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できることをやってみる。自分を満たすと地球も変わる

コーヒーの2050年問題を調べるうちに、環境問題を身近に感じられたライター古澤。環境活動家・露木しいなさんに、更なる助言を求めると、意外な言葉が返ってきた。

「興味を持つことが一番大切なので、まず知りたいと思ってもらえてよかったです。ただ、できないこともあるという現状についても知ってほしいんです」

ん? できないことがあるというのはどういうことだろう?


完璧にやるのは無理だと知ってほしい

SHIINA organicでは、環境問題を考えて使用している全ての素材の産地を明らかにしようと試みたんです。いわば、化粧品のトレーサビリティですね。これがすごく難しい。めちゃくちゃ頑張りましたが、13種類中3種類は産地まで追えていないんです。オーガニックコスメの国際基準であるエコサート・コスモス認証をとっているのに、無理なことがあることを知ってほしいと思っています」
 
無理なことがあると消費者に伝えるのは、商品の弱みになるのではと思ってしまう。そもそもどうしてそんなに化粧品の原材料を追うのは難しいのだろう?

化粧品のトレーサビリティの難しさ

SHIINA organic口紅の主成分(オフィシャルサイトより)

「例えば1キロの有機シアバターを仕入れるとき、とても稀少なため、ほとんどの場合、原材料の種子を1つの国から集めることができません。だから複数の国から仕入れることになるのですが、加工するのはそれぞれ別の国、容器に入れるのも別の国……となると、追うところがありすぎてどこを経由してきたかがわからないんです」

その製品がいつ、どこで、だれによって作られたのかを追跡できることを「トレーサビリティ」という。
生産から加工までの履歴が分かり、安全性や品質管理にもつながるため、最近では企業にトレーサビリティの説明責任が求められ始めているそうだ。化粧品では原材料の調達、加工までの工程がとても多く、何ヵ所も経由して日本に届くため、すべての履歴を明らかにすることがとても難しいのだ。

「環境を考えながら化粧品を作ることの難しさを知ってほしいので、SHIINA organicのイベントでは原材料をわかる限りすべて展示しています。国際認証をとって商品作りをしていても、まだ無理なことはあるという現状を伝えたいんです」

SHIINA organicでは東京都・利島の有機ツバキオイルを使用している(露木さん提供写真)

どんなに頑張っても、すべてを調べ上げ、100%環境のためになる生活を送ることは現状とても難しい。わたしたちは生きているだけで二酸化炭素を排出しているし、廃棄過程で二酸化炭素を出すものを完全に避けることはできない。

無理なことはあると認めることが必要なんだ。

無理なことがあるんだから、100%でなくてもいい。50%でも20%でも1%でも、ゼロよりいい。そんな気持ちで環境を考えていけばいいのか!

目指すのは環境へのアクションの仕組み化

「それぞれの行動によって、どれくらい環境に良い影響があったかをはっきりと数字で表すことは難しいです。でも、見える化ができていないと、実感できなくて、続けられないですよね。だから、次は環境問題へのアクションを数字で見えるようにしたいと思っています」

「2024年の目標は、SHIINA organicの口紅1本でどれくらい二酸化炭素が削減できて、水やエネルギーの使用量が削減できたかを明らかにすることです。この環境活動の見える化は企業側が頑張らなくちゃいけないポイントですね。商品を購入する側は、デザイン性や性能で環境に良い商品を選んだり、企業のスタンスに共感したりして購入してほしい。自分が好きなように商品を選ぶなかで、たまたま環境に良いものを選んでいたという仕組みを作りたいと思っています」

そうか、消費者はすべての行動が正しくあるべきだと気負わなくてもいいんだ。「この商品を買ったら環境問題にどれくらい貢献できるんだろう?」 とは考えずに、好きな商品だから買おうでいいのか。

実際にSHIINA organicの口紅を手にとる人のなかには、使い心地がいいから使っている人も多いそうだ。露木さんの妹さんのように肌荒れに悩んでいた人から「20年近く口紅を使うのを諦めていたのにSHIINA organicのなら使える」というメッセージも届くという。

いい商品を手に取り、それをきっかけに環境を考える人が増えている。SHIINA organicがいい商品だからこそ、環境への興味の間口が広がったんだ。

生後6ヵ月の赤ちゃんから使える口紅。中央左の「04 BABY PINK」は2024年2月に発売

まずは自分を満たす

露木さんのお話を聞くうちに、環境問題を漠然と知りながら行動できない罪悪感が少しずつ薄れていった。自分の好きなことから環境問題を知る、自分が好きなことのなかで、できることからやってみる、完璧は求めない。自分のためにやっている行動に、ほんの少し環境への意識を追加してみることが大事なのかもしれない。

「まずは自分を満たすことが大切です。人間って満たされると、自分以外の周りにも何かしてあげたくなるんですよ。自分の好きなことや、やりたいことをして、満足できる自分になることが、最終的に環境へのアクションにつながっていくんです」

等身大の言葉に勇気をもらえる

環境問題について意識が低いと後ろめたさを感じるくらいなら、好きなこと、やりたいことを見つけて自分を満たすことが大切なのか。自分を豊かにすることが、全体の豊かさにつながっていく。自分を大切にした行動で、地球も大切にすることができるんだ!

自分が心地よい選択を繰り返せばいい

露木さんのお話を聞く前は、環境問題と聞くと規模が大きすぎてなにもできないと思っていたし、「環境を考えてこの商品を買っています! 」とかっこいいことを言わなくちゃいけないと思っていた。

でもそうじゃない。お金の節約になるからマイバッグやマイタンブラーを使うし、美味おいしいから国際認証をとっているコーヒーを買う。デザインが好きだからコーヒーかすでできた器を買ったり、好きな香りだからコーヒーかすを使った消臭剤を買ってみる。

「環境のためになにかやらなくちゃ」ではなく、自分が心地よい選択を繰り返して自分を満たす。自分を満たすことが地球の気持ちよさにもつながっていく。そんな風に生活の延長線上で環境を考えることができれば、すべての選択が環境を考えた行動になっていくのかもしれない。

意識が低くても、小さいことからでも、環境問題は考えられる。やりたいと思うことから少しずつやっていこう。
小さな意識が当たり前になれば、それはきっと、未来にとって大きな力になる。

家庭用手回し焙煎機「くるくるカンカン」も、梱包にビニール類を使用しない小さな意識あり


(おわり)


Supported by くるくるカンカン

クレジット

文:古澤椋子
編集:野田春香コヤナギユウ
撮影:尾藤能暢
校正:月鈴子
取材協力:露木しいな
制作協力:富士珈機

ライター・古澤椋子 https://twitter.com/k_ar0202
1993年生まれ、東京都板橋区出身。水産系の社団法人、ベンチャー企業を経て、2023年よりフリーライターとして活動開始。映画やドラマのコラム、農業系イベントの取材、女性キャリアに関するSEO、飲食店取材など幅広く執筆。在宅ワーク中心で、運動不足なことが課題。


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