さよならシャボン(13) 春告げ妖精
まだまだ街は雪化粧の重ね塗りを繰り返している頃
地肌が見えたと思えば、再び雪化粧でそれを覆い隠す、そんな時期
街がどれだけその姿を変えようとも、僕の目にそれは映らない、映す余裕もない
白い街に似つかわしくない、着古してよれた、小汚いトレンチコートで彷徨う僕は、化粧を剥ぐ為に存在するかのよう
そんな曇り切った僕の目にも届く、眩い君の姿はまるで春そのもののようだった
なんて美しいのかと、ただ見惚れていた
"ソレ"はいつもただそこに在った
僕はその姿を見るだけで心が震えた
僕のような、化粧を剥ぐだけの人間でも存在することを許される、そんな気持ちだった
天気は快晴、透き通ったような青い空。季節感を忘れた太陽が輝いている
いつものように見に行った"ソレ"は、もうどこにも、跡形もなく消えてしまっていた
突然だ、あまりに突然過ぎる
天を仰ぎ、太陽を睨み付けると、周りの人の視線が突き刺さる
我らが太陽を睨むとは何事かと、敵意に満ちた視線だ
いたたまれない僕は肩を落とし、その場を後にする
あの日春を告げてくれた君はもういないのだから
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