ビジネスはドラクエだ!! 〜第2編 見えてきた理想世界〜
※このnoteは続編です。前の話を読まれていない方はこちら↓↓から読んでください。(前作を読んだ前提で書いていますので、読んでいない場合は置いて行かれます。)
それでは続編スタート、の前に第1編の登場人物で今作にも登場する人を復習しておきます。(今作から苗字がついたり設定が増えていたりします。)
片桐らん
今作の主人公。「お互いの挑戦を応援し合える世界」の実現に向けて突っ走る女性。らんラボという500人規模のコミュニティを作りあげた。
吉田あゆみ
らんのことを慕う女性。らんラボ設立にも大きく貢献し、らんについていく中で自身も大きく成長した。
水川妃(みずかわ きさき)
らんのメンター的存在。企業のトップ営業として活躍したのちに独立してCHEER UP(チアー アップ)を設立。cheer upは日本語で「元気付ける」という意味。関わる人を元気付けたい!というきさきの思いが社名の由来だとか。
白崎愛
らんラボのメンバーであり、現在はらんの秘書を務める。一時は裏切り的な行為によりらんから離れるが、きさきの計らいによりらんの元に戻ってくる。
第2編 輪郭を帯びてきた理想世界
第1章 始まりは突然に
らんはきさきが代表を務めるCHEER UPの執行役員に就任していた。
らんが執行役として招かれたのは2年前、らんラボ設立から5年がたった日だった。
CHEER UPは設立8年目。創業当初から業績を伸ばし続ける会社。
その中で、らんに人材開発部門の再建をお願いしたいとのことだった。
順調に見えるきさきの会社でも人材開発部門は赤字が続いており、その再建となるとハードワークになることは火を見るより明らかだった。
らんはきさきの会社に入るタイミングでらんラボの代表をあゆみに譲ることにした。(らんもたまに顔を出すため、らんラボという名前は継続するらしい)
あゆみ
「任せてください!らんさんがいなくてもしっかりと運営してみせます!!!」
それはそれで寂しい気もしたが、彼女にはそれだけの人望があった。らんラボがここまで大きくなったのもあゆみの功績が大きい。らんは安心して任せることができた。
「ふぅ」
業績報告を終えたらんが満足げな顔で着席する。
らんがきさきの会社に勤めてから2年、人材開発部門は赤字を克服するどころかわずかながら利益を生み出す部門へと変貌していた。
きさき
「片桐さん、素晴らしい報告だったわ、ありがとう」
「さて」
きさきがらんを含む会議室の役員全員の顔を見る。
「我が社も前年比10%伸長を続けてきて、ここまで順調にきてると思うの。ここでさらなる強気の一手を打ちたい」
きさきからの強い言葉に会議室に緊張感が走る。
「そこで新規事業を立ち上げたい。この事業のリーダーは、片桐さん。」
「やってくれるわね?」
きさきにこう言われて断れる人物が社内にいるのだろうか。らんはそう思いながら答えた。
「はい、やります!」
第2章 始動
まずはチーム作り。
らんが赴任してきてから2年、赤字部門を復活させたとしてらんの社内での知名度も高くなっていた。
中でも特に会話の機会が多い人が4人いた。
・柳下 桜(ヤギシタ サクラ) 通称:桜
開発部門の女性リーダー。らんより5歳年下で、らんをお姉さんのように慕っている。学生時代からプログラム開発をしていて、CHEER UPでは入社当時から即戦力として活躍。最近はプロジェクトリーダーとしての役割も多く、社内外との調整役としての能力も開花してきている。
・内田 嵐(ウチダ ラン) 通称:ラン
入社2年目。学生団体でリーダーをしていたこともあり、コミュニティ運営を得意とする。社外でオンラインサロンの運営もしており、随所にリーダーシップを発揮している。荒削りながら行動力、吸収力は目を見張るものがある。
・鈴木 陽平(スズキ ヨウヘイ) 通称:すずぽん
入社4年目。人材育成、教育の分野を志していて、社内教育部門に所属。らんの人材開発部門とのやりとりもちょくちょくあった。ラン同様行動力、吸収力がすごい。お気に入りなのか “FREE” のロゴが入ったTシャツを着ていることが多い。
・門口 拓也(モングチ タクヤ) 通称:もんぐち
このメンバーの兄貴分的存在。らんと同い年。CHEER UPでは社内外のセミナー講師を担当しており、門口のセミナーは毎回満員。人気講師である。実はらんともんぐちは、らんがTwitterを始めた初期に出会っており、CHEER UPにて再会を果たした。口癖は「頑張ろうな!」
らんも含めた5人はこのメンバーのことを「チーム ランデブー」と呼んでいる。
ランデブーはフランス語で会合という意味だが、飲みの席でテキトーに決めたチーム名なので、決まった背景は誰も覚えていないし、フランス語なんて誰も知らない。大方響きが気に入っただけだろう。
今思えば、まーまーダサい気もするが、今更変える気もない。
らんとしてはこの4人には是非とも加入してもらいたかった。
能力はもちろんのこと、今回の大型プロジェクト、コミュニケーションリスクはできるだけ減らしておきたい。
その旨をきさきに伝える。
きさき
「ランデブーの4人ね。いいわよ。その4人にはらんちゃんから話しておいてちょうだい。正式な通知は私が出すけど、内諾をとっておいて欲しいの。各部門の仕事は私が調整するからそこは気にしないでと伝えておいて。」
らん
(きさきさん、ランデブー知ってるのね。。。)
らんは少し恥ずかしくなった。
3日後の夜
らん
「というわけで、是非みんなにもこのプロジェクトに参加してもらいたいの」
もんぐち
「いいねー!めちゃくちゃ面白そうだ!俺は参加するよ」
らん
「もんぐちさん、ありがとう!もんぐちさんがいると心強いわ!」
もんぐちが即答してくれたことはありがたかった。セミナー講師をしているからか、もんぐちの言葉には力強さと、説得力があり、もんぐちは人を奮起させるのがうまかった。大きなプロジェクトを進める上で絶対に必要な人材だとらんは考えていた。
すずぽん
「俺も参加するよ」
ラン
「俺も参加する」
らん
「二人ともありがとう!」
続いて若いメンズ2人の参加表明。すずぽんは今日は白地に青でFREEと書かれたTシャツを着ている。ランは相変わらずのイケメン、目がキラキラしている。
この2人の行動力と学習能力はすごい。会社の仕事はもちろんだが、それぞれ社外でも活動していて、様々な分野のことを学んでいる。
プロジェクトの実行部隊としてこの2人ほど頼もしい人はらんは知らなかった。
桜
「ちょっと私は難しいかも。。。今プロジェクトが本当に佳境で。会社としても昔から付き合いあるお客様で、そのお客様の一大プロジェクトを任されてるから。流石に社長でもいきなり私を外すのは厳しいと思う。」
らん
「そっかー、桜は厳しいかー。」
らんとしては桜にはどうしてもプロジェクトに参画して欲しかった。
今回のプロジェクト、何かプラットフォームを作ることになる、らんはそう予感していた。
となるとエンジニア、プログラマーは必須。
社内にも技術力を持った人間はいるが、らんの思いを正確に理解している技術者は桜以外にはいない。
どうしてもリーダーと現場エンジニアは疎遠になりがちなので、らんの思いが浸透しにくい。
そこに桜が入ることで、伝達者としての役割も期待していた。桜がいないのは痛手だがしょうがない。
らん
「というわけで、この3人は参画してもらえると了承をいただきました。ただ今の業務調整等もあると思うので、きさきさんからも働きかけていただけると助かります。」
