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スカイとマルコ(1)・下界へ

あたしとマルコは、イタズラが過ぎて、神様から怒られ、「少し反省してこーい。」と、下界に落とされた。
下界では、私たちは、”犬”と呼ばれる生き物になっていた。

「あら、この子達、捨て犬かしら。かわいそうに震えちゃって。」

雨の中、行く当てもなく、マルコとシャッターの閉まったパン屋の軒下で震えていると、一人の女の人が声をかけてきた。
ようやく、行き先が見つかったと、安堵したら、その女の人が続けて言った。

「ごめんね、うちでは飼ってあげられないの。」と。

そんなやり取りを何回聞いただろう。
人間って、”可哀想”って言うだけで、何もしてくれない生き物なんだと結論を出そうとした矢先、「もう、大丈夫だよ。」と言って、あたしとマルコを抱き上げてくれた男の人がいた。

その男の人が連れて行ってくれたのが、シェルターという場所だった。
そこには、何十匹の犬たちが、一匹づつ柵で仕切られたスペースに入れられており、あたしたちがやってきたら、「お、新入りか?」「まだ、パピー(仔犬)じゃないか。」と大騒ぎになった。

「はい、はい、落ち着いて。騒がない。」
男の人が犬達に言いながら、あたしとマルコを一番奥のスペースに運んで、入れた。
「君たちは一緒が良いだろう?」
そう言って、タオルで濡れた身体を拭いてくれた。
ご飯もお水もくれた。

マルコは、「スカイ、良かったね。」とニコニコして、ご飯をガツガツと食べ、水をガブガブと飲んで、「あー、お腹いっぱいになったら眠たくなっちゃった。」と、薄っぺらい毛布に包まって、あっという間に寝始めた。

あんたは本当にノー天気で羨ましいよ。

あたしは、フッとため息をついた。
そして、銀色のボウルに入った、”ご飯”なるものの匂いを嗅いでみた。

神様と一緒に暮らす世界では、何を食べていたんだっけ? 思い出せない。でも、お腹が空いて辛いなんて記憶はなく、いつも、満たされていた。
だけど、この下界に落とされ、何時間も雨の中にいたら、段々、お腹が空いて、空いて、堪らなくなった。
そんな時に、こんな風に出された”ご飯”、あたしはマルコと違い、なんだか怖いと感じてしまう。
お腹はペコペコで痛いぐらいなのに。

「あれ、君はお腹空いてないの?そんな事ないよね。だって、ヨダレが出ているよ。大丈夫だよ。毒なんて入ってないんだから、食べて大丈夫だよ。」

あたし達を連れてきた男の人がやってきて、あたしの目を見ながら言った。
あたしは、その男の人を見上げた。
人間は、あたしが上から見下ろしていたものより、ずっと巨大だった。

怖い。

咄嗟に、私は歯を剥き出し、戦闘態勢に入った。

(続く)




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