さよならシャボン(16) ソーシャルディスタンス
君が本当に距離を空けたいのは、細菌なんかじゃなくて僕なんじゃないのかなあ。
突然流行り始めた感染症。
僕らは既に始まって三年以上。
『外出禁止!』『外出禁止!』
国の言葉に従って、外に出るのを控えようと提案した君。
ちょうどいい、それならうちにおいでよ。
これ幸いと、軽いノリで伝えようとした言葉は
『接触禁止!』『一家一人!』
テレビの騒音に掻き消されてしまった。
『暫く会えないね』
なんて、神妙そうに呟く君の横顔に、僕は言葉を飲み込んでしまった。
思えばあのとき間違えた。
いや、最初から君は聞こえていたのかもしれない。
最初はマメだった連絡も、半日、一日、二日、三日と伸びていった。
返事が来なくて、見返してみて分かったことだけど、連絡するのはいつも僕だったんだね。
携帯はもう、一週間は君の言葉を届けてくれていない。
君の声を、直接聴いたのはあの時。
電話越しに聴いた声すらも、二ヶ月前。
僕自身、薄々気付いている。
それでも…
『ソーシャルディスタンス!』
大音量でテレビのコメンテーターが毎日口にしている、その言葉。
…そう、ソーシャルディスタンスだから、そうなんだよね?
気付き始めている理性を、希望的観測で塗り潰した。
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