きさき
「わかったわ。3人なのね?もう一人いなかったかしら?チームに」
らん
「さ、柳下さんは今の業務が忙しくて参画は難しいとのことでした。彼女がいれば大きな戦力になるんですが。。」
きさき
「そう、残念ね。」
「私の方からも何人かこのプロジェクトに推薦した人がいるから紹介するわ。2人とも入ってきてー」
きさきはそう言っておくの扉の方を振り返った。
ガチャ
扉が開いて二人の男性が入ってきた。
右側の男性はらんと同い年ぐらいだろうか。温厚そうな表情をしている。
左側の男性は若い。らんより一回り以上年下だろうか。目から感じるエネルギーに力強さを感じる。
きさき
「こちらは山口あつしさん。マーケティング部のエースよ。幸い、今他のプロジェクトは軌道に乗ってるから今回山口さんにはこのプロジェクトのマーケティングを担当してもらおうと思うの」
右側の男性がペコリと頭を下げる。
山口
「山口です。今回このプロジェクトに参加させていただきます。過去には○○プロジェクトや△△プロジェクトのマーケティングを担当しておりました。片桐さんのことは以前から存じ上げております。ご一緒させていただけて光栄です。」
○○プロジェクト、△△プロジェクト、いずれもらんが入る前のプロジェクトだ。双方ともにCHEER UPを代表するプロジェクトだ。
らん
「片桐です。2年前から水上社長とのご縁でCHEER UPで働いています。これまでは人材開発部に携わっていました。山口さんのような強力なマーケターのお力添えはすごく心強いです。よろしくお願いします。」
きさき
「こちらは九条誠(クジョウ マコト)さん。入社3年目だけど、すでに私の直下プロジェクトで成果を出している若手の最有望株よ。」
九条
「九条です!片桐さん!噂はかねがね伺っております!片桐さんのような素晴らしい方と一緒に仕事できるなんて感激です!若輩者ですが、よろしくお願いします!!!」
らん
「九条さん、片桐です。よろしく。入社3年目で社長直下プロジェクトなんてすごいですね。これからよろしくお願いします。」
きさき
「片桐さん、このプロジェクトのリーダーはあなたよ。山口さんも九条さんもとても頼りになるから、ランデブーとこの2人を含めたメンバー中心で頼むわね。」
らん
「はい、わかりました!」
3人は自己紹介も兼ねてランチに来ていた。
山口が行きつけというイタリアン。
店全体を黒と白で統一したおしゃれな内装。
(夜は高そうだな。。。)
らんは思った。
オフィス街のランチタイムということもあり、店は混雑していた。
4人がけのテーブルに案内された。
らんが一人で座り対面に山口、その隣に九条という並び。
らんはパスタセット、山口と九条はピザセットをオーダーした。
九条
「改めまして、今回はよろしくお願いします。社内でも有名なお二人と一緒のプロジェクトに参画させていただけるなんて光栄です!まだまだ経験は浅いですが、全身全霊をかけて取り組むんでよろしくお願いします!」
らん
「こちらこそ、よろしくね。九条さんは、、、」
九条
「あ、自分のことは ”クジャク” て呼んでください!」
らん
「クジャク?ってあの孔雀??」
九条
「そうです!孔雀てかっこよくないですか?あの羽って飛べるわけでもないし、生存するにはめちゃくちゃ弱点だと思うんです!でも孔雀はその羽を武器に変えてる。自分のシンボルにしてる。ほんとにかっこいいなって思って!自分も孔雀みたいに弱点と言われるようなものでもプラスに変えるような生き方をしたい!そう思ってみんなにこう呼んでもらってます!なのでお二方も是非お願いします!!あ、あと名前が九条なので孔雀と近いっていうのも2%ぐらいありますw」
らん
「クジャクくん、あついね!!最高!私のことはらんでいいわ。」
山口
「じゃあ僕のことはあつしで。」
3人はパスタとピザを食べながら、お互いのこれまでの経験、今後の方向性など話し合った。
(いいチームになりそうだわ!)
ランチタイムだけのやりとりだったがらんは直感的にそう思った。
(こういう時の私の勘は当たるんだから!)
・・・・・・・
らん
「・・・ていう感じで次のプロジェクトもいいチームになりそうなの!ってじいや、聞いてる?」
じいや
「聞いてますよ。」
じいやと呼ばれるメガネをかけた老人はカウンターの向こうでコーヒーを挽きながら答えた。
ここは喫茶店「Kakoi」。らんの行きつけの喫茶店である。
らんにじいやと呼ばれた男は本名 “落合 直樹”。Kakoiのオーナーである。
昔は経営者として多くの企業に携わってきた、業界でもかなり有名な人らしいが今は引退してKakoiのマスターをゆったりと営んでいる。
らんは2年前にきさきの会社に入る際にこの辺りに引っ越してきてからこのKakoiに通うようになった。
最初は本を読むなどして過ごしていたが、最近はもっぱらじいやに話を聞いてもらっている。
じいやはらんの話を優しい笑顔でうんうんとうなづきながら聞いてくれる。そして時には的確なアドバイスもくれる。
らんはKakoiで過ごす時間が好きだった。
らん
「でねー、そのクジャクくんがものすごい熱い子なのよ。すごく真っ直ぐ。芯が通ってるの!それでいて頭がいいの!!」
「あつしさんもすごいの!クジャクくんとは逆のタイプで冷静沈着。でも言葉の節々には熱い想いもあって!あー、わかるかなー、この感じ!!!」
じいや
「わかります、わかりますよ。」
らん
「さっすがじいや!ランデブーにあつしさんとクジャクくん加えた次のプロジェクトはほんとに楽しみだわー!きさきさんに感謝しなきゃね!」
じいや
「結果で返しましょう。」
らん
「言うわねー!もちろんそのつもりよ!!」
・
・
・
2週間後
らん
「新プロジェクトとしてクラウドファンディングサイトの設立を検討しています。」
きさき
「クラウドファンディング?」
この日はきさきへの報告日。
3人でランチをしてから2週間、議論を重ねた結果をきさきに報告する。2週間目処でたたき台になる素案を作って欲しいをきさきから言われていたのである。
らんたちが検討していたのはクラウドファンディングサービス。
クラウドファンディング(crowdfunding)とは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみです。途上国支援や商品開発、自伝本の制作など幅広いプロジェクトが実施されています。
らんはきさきから新プロジェクトを任命された時からクラウドファンディングを実現したいと考えていた。
「お互いの挑戦を応援しあえる世界」
らんの目標でもあり、CHEER UPのビジョンでもあるこの世界の実現に向けて。
きさき
「でも、クラウドファンディングって日本だとTakibiを始め多くの競合がいるわよ。世界を見渡すともっとある。後発だから悪いとは言わないけど、うちでやる意義って何かあるのかしら?」
そうなのである。
クラウドファンディングは発祥はアメリカであるものの、すでに日本でもある程度の地位を獲得している。
最大の功労者は株式会社Takibi。
国内最大のクラウドファンディングサービスを運営していて、そこでの支援金額は累計数十億円にものぼる。
また、Takibiの成功を見て、多くのクラウドファンディングサービスが国内には立ち上がっている。
その中で新しくクラウドファンディングサービスを立ち上げるのは「強気の一手」と言うには物足りない気がする。
きさきの指摘はもっともだった。
らん
