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知的財産は人殺し

ケヴィン・カーソン氏の「Intellectual Property is Murder」の私訳文です。
意訳も有り、正確性の一切に責任は持てません。原文はこちら
原文の著作権は放棄されています。
そして、本記事の一切について、カーソン氏に倣って著作権を放棄します。
最下部にライセンス表記があります、ご自由に盗窃してください

知的財産は人殺し
ケビン・カーソン

欧州連合(EU)とインドとの間で締結された、いわゆる「自由貿易協定」の中には、インドのジェネリック医薬品業界を衰退させる「治験データ独占権」の条項が含まれています。

「治験データ独占権」とは、医薬品を最初に製造した会社が販売前に行った臨床試験を、ジェネリック医薬品の安全性や有効性の要件を満たすために適用することができないというものです。即ち「特許を取得した医薬品のジェネリック版を販売しようとする別の企業は、まず前提として独自に臨床試験を行わなければならない」
このことは、特許擁護派がよく唱える事のひとつである「特許は、特許取得の条件として公開性が求められるため、企業秘密の解毒剤になる」という意見と真っ向から対立します。

この「治験データ独占権」なるものは、国から与えられた特許独占権の所有者に金を貢ぐ余裕のないインドの人々だけでなく、南アフリカやブラジルなど、HIV治療のための安価な薬の入手がインドのジェネリック医薬品産業の生産量に依存している国々の人々にとっても、死刑宣告なのです。

この際、はっきりしておきましょう。この忌まわしい協定を「自由貿易協定」と呼ぶ人たちは噓つきです。それはニュルンベルク法(註1)を公民権法と呼ぶようなものなのです。製薬業界の人々とワシントンやブリュッセルにいるその手下たちは、穢れた噓を吐く己の口から「自由貿易」という言葉を出すたびに、自らの頭に燃えた炭を積んでいるのです。(註2)

医薬品の開発費用を回収するために特許が必要だと主張する人たちは間違っています。特許制度は結局、最も効果的な薬を開発することよりも、制度を潜脱して研究開発を行うことに、彼等を偏向させています。

まず彼等は第一に、ブロックバスター(註3)的新薬から、もっと安易な道へ劇的にシフトしている。なぜなら、特許が切れそうな薬の処方に手を加えて再特許化の資格を得る、いわゆる「改良型新医薬品」に資金を投じる方がはるかに費用対効果が高いからです。

第二に、医薬品開発の基盤となる基礎研究の多くは、国費を投じて公的機関である大学で行われている。医薬品の研究開発費全体の約半分が税金で賄われているのです。米国では、1980年代に成立した法律により、税金を使って開発された医薬品の特許は、その医薬品を製造・販売する製薬会社に無償提供されています。

第三に、医薬品開発にかかる実際の研究開発費のほとんどは、実際に販売される薬をテストするためではなく、競合する可能性のあるすべての代替医薬品の特許を確保してしまうためのものである。

この現象のもう一つの例は、いわゆる「緑の革命」の表向きの利点の一つである「高収量品種」に関するモンサント社の特許である。このような品種は、フランシス・ムア・ラッペが指摘するように、正確には「高応答性品種」と呼ぶべきものです。それは、地元の自給農家が経験する通常の条件の下では、数世代にわたって地元の条件に耐えられるように開発された品種のように、特別に強いわけでも、回復しやすいわけでもありません。むしろ、高価な合成肥料や政府が補助する灌漑用水の大量散布などの人工的な条件で高収量が得られるように設計されているのです。

言い換えれば、モンサント社の遺伝子組み換え品種のような「高収量」品種の種子は、第三世界の様々な支配者が所有するプランテーション(大抵は自給のため持っていた先祖伝来の土地の権利を無効にされて立ち退いた農民から盗んだ土地)での換金作物による大規模アグリビジネスのニーズに理想的なのです。つまり、モンサント社の種子は、自給自足の生産にではなく、国が人為的に利益をあげる特定のビジネスモデルと結びついている。

実際には、広く分布する小規模な自給自足の土地から、輸出市場や都市市場向けの大規模な商業生産へと生産を移行させる効果がある。立ち退きの圧力(基本的には、現代における「囲い込み」(註3)の再現)と国が補助する競争の下で、以前は自分の土地で自給できていた人々が、今ではその土地所有者である政商の商業的農業のために拵えた大農園から食料すら買えやしないのである。

さらに、モンサント社の特許は、種子を保存することを禁止しており、結果として小規模農家にとってその種子は購入を困難ならしめる程に高価なままとなってしまいます。

あゝ「知的財産」なる言葉は、黙示録における四騎士の内の二人が象徴する「疫病」と「飢饉」という尺度で見られるべきなのです。

知的財産の擁護者たちは、著作権や特許権を侵害することを「窃盗」と呼んだりします。
しかし、真実は逆なのです。知的財産こそが「窃盗」なのです。

そして、それ以上に、人殺しなのです。

註1:「ドイツ人の血と名誉を守るための法律」と「帝国市民法」の総称、ユダヤ人迫害法。
註2:旧約聖書・蔵言書・25章21節から22節
註3:BLOCKBUSTER. 従来の治療体系を覆す薬効を持つ新薬
註4:ENCLOSURE.細かい土地が相互に入り組んでだ土地を統合して大きな土地を確保すること。農民から土地を奪うこととなった。
聖トマス・モア(彼に天主の御満悦あれ)評して曰く「羊が人間を喰い殺している」
知的財産は人殺し Translation: 2021, Year of original publication: 2011 by Originally written by Kevin Carson and translated by Kuroyuki is marked with CC0 1.0. To view a copy of this license, visit http://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0

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