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「ショートストーリー」:空の森➅

ランニングから戻ってきた無数(かずなし)は、妙にスッキリした顔をしている。無数にとって、ランニングはヒーリングの役目も果たしている様だ。(最初から読みたい方はこちらから↓)


「ランチにパスタ茹でるけど、食べる?」

キッチンで鍋に水を入れながら聞くと、部屋から、「イエッス!多めで。」と元気な返事が返ってきた。

茹でている間に、ニンニクを刻み、玉ねぎを薄切りにし、鍋を取り出し、鷹の爪と一緒にオリーブオイルで炒める。途中、パンチェッタも投入し、お気に入りのトマトソースをドバッと入れる。最後に隠し味で、ホワイトビネガーを入れて完成。味見をする。うん、美味い。

アルデンテに茹でたパスタを湯切りして、鍋に投入、混ぜ混ぜして、皿に盛る。無数の方の皿は、パスタが多すぎて、少しはみ出そうだが、まぁ、いいか。

二人で、テーブルに向かい合って食べる。
走って消費したカロリーを、速攻チャージしているかの如く、豪快に食べる無数を見ていると、気分が良い。作った甲斐があるというものだ。

「ねぇ、素良。素良にとって、男らしさとか女らしさって何?」

何、徐に哲学的な話を振ってくるのだ。それも、その日やその時期やその時々で男女どっちにもコロコロ変わる僕に。

「それ僕に聞く?(笑)」

「だって、素良って、『今日は男な気分』なことを言うじゃん。主語も変わるしさ。」

「あー、考えたことなかった。って言うか、男も女も、考えて男だったり、女だったりしてないよな。脳がそう判断するだけだろう。僕の脳だってそうだよ。今は男だって判断しているから、男。それだけ。」

「えー、じゃぁ、”らしさ”って何だろう?”らしい”でも、”らしく”でもいいけどさ。」

無数、誰とどんな会話してきたんだ?
こいつは本当に素直な奴だから、すっかり、そのネタのトリコになっている様だ。

「僕に関しては、そうだなぁ、アセクシャルでクエッションな自分は、”自分らしい”よ。それを、隠さず、生きているのが、”自分らしさ”であるし、ただ、うーん、”自分らしく”あろうってのが、一番、厄介かもな。」

「なんで?」

「だって、なんか自分にプレッシャー与えているみたいじゃん。これほど、流動的な僕の自分って定義できないし、定義する気もないよ。自分で自分を息苦しくするドMな趣味は僕にはない。」

そう、僕はどこまでも自由でいたい。もし、無数が、「それは、”素良らしく”ないよ。」なーんて言ったら、、、あ、そうか、家賃の話で、そう言われたか。僕が嫌いな仕事を引き受けてでも、お金を稼ぐのが、”僕らしく”ないって言っていたよな。

「素良。」

少し思考に入っていたらしい。いつの間にか、パスタを食べ終えていた無数が真剣な顔をして、僕を見つめていた。

「素良の生き方、選択、僕は応援する。いや、応援はおこがましいか。単に、良いと思うで、良いよね。どんな選択も、”素良らしい”、で良いよね。」

よく分からんが、そんな無数が、何より無数らしいよ。








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