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ランナーの話:「道産子丸」後編
40代になっていた道産子丸にとって、妊娠は予想外だった。もちろん、最愛の人との子供が授かることが嬉しくないはずはない。ラン友が沢山集まるウェディングパーティも、それはそれは夢の様に美しかった。
何も文句はない、
はずだ。だけど、複雑な気持ちはあっただろうと想像できる。
2017年2月のロッキーラクーン100マイルレースを、22時間で完走し、女子7位となり、これからもっと上位を目指せると思っていたはずだ。
40代に入り、自分の体力の衰えを感じる前に、ベストな走りを極めたいと思っていたとしてもおかしくない。
だけど、妊娠した。
同じランナーの旦那は、変わらず、好きなレースに出れるというのに、自分は妊娠、出産という時間、レースを、走りを諦めないといけない。
これは多くの女性が直面する問題だろう。レースじゃなくても、仕事でも。
妊娠中も、差し障りのない程度に道産子丸は、走り続けた。
出産後も、少しの時間を見つけては、走っていた。
今日は、2マイル走れた、今日はストローラーでランニングクラブに参加した等の投稿から、道産子丸のランニングワールド復帰への熱望と焦燥感を痛いほど感じた。
早く、戻りたい。その場所に早く、早く、戻りたい。
そして、彼女は出産から1年も経たないうちにその世界に戻ってきた。
2018年10月・ハベリナ100マイル。彼女の復帰戦はアリゾナの広大な自然の中のグルグル100マイルレース。
レース中、レース会場内に設営したテント内で、旦那がベイビーのお世話をした。同じランナーの彼には道産子丸の気持ちが理解できるからこそ、買って出てくれたようだ。レース中に何度か、テントに立ち寄り、ベイビーに必要なことをやり、そして、またレースに戻りを繰り返した。結果、彼女は、22時間53分というブランクを感じさせない素晴らしいタイムで完走した。
グズるベイビーをあやしながら、ファミリーで完走した100マイルレース。
最高だった、やっぱり、ランニングワールドに戻って正解。
そう思うはずだった。だけど、道産子丸は気づいてしまった。
愛するベイビーに我慢させてまで、やることだろうか、と。
以来、憑き物が取れたように、道産子丸はランニングに執着しなくなったように見える。その代わり、ベイビーと過ごす日々の面白さ、可笑しみに夢中なのが分かる。幸せが、SNSの画像から溢れ出ている。
そんな道産子丸の生き方を、私は、”すごくイイね。”と感じる。
そして、知っている。きっと、近い将来、道産子丸はもっともっと強くなってランニングワールドに戻ってくる。その時は、必ず、レッドビル100にまた挑戦するだろう。
そんな彼女を、成長したベイビーは誇りに思い、自分もママみたいなウルトラトレイルランナーになりたい!と思うに違いない。
(おわり)
オマケ:2020年、道産子丸ファミリーは、NYからアリゾナに引っ越した。どうやら、彼女と彼女の旦那、ベイビーとのハベリナレースは、ゴール後も続いてるようだ。
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