「はい、今のクラウドファンディングは一つ課題を抱えています。サービス自体の課題というよりは社会的にクラウドファンディングの文化、応援する文化が浸透しきっていないということです。」
「Takibiさんの活動でだいぶ社会的地位を獲得してきていますが、それでもまだまだ懐疑的な人が多い。中には “これは詐欺だ!” と叫ぶ人もいます。 」
「実際にクラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げたものの、そういった “支援の文化を理解していない人たち” からのバッシングが強すぎて、プロジェクト自体と断念してしまった人もいました。」
「だから今回のプロジェクトで掲げるミッションは3つ。
・応援する文化を広げていく
・目標に向かって走り人を応援できる環境を提供する
・目標に向かって走り人を守れる環境を提供する
」
「具体的にはコミュニティを作って、その中だけで開かれたクラウドファンディングサービス。コミュニティファンディングのサービスを立ち上げたいと考えています。」
きさき
「なるほど。確かにコミュニティ内に閉じたクラウドファンディングだとアンチと呼ばれる層はいなくなりそうね。」
らん
「はい。そしてコミュニティと一体型にするメリットは他にもあります。既存のクラウドファンディングサイトだと、プロジェクトの立ち上がるタイミング=スタートですが、コミュニティの場合はそれ以前から双方向のコミュニケーションを取ることが出来ます。だからより長く応援することができる。これによってプロジェクトの達成率は大幅に高まると考えています。だから手数料は他のサービスが20%なのに対して大幅に下げれると考えています。細かくはシミュレーションしてみないと分かりませんが10%以下にできると考えています。」
きさき
「今のクラウドファンディングの成功率は確か20%〜30%ぐらいだったかしら。手数料を半分以下にするなら成功率は少なくとも2倍にはしたいところ。それにコミュニティに閉じてるからプロジェクト数も少なくなる。となると、コミュニティの規模とプロジェクトの単価も必要ね。」
「ハードルは高そうだけど、コンセプトは面白いわ」
・
・
・
らん
「コンセプトは決まったわ!」
らんがクジャクとあつしに向かって切り出す。
きさきへの報告の後、その足でクジャクとあつしが待つ会議室へ向かった。
らん
「水上社長からは宿題をもらったけど、私たちと考えてたことは同じ。コミュニティの規模、プロジェクト数、成功率、プロジェクトの規模、この4つをシミュレーションして仮説検討していきましょう!」
「あつしさんはコミュニティの規模についてのシミュレーションをお願い。どういう施策を打って、どこから人を集めるのか?有料コミュニティ、無料コミュニティそれぞれの場合の戦略を打ち出してちょうだい!」
あつし
「OK」
らん
「クジャクくんは私と一緒にプロジェクト数、成功率、プロジェクトの規模についてのシミュレーションをしていきましょう。こっちの方は大胆に仮説を立てて検証していきましょう」
クジャク
「分かりました。実際にクラファンを実行した人にインタビューしながら仮説を組み立てていきます!」
らん
「目安は2ヶ月後にサービスの骨格を完成させること、状況は随時共有しながら進めていきましょう!」
・・・・・
らん
「というわけで、みんなにも手伝って欲しいんだけど、今の仕事は大丈夫そう?」
もんぐち
「らんちゃんが声かけてくれた次の日には他の人に引き継いどいたよ。社長特命プロジェクトだって。みんなブーブー言ってたけど、3日後に水上社長から直接説明があって納得してくれた。」
らん
「きさきさん、もう動いてくれてるのね。さすがだわ。。」
すずぽん
「うちのところも同じ感じでした。水上社長が直接説明してくれて納得してもらえたって感じです。」
ラン
「うちもそうですね。もっとも僕の場合は2人と違ってチームをまとめる役割じゃなかったので、社内調整は楽でしたがw」
らん
「二人ともありがとう!」
クジャク
「らんさん、この方々は?」
らん
「あ、ごめんね。ランデブーって言って、私が仲良い社内のメンバー。仲良いだけじゃなくて仕事もバリバリできるメンバーなの。今回のプロジェクトには参加してもらおうと思って。きさきさんにはもう言ってあるわ。」
クジャク
「そうだったんですね!みなさん初めまして!九条と申します!クジャクって呼んでください!このプロジェクトに参画しています!みなさんのような素晴らしい方々とご一緒させていただけて光栄です!」
らん
「クジャクくんは入社3年目だけど、社長直下プロジェクトをいくつか担当していて、経験はかなり豊富なの。今回のコンセプトを作る上で色々話したけど、仮説構築能力と、フットワークの軽さはすごいわ。」
もんぐち
「クジャクくん、もんぐちです。よろしく。らんちゃんとは同期で、今は社内外のセミナー講師をメインに担当している。」
すずぽん
「鈴木です。よろしく。らんさんにはすずぽんて呼ばれてます。今は人材開発部でらんさんの下で働いてました。」
ラン
「内田 嵐(うちだ らん)です。みんなには下の名前で呼ばれてます。今まではEC部門で働いていました。よろしくお願いします!」
クジャク
「みなさん!よろしくお願いします!!」
らん
「あと、もう一人。マーケティング部門の山口さんも参画してくれてるから今度紹介するわ。」
「コンセプトはさっき話した通り。これから仮説検討、シミュレーションをして行くからそれを手伝って欲しいの。山口さんがコミュニティ周りは考えてくれてるから私たちはクラウドファンディングの達成率やプロジェクト数、支援金額について検討していきましょう!」
「ラン君、確か有料のコミュニティ持ってたわよね?」
ラン
「はい、50人ほどですけど。」
らん
「OK、山口さんに有料コミュニティ、無料コミュニティ、それぞれのパターンで集客力を検討してもらってるからコミュニティ運営者として手伝ってあげてちょうだい」
ラン
「分かりました!」
らん
「クジャクくんとすずぽんはクラファン経験者のヒアリングをお願い。達成できなかった人のインタビューや、途中でやめちゃった人、逆に大きな金額を集めるのに成功した人、それぞれ何が違ったのか?できるだけ生の声を集めたい!」
すずぽん、クジャク
「分かりました!」
らん
「もんぐちさんは私と一緒に全体のプラン設計。」
もんぐち
「OK、ランデブー初のプロジェクトだな!」
「よーし!みんな!頑張ろうな!!!」
らん、すずぽん、嵐
「「「 頑張ろうな!!! 」」」
クジャク
(こんな感じなんだ、、、)
第3章 順風漫歩
次の週末
らんは表参道でランチをしていた。
一緒にいるのはかなやん、くまっち、大佐の気心知れた3人。
かなやん
らんの大学時代からの友人。元々は大手出版会社でライターとして働いていたが、結婚を機に退職、今は1児の母をしながらフリーのライターとして働いている。
くまっち
らんの営業時代の会社の同期。仲間意識が強く、営業時代は自分の成績よりも契約が取れなくて困っている同僚のサポートに徹していた。らんも何度もくまっちに助けられた。
大佐
らんラボのメンバー。主要メンバーであるあゆみ、湖南、愛に次いで、コミュニティへの貢献度が高い。らんが代表をあゆみに譲ってからも定期的に連絡をくれるのでちょくちょく会うようになった。
かなやん
「さすがらんやね、そんな一大プロジェクトをきさきさんから任されるなんて」
らん
