【随筆/まくらのそうし】 百足(ムカデ)
ムカデは断然、赤いものが恐ろしい。
そもそも赤が一番大きく、オオムカデとまで呼ばれるもので、その威にあやかり戦国時代、旗にムカデを掲げたり、兜鎧にしたりと、強さの象徴だったのだから、今も昔も変わらない、人の本能が恐れるものだということだ。
しかし、ムカデを怖いと知りながら、それが赤々したものでなく、白っぽい、灰色っぽいものについては、岩の下のダンゴムシ、縁の下のヤスデに似て、日に当たらぬ為に白いのかと、そうぼんやり思っていたが、それは種類の違いらしく、よくよくムカデを観察すれば、確かに数種、いるようだ。
さらに調べを進めれば、何とムカデ、卵を産んだその母が、子ムカデに餌を分け与え、子育てをするものだという。
子育てをするとそうなれば、恐ろしいを超えて恐ろしく、SFなどで、アリの支配した星などあれば、ムカデに支配された星もあるのではないかと、さすれば人に勝ち目はないと、いまこのときから白旗を、上げたいような気分である。
幸い、この星ではムカデはムカデ、我々人はこれに出会えば、人類の蓄積した知識をもって退治する──すなわち、鋏でチョキンとする、その安全確実な方法を、既に入手済みなのであった。
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