ランナーの話:「ジミー」前編
「僕って、そんなにスペック悪くないと思うんですが、なんか地味なんですよね。印象に残らないっていうか。」
確か、2014年か、2015年かのNYCマラソンの打ち上げで、ジミーは、自分のことをそんな風に語っていた。
なるほど、ジミーは、東北の一流国立大学出身で、名の知れた企業に勤め、顔立ちも決してブサイクではなく、体型も細マッチョで、マラソンもサブ3.5で、スペック的に全然、悪くない。だが、本人が自覚している通り、彼という存在は、雑踏に紛れたらさっぱり分からなくなりそうだし、1度会っても、次に名前を思い出せそうにない気もする。
「それって、スパイとか刑事向きなんだよね。雑踏に紛れ、存在感を消せるって。」
ジミーに「本当にそうだね。」なんて言って良いのか分からなかった私、黒リスは、そんな返事をしておいたのを記憶している。しかし、その黒リスの言葉をあっさりスルーして、ジミーは、モテる要素満載の自分がモテないのは何故か?そして、今後の自分のランニングの展望を滔々と語っていた。
その数年後に、日本からNY 100マイル(160キロ)レースに遠征で来たランナーのペーサーを頼んだ時の反応もジミーらしかった。
「良いですよ。でも、僕、何も面白い話出来ないですよ。ただ、横で走ることしか出来ないですけど、それで良いなら。」
実に面白い奴だ。そこまで自覚しているなら、普通は変わりたい、変わろうとしそうなものだが、ジミーにはさっぱりその気はない。頑固を通り越して、”強靭な意志を持つ”と表現したいぐらいである。そして、そんな性格は、非常に長距離ランナー向きであろう。大体において、長距離ランニング程、地味なスポーツはない。何が楽しくって、足を前後にひたすら出し続けけないといけないのか?そんな究極に地味なスポーツに、ジミーの性格はぴったりである。
因みに、ジミーの初マラソンは、2012年のシカゴマラソン。初マラソンのタイムは、3時間31分25秒。初マラソンのタイムとしては、相当、速い。
きっと、本人も、”どんどん速くなっちゃうかも?!”と心踊ったであろう。
だが、ジミーのマラソンタイムも、性格同様、恐るべき安定感を保ち続けたのであった。
(続く)
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