「ありがたい話なんだけどねー、プレッシャーはやばいわよw」
大佐
「大丈夫です!らんさんならできます!!!」
らん
「もちろん、ちゃんとやりきってきさきさんの期待に応えるつもりよ!」
くまっち
「でもまさからんちゃんがこんなプロジェクトを任されるようになるなんてなー、隣の机で働いてた頃が懐かしいよ。その頃はらんちゃんの抜けをことごとく俺が拾ってたのにw」
らん
「もう!それは言わないでよ!!くまっちには感謝しても仕切れないんだから!今は優秀な秘書がいるから大丈夫」
かなやん
「愛ちゃんやっけ?らんがあの子を受け入れるなんてねー、丸くなったやんw」
大佐
「え!?愛さんて今らんさんの秘書なんですか!?」
らん
「そうよ」
大佐
「ええー!めちゃくちゃ意外です!愛さんがらんラボに戻ってきたときもびっくりしたけど、今もっと驚きましたw」
くまっち
「きさきさんが間を取り持ったんだっけ?」
らん
「そうよ、でもきさきさんも流石よねー。今では愛ちゃんなしで仕事するなんて考えられないもん。ほんと助かってる。」
大佐
「そうなんですねー、僕愛さんはあんまり面識なくて。。。」
「そういえばらんさん、そのコミュニティファンディングでしたっけ?サービス始まったら僕も使っていいですか?おじいちゃんが旅館の経営をしてるんですけど、昔からの縁で繋がってる人しかお客さん来なくて新しいことに挑戦させてあげたいなーと思ってるんです!」
らん
「あら、いいわね。おじいちゃん孝行。ぜひ使ってちょうだい!その時は大佐もしっかりとサポートしてあげてね。」
大佐
「もちろんです!」
数日後、らんともんぐちは会議室にいた。
らん
「もんぐちさんは、今回のプロジェクト、どれくらいいけると思う?」
もんぐち
「んー、正直わからんな。コンセプトは好きだけどね。小さくまとまって終わってしまわないようにしないとなーとは思う。情報を統制して実行者を守ったとしても支援者が集まらなければ意味はないからコミュニティの人を集めるのは大胆にやらないとな、と思うよ。」
らん
「そうね。あつしさんもそこは意識してたわ。でももちろん煽ってコミュニティの質を落とすのもダメ。コミュニティ参加にはある程度ハードルを設けたいから、今回のコミュニティは有料にしようと思うの。」
もんぐち
「うん、俺もそれがいいと思う。」
らん
「ただし月会費はプロジェクト支援費にあてることも可能。だから支援者にとっては実質無料っていう感じ。」
もんぐち
「なるほど、それは面白いな。コミュニティに参加することにはハードルを設けて、質を保全。一方で支援にはハードルを設けずに支援者を増やす。いいんじゃないか。」
ガチャッ
会議室のドアが開いて、あつしとランが入ってきた。
らん
「あ、ちょうどいいところに。今コミュニティの運営方針についてもんぐちさんと話してたの」
あつし
「はい、会議室の外まで声が聞こえていたので。(二人とも声が大きいから)。当然無料の方が人は集まりますが、らんさんがおっしゃっていたようにその後のことを考えると圧倒的に有料にすることを推します。」
ラン
「僕のコミュニティ、50人ぐらいなんですけど、アクティブな人が多いです。半分ぐらいの人はなんらかの形で会話に参加していますね。」
らん
「半分はすごいわね。」
ラン
「もちろん最初からみんなが会話に参加してくれたわけではないですが、小さくコミュニケーションをとることを重ねてここまで持って来れました。もちろんまだまだ伸ばしていかないとですが」
あつし
「コミュニティ集客の場合、初期メンバーの有無によって時間軸が結構変わってきます。初期メンバーがある程度数がいる場合は立ち上がりは早いですし、ない場合はその構築に時間がかかります。」
らん
「初期はらんラボのメンバーに声をかけるわ。私が抜けてからもあゆみちゃんが運営してくれているはずだからアクティブなメンバーが多いと思う。初期メンバーの目標は何人?」
あつし
「2000人は欲しいです。他のクラファンからのデータですが支援者に対して、プロジェクトの数は5%程度。初期プロジェクトとして100件ぐらいは立ち上がっていて欲しいので、そうすると2000人ですね。8%程度までは増えると思います。」
らん
「なるほどね。初動は分かったけど、それ以降はどうやって広げていくのが良さそう?」
あつし
「SNSや広告なんかも使うんですが、一番推したいのは口コミとセミナーですね。サービスの特性から考えて、プラットフォーマー、プロジェクト実行者の熱量が一番の武器になります。」
らん
「そうすると、もんぐちさんの出番ね」
もんぐち
「おう、セミナーだな。任しとけ。」
らん
「あとはプロジェクト実行者を支援できる環境も必要ね。。」
・・・・
らんはきさきの部屋に向かった。
らんラボに協力を依頼する許可をもらうためだ。
しかしきさきは不在。予定表を見ると今日明日は「終日外出」となっていた。
(2日連続会社を開けるなんて珍しいな。。)
らんはきさきにLINEで確認することにした。
・・・・・・
後日、らんはあゆみをご飯に誘った。
昔あゆみと愛と古南の4人で行っていたご飯屋さんだ。何年振りだろうか
あゆみ
「らんさん!久しぶりに会えて嬉しいです!!どうですか?きさきさんの会社」
らん
「結構ハードよ。きさきさん無茶振りが多いからw」
「今回も新規事業の立ち上げを任すって言ってゼロから作ってるわ。」
あゆみ
「任されるのはさすがらんさんだなって思います!!どんなプロジェクトにするんですか?」
らん
「まだ極秘だから他の人には言わないでね、、、」
らんはあゆみにコンセプトの説明をした。
あゆみ
「すごいすごい!!さすがらんさん!!そのコンセプト、らんラボのメンバーも気にいると思うんで結構な人が加入すると思います!」
らん
「そう、今日はそれを相談したくて。コミュニティ運営って初期である程度メンバー確保できると初動がかなり楽だかららんラボのメンバーに入ってもらいたくて。らんラボ向けにセミナーとかしたいなーと思ってて。」
あゆみ
「ぜひやってください!!らんさんのコミュニティなら入りたいって思う人多いです!私も運営とかお手伝いします!」
らん
「ありがとう、助かるわ。」
・・・・・
2週間後、今度はらんともんぐちの元にクジャクとすずぽんがやってきた。すずぽんは相変わらず ”FREE” と書いたTシャツを着ている。
(今日は黒地に白文字のやつか。。)
らんはこのTシャツが結構気に入っていた。メッセージ性が強くて好きなのだ。そしてすずぽんがどのFREEシャツを着てくるかを予想するのもらんの日課になっていた。
クジャク
「クラウドファンディング経験者138人へのヒアリングと、各クラウドファンディングサービスのプロジェクト数、会員数、プロジェクト成功率、支援金額を調べてもらいました。」
らん
「138人!?すごいわね!!」
すずぽん
「クラファンの経験者の知り合いがいたので、そこから広げていってアポをとっていきました。できる限りプロジェクト規模、成功失敗を満遍なくヒアリングしました。」
「結論から言うと、失敗しているプロジェクトの大半はアンチに叩かれたからと言うわけではなく、そもそも戦略にかけていた、という感じでした。」
らん
「戦略?」
すずぽん
「はい、失敗した多くのプロジェクトはいきなりクラファンでプロジェクトを立ち上げているところが多く、そこからファン作りをして支援してもらおうとしている。結局時間が足りない。ファンとの接触時間が短いことが大きな要因としてあげられます。」
