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【随筆/まくらのそうし】 アンビバレント

 アンビバレントというのは、相反する感情を心に抱いているという状態である。

 意味の分からない横文字とは素敵なものだし、語感もなかなか良いというわけで、一時期、よく耳にした。

 無論、そんなものは、好きだけど嫌いというような、惚れた腫れたの話であって、それは真にアンビバレントかと、首を捻ったものではあるが、夏に向かうこの時期に、アンビバレントが止まらない。

 玄関先や部屋の隅、アシダカグモの動かぬに。

 これは手のひら大の大きなクモで、恐ろしくはあるのだが、ゴキブリを捕らえてくれるまさに益虫、通常、素早く動いているので、動かぬときは死んだとき、恐怖を堪え、片付けようと近づけば、しかし、それは乾いた抜け殻。

 そうだ、この時期これらは脱皮をし、より大きくなっていくのだと、毎年忘れ、思い出す、その死に感じた安堵があれば、生きていたのだという安堵もあり、より巨大化したのが生きているという恐怖とともに、益虫という評価もあり、それは互い違いに相反する、アンビバレントな感情である。

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