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タオカフェとミクさんとの思い出

年の瀬に中学校の同級生の渕上くんと会うことになった。
急に決まったこともあり、時間は20時を過ぎていて、年末だから閉店している店が多くてお店選びに苦戦した。Googleマップでこの時間でも空いている店を2人で必死に探した。”タオカフェ”という店が空いていた。時間も時間だったし、そこに決めて、渕上くんの愛車”NOTE”で直ぐに向かった。

店内に入るとお客さんが数組いて、年末だというのに賑やかだった。席に座るまでの間、店の雰囲気とか内装にどこか懐かしさを感じた。「ここ前に来たことあったっけ?」「いやここ初めてだよ、勘違いだよ」と心の中で会話をしながら、それ以上は詮索はせず、案内された席についた。


コーヒーとパフェのセット。美味しかった。

それからは2人とも、深煎りのコーヒーを飲みながら、近況報告とか各々語り合った。2時間くらい話し込んだかな。楽しい時間はあっという間に過ぎてお会計に向かった。しかし、この時もお店に入った時と似た既視感を感じた。やはりここは以前来たことがあるのかもしれない。しかし中々思い出せなくて、もやもやした。そしてお会計を済ませて店を出る前にもう一度店内を見渡してようやく思い出したのだ。ここには来たことがある。いつ、誰と来たのかはすぐに思い出した。高校3年生の夏にミクさんと来たことがあった。

このミクさんとは自分の1つ上の先輩で大学の入試対策をしてもらった恩人だ。僕は地元の国公立志望だったけど、頭が悪かったので一般入試は諦めて、AO入試での合格を目指していた。そしてミクさんはこの大学にAO入試で合格された先輩だった。直接の知り合いではなかったが、知人に紹介してもらい、夏休みは予備校での対策に加えて、ミクさんに筆記試験のアドバイスや志望理由書の添削や面接練習などを何十回もしてもらった。

ファミレスやマクドナルド、喫茶店とか色々な場所で、対策をしてもらっていた。帰り際に次はいつするかまで決めてくれて、抜かりがない人だった。性格も裏表がなく、お店での立ち振る舞いなども、とてもクールでハキハキした人で、一緒にいるだけで頼もしくて、年齢は一つしか違わないのに、当時高校生の僕には大学生のミクさんがすごく大人にみえていたな。

思ったことは遠慮なく言ってくれて、面接練習でダメな所は厳しく詰めてくれたり、気が抜けていると叱咤してくれたりした。一方で志望理由書や自己PRなどの書類はとても丁寧に何回も添削してくれた。なんで自分にここまでしてくれるのか不思議なくらいだった。

その対策のとある日にこの”タオカフェ”に連れてもらった記憶がある。もう何を食べたのかも、何を飲んだのかも覚えていない。ただとても緊張してそれどころじゃなかったのは覚えている。いつの間にか会う度にミクさんのことを好きになっていたからだ。好きになってからは対策してもらっている間もミクさんのことを考えたり彼女のことをもっと知りたいと思うようになった。

そんなある日の対策終わり、ファミレスで2人でご飯を食べている時に不意にミクさんから「好きな人はいないの?」と聞かれた。僕は「いないです」と答えた。すると彼女は「やっぱり。確かに君は恋愛向いてなさそうだもんね」と笑いながら言った。こんなことをハッキリ言ってくれたのがミクさんらしくて、彼女に自分のことは全て見透かされていて、この人には叶わないなと思ったし、そこにまた惹かれた。続けて「君はかっこいいしモテそうだけど」とも言ってくれた。この言葉の真意は今でもわからない。

入試の直前には温泉に連れて行ってもらった。多分、勉強づけの自分をリラックスさせたかったのだろうな。帰りの車内で僕は「大学に合格したら付き合って下さい」とハッキリ言った。ミクさんは「受かったらね」と一言。僕は緊張で弱々しい声だったのに、ミクさんはいつものように、澱みなくハキハキした声だった。それでも当時の僕は「え!ということはミクさんと両思い!?受かったら、ミクさんと付き合える!?」と嬉しくなった。

入試の前日には「学校近いしうちに泊まりにおいでよ」と言われたが、母親に忘れ物や寝坊したらどうするんだと言われ「確かに!」と妙に納得してその誘いは断った。誘ってくれた意図は今でもわからずじまいだ。ただ単純にご好意でなのか、異性として誘ってくれたのかはわからない。

そして試験当日。一次が筆記で、二次が面接という日程だった。筆記試験はたまたま自分が得意な分野の評論が出たり、英文もすらすら読めたりと、過去問以上に手応えがあって、通過できた。ミクさんにLINEで報告すると「面接も落ち着いて頑張って」とだけ返ってきた。この時もいつも通りのミクさんだった。

翌日の面接も緊張せずに話すことができて、見事に合格することができた。これもミクさんの献身的な対策のおかげだな。入試前に交わした約束も叶えられる、そう思っていた。しかし、その約束が叶うことはなかった。合格を報告すると、”おめでとう”というメッセージと見知らぬキャラクターのスタンプが返ってきただけだった。

その後も約束は叶えられることなく、関係が恋人へ発展することもなかった。自分から約束のことを再度言った方が良かったのかもしれない。単にミクさんが約束を忘れているだけなのかもしれないから。でも本当に忘れていたのだとしたら、ミクさんは僕のことをそこまで気になっていなかったのだろう。それにそもそも両思いじゃなかった説もある。はたまた、ごく稀にいる付き合えそうになったり、両思いになったりしたら、突然冷めるというタイプの人だったかもしれない。

この中のどれが正解なのかはわからないし、そもそもこの中に正解はないのかもしれない。ただ、今こうして書きながら客観的に考えてみると、入試前の約束を断ったら、僕は試験どころじゃなくなるから、僕を慮っての返事だったとも考えられる。今となってはどうでもいいことだけど、当時は相手の気持ちも汲めずに、約束したのに、なんで?という一点でしか状況を見られなかったから、かなり落ち込んだ。それからは彼女と会うことも、連絡することもなくなった。

程なくして、僕は大学生になった。ミクさんと構内で偶然会って何度か話はしたが、当時交わした約束について話すことはなかった。僕はもうミクさんのことを異性として好きという思いは無くなっていたし、彼女も恋人ができていたから。それに今更蒸し返すことはなんか違うなと思ったから。

大学2年生になり、コロナ禍になってからは、キャンパスに行くことがめっきり減って、ミクさんと構内でバッタリ会うことも無くなった。彼女と同じゼミの友達によると、彼女はゼミの単位を落として、2回留年したらしい。となると、僕の方が早く大学を卒業したのかな。彼女は今も大学生を続けているのだろうか。わからない。別に知りたいとは思わない。最後までどんな人かわからない人だった。こうやって当時のことを振り返りながら書いていたら、久々にミクさんと話したくなった。会いたくなった。ミクさん元気にしてるかな?

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