らん
「なるほどね、確かに何も知らなければクラウドファンディングのスタートが物語のスタートになってしまうわね。プラットフォーマーもその段階からしか関われないわけだし。」
すずぽん
「アンチの被害に遭っている人は一定数はいましたね。ただそういった人たちはクラファン始めたからアンチに叩かれている、というよりも元々アンチがいて、その状態でクラファンを始めたから叩かれているというパターンがほとんどです。叩くきっかけを与えたという感じですねw」
らん
「なるほどねー、そういう叩かれる人たちって、やっぱり叩かれて然るべきなの?」
すずぽん
「発信内容を見ると叩かれやすい発信をしている人が多いですね。ポジショントークばかりだったり、言葉がきつかったり。ただ実際に話してみると物腰柔らかい普通な人ばかりでした。キャラを作ってるって本人も言ってました。こういう人は叩かれる前提なので、叩かれたからメンタルが落ち込んでクラファン失敗するっていうのはあまりないですね。」
もんぐち
「むしろ、アンチが叩く=拡散されるから認知は高くなってる?」
すずぽん
「認知度の面で言うとそうですね!叩かれる人は拡散力を持っている人が多いので、元からある拡散力に加えてアンチが広告塔になって人が集まっています。ただしそれで集まった人はあまり支援はしないですね。」
らん
「認知が高まればいいわけでもない。まぁそれはそうか。」
クジャク
「それはデータからも明らかで成功したプロジェクトの多くが、少数の多額出資者からの支援を集めています。」
らん
「なるほど、大人数に応援されるよりも少数でもめちゃくちゃ応援されるようにしたほうがいいってことか」
もんぐち
「それとお金を払える環境を作ることだな」
らん
「どういうこと?」
もんぐち
「リターンを決めるときに1000円のリターンしかなかったら、どれだけ応援したくても1000円しか出資できない。でも10万円、20万円、50万円、100万円のリターンを作ると出資しやすくなる。要はお金の出しどころを用意してあげるという感じだな。」
クジャク
「まさにもんぐちさんのおっしゃる通りで、大きな金額を集めているプロジェクトはほとんどが多額のリターンを用意しています。そしてそれを買ってる人がいる。」
すずぽん
「そして多額の出資をした人に聞くと、ほとんどの人がプロジェクト開始前から当人のことを知っていて、それでクラファンを始めたから出資したっていう人が7割ぐらいですね」
もんぐち
「まぁどこの誰かもわからん用な人に多額の出資をする人はいないしな」
らん
「ということはコミュニティファンディングのメリットはアンチから守られる環境というよりも、ファンとの時間軸が長いということみたいね。」
クジャク
「はい、そうなりますね。」
らん
「支援金額の方がどうかしら?」
クジャク
「こちらも元々コミュニティだったり人脈を持っている人が強いですね。リターンの作成に関して、支援者の声を事前に聞けるというメリットが大きいようです。コミュニティや人脈を持っている人のプロジェクトへのリターン平均額はその他のプロジェクトの1.5倍ぐらいになっていました。」
らん
「1.5倍!?随分と差がつくのね。」
もんぐち
「達成率1.5倍 × 支援金額1.5倍で2.25倍か。」
らん
「想像してはいたけど、実際に数字を聞いてみるとインパクトあるわね」
らんは知り合いのクラファン経験者や自身の支援経験を通して、クラウドファンディングはプロジェクトの内容よりもいかに人を惹きつける物語であるかが大切と感覚的に感じていた。自分の物語に人を巻き込むにはコミュニティが最適、それはらんラボの経験からだ。
今回クジャクとすずぽんの2人はこの3週間弱の間で、実行者38人、支援者96人へのヒアリング、調査会社を使って、実行者500人、支援者2000人へのアンケートを実施した。
(とんでもない行動力だわ。。。)
らんは感心した。
事前にイメージしていたことが、実際の数字として現れることでらんの構想は加速した。
・・・・・・
そして、きさきへの報告当日を迎える。
らん
「こちらにデータに記載のようにクラウドファンディングサービスとコミュニティ基盤はとても相性がいいです。コミュニティから発足したプロジェクトの達成率はその他プロジェクトと比較しても達成率で約50%増、支援金額も40%以上の増加が見込めます。」
「つまりコミュニティファンディングの形をとることで、手数料を大幅に削減することが可能となり、他との差別化が可能となります。」
らんが報告している会議室にはらんときさきの他に、愛、クジャク、あつしが同席していた。
きさき
「なるほど。で、片桐さんは手数料は何%まで下げれると考えているの?」
らん
「10%です。Takibiを始め、他社が採用している数字の半分、ということでインパクトも狙えます。」
きさき
「でも本当にそんなに高い達成率を出せるかしら?クラウドファンディングの文化はそこまで広まってないわけだし、コミュニティでくくったからといって、50%は流石に多すぎない?アンケートも偏りがないわけじゃないだろうし。」
らん
「おっしゃる通りです。」
らんもアンケートに偏りがあるという事実は認識していた。
そもそも「アンケートに答える層」という時点である程度フィルターがかかってしまっている。多くの人はめんどくさがってアンケートには答えない。ランダム抽出でない限り、測定された数字は目安でしかない。
らん
「そこでパイロット運用させていただきたいと考えています。2000人規模の有料オンラインサロンを作って、そこでコミュニティファンディングの形を実践する。クラウドファンディングのプラットフォームとしてはHINODEという最近立ち上がったサービスがあるので、そこを利用します。そこで4ヶ月間パイロット運用して実際に成果が出るかを確認したいと考えています。」
きさき
「そこにらんラボのメンバーを動員するわけね。」
その後、きさきとの質疑は続いた。
質問の内容に応じてはクジャクとあつしも参加した。
2時間にも及ぶ議論の末、「サービスが実現できないと判断が降った場合にはパイロット期間中のオンラインサロンの費用は全額返金すること」を条件にパイロット運用を開始するという判断になった。
パイロット運用は順調にスタートした。
もんぐちによるらんラボへの説明会では、多くの質問が上がりその都度らんともんぐちが的確に答えていく。説明会参加者がみんな納得できるまで質疑は続けられた。
初回の説明会は100人が参加、そのうち53名がその場でコミュニティへの参加を決断してくれた。
その後も説明会は頻繁に開催をした。1ヶ月間で開催したセミナーは全国で述べ32回。休日は昼と夕方の2回。
もんぐちが過半数の17回を担当した。らんはあまり動けないのでオンライン説明会がメイン。
ここで活躍したのがすずぽん。
教育分野に深い関心があるすずぽん元々もんぐちからプレゼンスキルを吸収したいと思っていた。社内外問わず、もんぐちが講師の説明会には何度か足を運んでいた。
すずぽんにとって今回の全国説明会はスキルアップの絶好の場だった。もんぐちのセミナーについて回って、講演ノウハウを吸収した。
そして最終的には講師を務められるようになり、計8回の説明会で登壇した。
もんぐちが主要都市をまわり、らんがオンライン説明会、すずぽんが地方を回るという分担がなんとなくできていった。
その甲斐もあって1ヶ月後には当初の想定を超える2312人のメンバーが集まった。
