのだと悟った。

あああ、良かった。
彼女は、ご家族の一員として
楽しく幸せに暮らすことができそうだ。
そして厳しい条件を承知し
気長に待って下さった
里親さんに大いに感謝である。

ハナを里親さんのところに届けた帰り道
暗くなった空から大きな雨粒が
これでもか!と思う強さで
フロントガラスを叩いてきた。
ワイパーは力いっぱい左右に振る払おうとするが
前方の視界は濡れたまま左右に流れる。
そんな高速を走り続けた。

すこし視界が曇る。
フロントガラスに雨の幕がついているかだろう。
流れるゆく視界に集中しつつ
「ああ、帰ってもハナはいない」

少し犬を引き受けるのをお休みしようと決めた。
そんなロス状態になるほど
ハナに入れ込んでいたとはおもわなかった。
ハナの優しいまなざしにほっとしたばかりなのに・・・

いろいろと教えてくれたハナよ、ありがとう。
達者に楽しく暮らせよ。

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