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さよならシャボン(6) てのひら

てのひら

ハッキリしない意識の中、温もりの中で背筋を伸ばす。

まるで両腕を天に向かって突き上げるように。

肘も手首の区別もなく一本の幹のように。

その伸ばした右の先にある、枝分かれした、親指、人差し指、中指、薬指、そして小指。

枝の一本一本を意識して、ゆっくりと、力強く握り込む。

そのまま口を開けて、冷え切った部屋の中の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。

否が応でも意識は覚醒して、早朝から予定がギッシリ詰まっていたことを思い出す。

温もりの誘惑を退けて、身体を跳ね上げる。

白い息を吐き出し、歯をカチカチと鳴らしながら白いシャツ、黒いスーツを身につけて、まだ暖かいうちに己の芯を包んでいく。

そういえば、今日は天気はいいって、ラジオが言っていたっけ。

昨日より少しだけ、防寒性よりオシャレを意識してコートを羽織った。

足踏みしないよう、思い切って玄関を開けると部屋の中より更に数段冷たい空気が頬を撫でる。

一歩踏み出し、空を見上げると確かに太陽は顔を出している。

それに向かって掌を突き出し、指の一本ずつをゆっくり握り込み、太陽に重ねる。

見上げたまま、ほう、と真白な息を吐き出すと腕を下ろし、太陽を手に歩き出した。

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