これだけのメンバーが集まったのは、説明会の効果もあるがオンラインサロン加入者からの口コミも大きい。クジャクの働きによるものだ。
クジャクはサロン内のメンバー間コミュニケーションを活発化することに注力した。
らんラボのメンバーを中心に集めていることもあり「量」の面で言うとコミュニケーションは活発だった。しかしその反面、見知ったメンバーだからこその弊害だが、「質」の面では物足りなかった。挨拶に始まり、雑談で終わる。
こういったコミュニケーションももちろん重要だが、それだけでは意味がない。CHEER UPにお金を払っている意味がない。CHEER UPの中では、もっと自分の思いや、野望を語っていい。その上で今何に取り組んでいるのかを発信してほしい。
人の挑戦を見ることで、周りの人が刺激を受ける、つまづいた現状を話すことで助けてくれる人が現れる。そうして少しずつ輪が広がる。
CHEER UPはそんな場所であるべき。
これはらんがこれまでに何回もメンバーに伝えていたことだ。
クジャクは自身のこれまでの挑戦や、発信を言語化し、メンバーに伝え続けた。自分の思いをうまく言語化できない人には1:1で電話したりもした。
クジャクの地道な努力によりサロン内のコミュニケーションの質は向上した。それはCHEER UPのコミュニティの質が上がったと言うことに直結する。
コミュニティの質の向上とともに口コミも活発化した。
いいものは広がる
これは嘘だ。いいものは知れ渡れば広がるが、知られることもなく消えていくものも数多く存在する。
消えていくものの多くは、利用者が口コミをしていない。
というよりは口コミをするきっかけがないのだ。特に理由もなければ人にオススメもしない。
それにより、満足度が高いのに口コミが生まれない、という現象が起こってしまっている。
CHEER UPに関していえば、もんぐちとすずぽんの説明会で、「人が集まるほどに成し遂げられる事が大きくなる」ということは毎回伝えているので、メンバーも理解している。
その上で、らんからのメッセージで口コミをお願いする。
すでにコミュニティの質が高く、利用者の満足度も高い状態だったので、口コミを波及していった。
その後、いくつかのプロジェクトがサロンメンバーから立ち上がった。
規模が数十万円のものもあれば数百万円のものもあった。
途中HINODEのシステム不具合などで立ち止まる場面もあったが、大きなトラブルもなくパイロット期間は終了した。
立ち上がったプロジェクトは107件。達成プロジェクトは48件。達成率は44%。総支援金額は8192万円。1プロジェクトあたり170万円集まったということ。
パイロットでの結果を受けてきさきはGOサインを出した。
プラットフォームの開発に着手する。開発といっても最初は比較的シンプルなものだ。
・会員管理(Facebook連動)
・決済システム
・プロジェクト作成/管理機能
・リターンの在庫管理
オンラインサロンのプラットフォームとしてFacebookを利用していたので、FB連携できるクラウドファンディングサービスにする。サロンメンバーであればそれぞれのプロジェクトページを見れるが、それ以外の人はサービス紹介、完了したプロジェクトのページしか見れない仕様とした。
きさきがGOサインを出してからの半年はこれまでとは比にならないぐらいの忙しさだった。
トラブルも多かったが、らんにとって嬉しい誤算もあった。
桜が参画してくれたのだ。
半年間の間にプロジェクトが落ち着いたので、きさきからの強い説得もあり、参画してくれることになった。
桜はらんの意図も正確に把握してくれていたので、エンジニアチームとのコニュニケーションコストは大幅に削減された。
そうでなければらんは過労で倒れていただろう。
それほどまでに忙しかった。システム開発以外にもやることは山積み。
認知度向上のための全国説明会の実施。これは説明会の講師はもんぐちとすずぽんが担当。
説明会への集客はあつしとランが担当した。
ランはもともとマーケティングの知識などはなかったがあつしと行動することが多く、みるみるうちに知識を吸収していった。
クジャクはキュレーターの育成。
クラウドファンディングにおける キュレーター とは、 プロジェクト 実行者である プロジェクトオーナー が持ち寄るアイデアやプロダクトを企画段階からブラッシュアップ、 リターン やクリエイティブの作成についてサポートを行うクラウドファンディングプラットフォーム のスタッフのことである。
実行者はただ単に自分の夢を語っていればいいわけではない。
自分のプロフィールを伝える文章を作成し、その中で今回のプロジェクトがどのような役割を果たすのか。なぜ支援して欲しいのかを伝えていかなければいけない。
そして、支援金額。リターンの設計も重要。
そういったことを実行者一人に背負わせた場合、プロジェクトは大抵失敗する。ノウハウがある人間がサポートしなければいけない。
それがキュレーターである。
パイロット期間にクジャクはキュレーターとして活動した。
らんラボのメンバーが中心だったとはいえ、達成率が50%近かったのはクジャクのキュレーション力によるところが大きい。
今後規模が大きくなってくると、キュレーションはクジャク一人では足りなくなる。
そう見越してキュレーターを今のうちから育てることにしたのだ。
この半年間、休みがほとんどないほど多忙だったが、プロジェクト自体は順調に進行した。
説明会は毎回8割ほどの席が埋まった。もんぐちとすずぽんは全国を飛び回った。この半年に限っていえば2人は東京にいることの方が少なかった。
あつしとランは説明会参加者に偏りが出ないようにプロモーションの細部にまでこだわった。
あるときは男性向け、次の時は女性向け、またある時は経営者向け。
それによって、もんぐちとすずぽんは説明会のたびに説明内容を少しずつ変えていった。
ここの微調整はあつしともんぐちの経験が生きた。
ランはあつしの数字分析を手伝い、すずぽんはもんぐちの説明内容をトレースした。
4人のプロモーションチームとしてのレベルはこの期間で大幅に上がった。
クジャクによるキュレーションチームも育った。
マニュアル、ガイドラインの整備など、ドキュメント関連が多いこともあり、らんは愛にクジャクのサポートをするように命じていた。
愛はクジャクがこれまで感覚的、天性的に行ってきていたことを全て言語化した。
桜の活躍は目覚しかった。
課題は事前にらんに相談し、起こり得る問題はほとんど事前に対処した。
無謀とも思えた開発スケジュールは見事にスケジュール通りに消化された。
桜の技術力はもちろんなのだが、コミュニケーション能力にらんは感心した。
らんはプログラムのことはわからない。
一方で現場の技術者はらんの思いは深くは知らない。どうしても技術ベースでできるできない、作りやすいいものを作ってしまう。
その行間を埋めたのが桜だった。
技術的にできないことをらんがやろうといった場合には、意図を汲んで別案を提案したり、らんが想像もしないような機能を実装してらんの理想を実現したり。
桜の提案でメンバーの信用ランクを数値化する機能を実装した。
メンバーの発信量、エンゲージメント、そのプロジェクトにかける思いなどをAIにより数値化。
当然数値が低ければ、支援は集まりにくい。
この機能により、詐欺プロジェクトのようなものは未然に防ぐ事が狙いだ。
らんは桜から提案を受けた当初はこの機能は反対だった。
