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小説 『何が、彼女を殺したか』 (7)

▶︎目次

村野正臣からの手紙


 雨ヶ谷洋介様

 前回、差し上げたお手紙は読んでいただけたでしょうか。もし、読んでいただけたのなら、一言でもお返事をくださると、とてもありがたいです。

 もし、刑務所に手紙を出すことに抵抗がおありになるのでしたら、私の弁護士を通じてご連絡をくださっても構いません。ご存知かと思いますが、担当は野洲久美子弁護士です。「野洲久美子法律事務所」宛にお願いします。

 ところで、又聞きではありますが、私の手紙がマスコミに流出しかけた件につきまして、雨ヶ谷様がお怒りになっていると聞きました。詳しい事情は私にも分かりませんが、あれはマスコミが手紙の存在を嗅ぎつけただけであり、野洲弁護士が情報漏洩したわけではありません。ですので、どうか彼女のことを責めずにいただけたらと思います。

 さて、刑が決定したいまも、私がこうしてお手紙を差し上げるのは、贖罪の気持ちを表すと同時に、罪を犯した私のことをもっと知っていただきたいと思うからです。

 私がどうして罪を犯したのか、犯さざるを得なかったのか、その背景を理解していただければ、雨ヶ谷様のお気持ちもきっと和らぐはずだと信じているからです。

 私の夢は、刑を立派に務め上げ、仮釈放になったその日に、堂々と雨ヶ谷様と会うことです。そしてもう一度お宅を訪ね、真紀ちゃんに謝罪することです。その夢がいつか叶うと信じて、私は手紙を書き続けています。

 もう離婚されたそうですが、奥様の美希子さんは、私の手紙に返信してくれるだけでなく、ありがたいことに野洲弁護士と一緒に、面会にまで来てくださっています。これはとても愛のある尊い行為だと、日々感謝しております。

 面会室にて、雨ヶ谷様にもお会いできますようにと祈りつつ、筆を置かせていただきます。

 19XX年12月3日 村野正臣  


▶︎次話 断絶の章(前編)


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