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小説「笑う門には福来る」

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毎週日曜更新。日々退屈で憂鬱なアナタに心ほぐれるギャグをお届け!寝ても覚めてもふざけ倒す主人公(12)が巻き起こすドタバタ日常劇(全23話)です。
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2023年12月の記事一覧

笑う門には福来る第14話 親しき仲に礼儀あり

笑う門には福来る第14話 親しき仲に礼儀あり

 夕飯時、テレビで花火特集をしていた。
「これいきたい!」声を上げた小春に母は眉を下げる。
「んー、次いつ休み取れるかな」
「じゃあ『でんしゃ』でにーちゃんたちといってもいい?」
「いいけど、キョウか誠司が必ず一緒に行くこと!」
 拓海はおそらく外に出ない。茂はまだ小学生だ。近所ならまだしも、遠出させるのは不安だった。
「にいちゃん、あれいきたい!」
「キョウと行って来い」
「オレ、その日バイト」

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笑う門には福来る 第13話 親の心、子知らず

笑う門には福来る 第13話 親の心、子知らず

 梅雨に入った。湿度の高い、じめじめとした暑さが続く。少し外に出ただけで、じんわり汗をかいてしまう。クーラーの効いた家の中で、茂は大人しくしていた。外は雨風が強く、電線が揺れているのが窓越しに見える。
 テレビでは台風情報が流れ、天気の隣に警報が表示されている。茂と小春は休み、高校生の長男と次男は自宅待機だ。
 各部屋で好きなことをして過ごす兄たちに対し、茂はリビングに一人だった。いつもの笑顔はな

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笑う門には福来る第12話 恋に師匠なし

笑う門には福来る第12話 恋に師匠なし

 公園には水たまりが大量発生していた。ブランコや滑り台、茂みの蜘蛛の巣は水滴がついて煌めいている。子どもたちは傘を差し、自身の体とランドセルをかっぱで覆って集合していた。
 茂はねこじゃらしを手に、登校班と合流する。
「おはよう! いい天気だね!」
「カエルにとってはな」
 あとは坊主の石川を待つのみだ。その間、茂は傘を思い切り振ってひっくり返し、暇をつぶす。
「壊れちゃうよ?」
 結果、元に戻せ

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笑う門には福来る 第11話 渡る世間に鬼はない

笑う門には福来る 第11話 渡る世間に鬼はない

 茂は、次男と三男の共用部屋を訪ねていた。小春はピアノ教室へ、母はパートへ、長男はバイトへ、次男は部活の助っ人へ出かけている。
 そっと扉を開けると、三男の拓海は布団の中だった。おもちゃのマイクを手に、茂はリポートを始める。
「みなさんこんにちは! 藤原家随一のボケリスト、茂です! さあ始まりました、突撃兄ちゃんの部屋。当の本人は夢の中なので、目を覚ますまで物色していきたいと思います」
 三男の寝

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笑う門には福来る 第10話 できる者、できない者

笑う門には福来る 第10話 できる者、できない者

 休日、京太郎は妹との約束を果たすため支度をしていた。誕生日の埋め合わせである。五月に誕生日を迎えて、ようやくバイトができるようになり、金を貯めたのだ。
「早くしろよ。人混んで座れなくなるぞ?」
「まって!」
 女の準備は長い。まだ園児のくせに。
「おまたせ!」
 出てきたのは小春ではなく茂だった。京太郎は悟る。
「お前も来るの?」
「だめ?」
 いつも何かとさせている上に小春のご機嫌とりが上手い

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