人の思い、熱量などはシステムでは評価できないと考えていたからだ。そんなあやふやな数字を見せることで、本当に強い思いを持っている人に支援が集まらないことを危惧したのだ。
しかし、桜の強い主張により実装をOKした。ただし、信用ランクはあくまで目安でしかなく、プロジェクトの実行権は誰にでも与える、という条件で。
オープン後、信用スコアがプロジェクト達成率に悪影響を与えることはなかった。むしろ信用スコアが妥当な数値を示している事が少しずつ認知され始めて、達成率も少しずつ向上していった。
手数料が他のサービスの半額というわかりやすい訴求ポイントもあり、CHEER UPは順調に認知度を獲得、メンバーも増えていき、1年で会員1万人、支援総額1億円を達成した。
きさきのいう "強気の一手" はらんの指揮のもと順調なスタートを切った。
第4章 窮地
らんは喫茶店「Kakoi」でゆっくりと過ごしていた。
「今日はご機嫌ですね」
らんにそう尋ねてきたのはじいや、このKakoiのオーナーである。
らん
「あ、やっぱりわかる?w」
「実はCHEER UPの記事がYahooニュースに載ったの!しかもかなやんが書いてくれた記事よ!嬉しくてしょうがないの!!」
らんはスマホの画面を開いてじいやに見せる。
じいや
「ほほーいい記事ですね」
らん
「でしょー!?さすがかなやんだわ!」
「やまみーぬのプロジェクトも順調なのよ。」
らんはカウンターの端の方に目をやった。
視線の先には本を読む男性の姿。すらっとしていてスーツが似合う。
山宮翔(ヤマミヤ ショウ)
通称やまみーぬ。Kakoiの常連。薬剤師として働く一方で、薬剤師含む医療従事者の労働環境に疑問を感じて、改善するべく活動している。
かなりの読書家で、Kakoiでは常に本を読んでいる。らんが見るたびに別の本を読んでいる。らんとは常連同士、なんとなく交流が始まった。CHEER UPの活動を話しているうちにメンバーになり、コミュニティ内では医療従事者の働き方改革について発信している。
やまみーぬは今日もらんが見たこともないような本を読んでいた。
黒のハードカバー、医療の専門書だろうか。。
やまみーぬ
「CHEER UPの皆さんのおかげです。こんなに僕の話を聞いてもらえるなんて思ってなかったので、自分でもびっくりしています。」
らん
「医療関係の内情とか知っている人が少ないから、有識者からの声って本当にありがたいの。それにやまみーぬのプロジェクトめちゃくちゃいいと思うの。確実にニーズはあるし、雇用も生み出してる。見本としてこれから紹介して思ってるんだけどいいわよね?」
やまみーぬの立ち上げたプロジェクトの名前は “メディポート”。病気予防のために、日々の生活習慣やサプリのアドバイスなどを行う団体を立ち上げるというもの。
やまみーぬは薬剤師という業界に疑問を感じていた。収入面もそうだし、薬剤師のスキルを活用すればもっと世の中に貢献できると常々考えていた。そこでらんのCHEER UPを活用することにした。らんとKakoiで出会っていたことはやまみーぬにとって幸運であった。自分の頭の中にしかなかったアイデアをらんとの壁打ちで言語化できた。そしてプロジェクト立ち上げまでを後押ししてもらえた。CHEER UPのトップからそのような待遇を受けている人はやまみーぬ以外にはいなかった。
やまみーぬ
「ぜひ!そのプロジェクトは8割らんさんが作ったようなものなので!」
らん
「全然そんなことはないけどwありがとう!活用させてもらうわ!!」
・・・・・・・・
数日後、らんはいつも通り朝7:30に出社していた。
コーヒーを飲みながら会社のPCで各業界のニュースをチェックする、それがらんの日課だった。
あるニュースに目が止まる。自分の表情が険しくなるのを感じた。
その時スマホに着信が。きさきからの呼び出しだ。
コンコン
らん
「失礼します!」
きさき
「らんちゃん、ごめんなさいね。朝早くに」
らん
「いえ、私も会話させていただきたかったので。」
きさき
「その様子だと、今朝のニュースはちゃんと見ているようね。」
らん
「はい、Takibiの手数料引き下げの件ですよね。まさかここまで下げてくるなんて予想できませんでした。申し訳ございません。」
らんが見ていたのはTakibの手数料引き下げに関してのニュース。
従来の20%から8%に引き下げるというもの。
CHEER UPが手数料を10%にした時点で、他社も追いかけるように引き下げることは予想していた。
事実他のプラットフォームは下げてきた。らんたちが利用していたHinodeも15%へ下げた。
しかし、CHEER UPの10%という数字はプロジェクト達成率、プロジェクト支援金額、双方の高さから成り立つものであり、
他社が追随してきても12%程度が限界だろうと見積もっていた。
らん
「すみません、まさかTakibiが8%まで下げてくるなんて。。」
きさき
「別にらんちゃんが謝ることじゃないわ。8%なんていう価格破壊、私も想像できなかったし。」
「今の直感的にどう?このままユーザは一気にTakibiに流れると思う?」
らん
「今すぐに流れるということはないと思います。CHEER UPはコミュニティ自体も価値があるものなので、流出はしにくいと思います。ただ、このまま手を打たないと徐々に流出していって、人数が減っていくとコミュニティの価値も下がってくるのでそこからは急激に減ってしまうと思います。」
「新規流入は確実に減るでしょう。手数料最安というわかりやすいコピーをTakibiに奪われることになるので。」
きさき
「なるほどね。新規流入は減りそうよね。」
「これからすると思うけど、チームで対策を考えてちょうだい。」
・・・・・・・
らん
「みんな、今朝のニュースは見た?」
もんぐち
「Takibiの手数料引き下げの件だろ?あれはやりすぎだろ〜。。」
あつし
「僕も見ました。価格競争には持ち込みたくない、というのが本音です。」
らん
「そうね、私も価格競争にはしたくないわ。そこでどんな手を打てばいいか、対策を練りたいの!」
「今日知ったばかりのニュースだから綺麗にまとまった考えなんて、みんな持ってないと思うけど、ブラッシュアップして行きましょう!!テーマは新規加入者をどうやって増やすか?と既存メンバーの離脱をどうやって防ぐか?の2本だてで。」
もんぐち
「本格的な議論に入る前に俺から一つ。実は前々からCHEER UP内でやりたかったことがあるんだ。」
「CHEER UP内でセミナーをしたい。今までは集客のためのセミナーばかりやってたけど、CHEER UPのメンバー向けにやりたいんだ。」
らん
「どんなテーマで?」
もんぐち
「消費者の教育、かな。今って詐欺師多いじゃん?特にネット越しに狙われる人が多い。いまだにクラウドファンディングが詐欺だっていう人がいるのって実際にこれまで詐欺をした人がいる、あるいはいまも詐欺をしている人がいるからだと思うんだ。正直引っかかる人がいる限り詐欺はなくならない。だから引っかかる人を少しでも減らすことで詐欺自体を減らして行きたい」
すずぽん
「それめちゃくちゃいいです!僕セミナー参加します!!」
もんぐち
「いや、すずぽんはセミナー講師やってもらうからw」
もんぐちはすずぽんのセミナー講師としてのスキルを認めていた。そして、すずぽんももんぐちのビジョンに深く共感し、尊敬していた。
消費者教育、それはすずぽんが目指していることでもあった。
