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夜間対応の有無

夜間救急、というサービスはみなさんご存知だと思います。

夜間対応できる動物病院をかかりつけにしたいと思うのではないでしょうか?
今日は夜間対応について飼い主さんにご理解いただきたい点を述べたいと思います。

夜間救急と時間外診療は異なる

夜間対応が、救急なのか時間外診療なのか、よくご理解されていない飼い主さんがほとんどなのではないでしょうか。
そもそも獣医師の中でもこの違いを意識しておらず、実態は時間外診療の範疇に留まるのに、夜間救急と名称をつけている動物病院はたくさんあります。

救急とはどんなときか

時間外診療は、普段の診療内容を延長して時間外でも飼い主の要望に応えて実施することです。
このとき、夜間の緊急手術や寝ずのモニタリング(血圧や脈拍などの確認を定時的に行うこと)にも対応できる場合は夜間救急と言えるでしょう。
実は、ドラマみたいにすぐ緊急手術しないと死んでしまう!みたいな症例はそうそうお目にかかりません。
お腹の中の腫瘍(肝臓、脾臓、副腎腫瘍など)からの止まらない出血、胃捻転、難産時の帝王切開などでしょうか。
むしろ点滴・投薬をして血圧等を安定させてから臨んだほうが良いような場合もあります。
交通事故時の横隔膜ヘルニアなどは緊急手術したほうが予後が悪かったというデータなんかもあります。(早期に手術した群が症状が重篤で待てなかった、という可能性は捨てきれません)
この判断はよっぽど知識がないと正しくできないし、経験も必要です。
正しくその動物の状態を把握し(例えば貧血や血圧低下)、問題点を起こしている原因を把握し(例えば腹腔内腫瘍からの出血)、即対応したほうが良いのか、待てるのかの判断が必要です。そのためには止血剤を使って輸液をしてみる、とか輸血をしてみるとか、そしてまたモニタリングして結果を判断するなど、とにかく煩雑な思考とトライ&エラーを繰り返していく必要があります。
とても一人ではできません。
夜間に獣医師の先生が一人だけいて、夜間救急です、というのはちょっと無理があります。

手術が必要ではないけど緊急である疾患は存在します。
肺水腫や肺葉捻転による呼吸困難、異物による閉塞、痙攣発作、椎間板ヘルニアなどでしょうか。
これらに関しては時間外診療でも対応は可能で、飼い主にとっては不安でしょうがないでしょうから、この対応は非常にありがたいものです。
では、夜間救急と比べて十分な対応かと言われればそうとは限りません。
さきほど緊急手術が必要かどうかの判断を一人でこなしていくのが難しいのと同様に、これらも状態の改善、悪化を判断していくためには様々なモニタリングが必要です。
場合によっては眠らせて人工呼吸管理を行うなど、より積極的な治療を行ったほうが治療法として優れる場合があります。つまりは麻酔管理です。
こうなってくると、救急対応が可能な動物病院でないと難しくなってきます。

また、夜間救急は基本的に(お金さえ支払ってくれれば)誰でも受け入れます。
多くの動物病院にとって、夜間に駆け込んでくる新患の飼い主さんは、できれば避けたいところです。その時支払いができないなどといってそのまま支払いに来なかったという経験を多くの獣医師がしていると思います。
そういった側面でも、個人病院で夜間救急で広く受け入れていくことはなかなか精神的にしんどいものです。

動物病院における時間外診療の現状

時間外診療でも、救急に対応するケースがあることは小動物臨床業界の中で暗黙の了解として広く受け入れられています。
もし時間外に診てほしいと相談を受けて断った場合、動物のために診てくれないなんて、と批判される始末です。
(獣医師には診療に応じる義務があるため、実際は断ることができないのですが)
若い獣医師は体力があり、経験やお金も欲していますから、時間外も対応して当然というような風潮があります。
救急の症例を担当した獣医師は眠ることはできませんし、旧態然とした動物病院では、翌日もその獣医師が勤務することでなんとか運営しているところもあります。
経営者である院長が延々とこれを行うのはまだ法律的にも許容されますが、そもそも労働基準法を守れていないという問題があります。
毎日のようにこの状態が続けば当然スタッフが疲弊し、退職者が続出して破綻しますので、時間外対応はあくまでも一時的な対処で応じれるものに限られます。
実際の所、夜間救急がしっかり形になっているのは都市部に限られます。
地方ではあくまでも時間外診療を行いつつ、無理してたまに救急を受け入れている、と思っていただきたいと思います。

一つの動物病院は、獣医師1〜2人がほとんどです。そもそも夜間救急を行うには無理があるのです。それでも、地域の飼い主さんを守るため、その良心に基づいて心身を削ってサービスを提供しているのです。
そこで、いろんな地域で多くの獣医師が一つのチームを作って交代性で時間外診療・夜間救急を行っているような例も見られます。しかし、悪く言えば寄せ集めのチームですので、本格的な救急まで行えるチームは限られると思います。

時間外診療が悪いと言っているわけではありません。
飼い主のニーズに答えるように、夜間救急は近年急速に発展し、その内容や体制が進化してきました。当時であれば十分であった夜間救急を今でも継続しているという動物病院もあると思います。

あなたがかかりつけにしている動物病院は、夜間対応していますか?
それは夜間救急対応ですか?それとも時間外診療ですか?
本当の救急時にあなたはどこへ向かうべきか、認識していますか?
都市部では特に意識してほしいと思います。

地方の場合、もしかしたら周囲にそのような夜間救急に対応できる施設はないのかもしれません。
それを覚悟の上で、あなたが命を預けて良いと思える動物病院を見つけておきましょう。
必ず地方にも、心身を削ってできる限りを尽くしてくれる獣医師がいるはずです。

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