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「その名はパンドラ」というお話し

私の職業はバスの運転手。
とはいっても、あなたが想像したような、路線バスや観光バス、長距離バスの運転手ではない。

私がのせるのは小さい子供のみ。
いや、そういう危ない趣味をもってるわけじゃなく、幼稚園の送迎バスの運転手だ。

うちの幼稚園は3台のバスがあり、それぞれに絵がかかれていて愛称となっている。
絵は1年ごとに変わるのだが、今回はテーマが食べ物で、それぞれ「ステーキ」「ケーキ」「サラダ」が描かれていて、その絵が愛称として使われている。
私の担当は、そう「サラダバス」だ。

子供というのは無邪気で、そして残酷で、ステーキバスやケーキバスに乗る時は「やったー!」と喜んでいるが、サラダバスは「ボク、野菜嫌いなんだよなぁ」と落胆する態度をありありと見せ、私のハートを深くえぐってくる。

ある朝、登園のために園児を乗せて幼稚園についたとき、園児たちが降りながら口々に「明日はケーキバスがいいなぁ」といいながら降りていく。

大袈裟だが、私の心は絶望に染められてしまった。

がっくりと肩を落としていたが、そうもしていられないと最後の確認のために顔をあげて振り返ると、一人女の子が残っていた。

女の子は降り際に満面の笑みでこういった。
「ワタシね、サラダ大好き。トマトおいしいもん!」

最後に降りていった天使がワタシに希望を与えてくれた。

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