すずぽんはCHEER UPの立ち上げ時のセミナー講師の経験を生かして、自身でYoutubeチャンネルを開設し、大人向けの教育動画をあげていた。
らん
「いいわね!それは既存メンバーの離脱防止策としてすぐ取り組みましょう!」
その後も議論を続けた。
らん
「まぁ、こんなところね。」
ホワイトボードに書かれた20個ぐらいの策を眺めながららんは言った。
らん
「どれだけ効果があるかはわからないけど、できる限りの事はやっていきましょう!私もまだまだ考えてみるわ!」
もんぐち
「よし、みんなここが頑張りどころだ!」
「みんな!頑張ろうな!!」
みんな
「「「「 頑張ろうな!!!! 」」」」
1年半も同じチームでやっているので、すっかりもんぐちの掛け声は浸透していた。元々ランデブーの4人はもちろん、あつしもクジャクも声を出すようになっていた。
会議を終え、みんなが出た後、らんは1人ホワイトボードを眺めた。
(ちょっと厳しいかもな、、、)
そうなのである。ホワイトボードに並べたものの、最初のもんぐちのセミナー案以外、クリティカルな案は出なかった。もしかしたら実際やってみたらうまくいくものもあるかもしれないが、厳しそうというのがらんの本音だった。
Takabiの発表から1ヶ月。
らんの想定通り、CHEER UPへの新規入会者数は従来の7割程度まで落ち込んだ。
しかし退会者に関しては大きな変化は出なかった。
手数料が低いからといってTakibiの方に移る人はいなかった。
コミュニティとしての満足度は高い。CHEER UPの最大の強みでもある。
しかし、この強みを集客に結び付けられていない。第3者には伝わりにくいというのが一番の理由。
定性的評価が伝播するには相当なエネルギーが必要。
極端な話、「入って体感したらわかるよ」ということなのだが、入ってもらうハードルが高い。
らんたちはその後、初月無料キャンペーンなどもおこなったが、これは失敗だった。
お試しで入る人はどうしても様子見する人が多く、コミュニケーションに消極的になりがちであった。
初月無料キャンペーンを続けるとコミュニティの質を下げることになりかねなかったので、らんはすぐに辞めることを決断した。
そしてTakibiの発表から半年後、CHEER UPの新規会員数はピーク時の6割減というところまで来ていた。
会員数の減少はさほどないので少しずつ成長は続けているもののTakibiの成長速度と比較すると、どうしても寂しいものがある。
そんならんたちを次なる試練が襲う。
伝染病が日本に蔓延し始めた。
その病気は人から人へ感染する。他の国では数万人の感染者が出ており、1000人を超える死者も出ている。
日本も政府の対応により、他の国に比べると感染者数は少ないもののいつ爆発してもおかしくない状態。
打撃を受けたのは店舗を持つ事業者。
感染防止のために政府が外出自粛を呼びかけていたため、人がこなくなったのだ。
CHEER UPのプロジェクトにも支援金額が集まらなくなって来た。
店舗ビジネスの衰退による景気悪化ももちろんあるが、それ以上に日本全体の空気が重くなっているのをらんは感じていた。
先の見えない伝染病により、暗い気持ちになる。人の支援などする余裕がなくなっているのも当然だ。
らんはきさきに相談し、対策を打った。
「手数料0」
らんもきさきも会社の利益よりも、消費を促すことを優先した。
このまま日本が衰退するのが考えうる最悪の展開。
消費が少なくなった原因は、お金を持っている人が減ったからではない。
将来が不透明になったことにより、お金の使わなくなったのだ。お金は減っていない。流通量が減っただけ。流通するきっかけになればいい。
手数料0はそういった思いから踏み切った施策だ。
Takibiも同じように手数料0に踏み切った。
今は争っている場合ではない。日本の全企業、全国民が協力してこの苦境を乗り越えなければいけない。
らんとしてはTakibiの手数料0化はありがたかった。
クラウドファンディングにおけるTakibiの知名度は今でもずば抜けている。
これでクラウドファンディングを活用する人が少しでも増えてお金が廻るようになれば。。
らんを始めCHEER UPのメンバーの忙しさは立ち上げ時に相当するものだった。
らんともんぐちとすずぽんはCHEER UPメンバー向けのセミナーを繰り返しおこなった。
この状況下におけるクラウドファンディングの活用方法、成功している事例などの紹介だ。
あつし、ランはプロジェクト実行状況の分析。
どのようなプロジェクトが成功しやすいのか、データをもとに最適解を導いていく。
それをらんたちに伝えることで、モデルケースとして広めていく。
一番負荷が高かったのはクジャクを中心とするキュレーションチーム。
手数料を下げてからのプロジェクト数は過去最高を記録した。
プロジェクトが増えるということは、システムへの負荷が増えるということ。
桜たちエンジニアチームの対応に追われた。
サーバの増強、またより簡単に使えるように細かいUIの変更も繰り返していった。
多くのプロジェクトが立ち上がる中で一つの成功例が見えて来た。
それは料金の先払い。
店舗型の需要がないのは、外出自粛が声高らかに叫ばれている今だけ。ビジネス自体のニーズがなくなったわけではない。
クラウドファンディングのリターンで前売り券を販売する。
例えば飲食店であれば、有効期限3年とした飲食券10枚綴りや、1年間有効なフリーパス券など。サロン業界であれば、カットカラー券、年間パスなど。
あらゆる店舗業界でこの形式のクラウドファンディングは生きた。リターンが明確な分、支援者も購入しやすい。
そして、購入したことによりその店応援する気持ちが強くなる。ドライな言い方をすると、潰れたら困るからだ。
店舗側としては、未来の売上を前借りしている状態なので、もしかしたら将来的に困ることは出てくるかもしれない。
だが今は環境を維持できる。
今の環境が維持できるなら、伝染病が収束した時に元通りの仕事ができる。
そしてヒトが維持できるなら新しい施策を考えることもできる。
「人が来ないから諦めて店をたたむ」
それが最悪のケース。
諦めずにしのいでいけば活路は開ける。
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
某漫画の名言がらんの脳裏に刻まれていた。らんは誰1人にも諦めて欲しくなかった。
そして手数料引き下げから3週間が経った日。
その日はらんの誕生日。
だがそれどころではない。
自体は全く収束していなかった。
むしろ悪化している。感染者は日に日に増え、外出自粛も徹底されて来た。
だが、その中でもCHEER UPの中では多くのプロジェクトが立ち上がり目標金額を達成している。
中には営業できていない飲食店でも「当面3ヶ月は乗り切れそうなんで支援させていただきます!」といって他のプロジェクトに支援しているケースもある。
少しずつお金が廻り始めた。
ブブッ
セミナーを終えた時、らんのスマホのバイブレーションが鳴った。
くまっちからのLINEだ。
「らんちゃん。誕生日おめでとう!今めちゃくちゃ忙しいと思うけど、時間できたら使ってください。」
LINEには美容院のカットカラー券が添付されていた。
CHEER UPでプロジェクトが立ち上がっていた美容院のものだ。らんの家の近くの美容院を選んでくれている。
(くまっち流石だわ。。。)
らんはくまっちの気遣いに舌を巻いた。
もともとくまっちはらんと一緒に働いていた頃からお客様への気遣いがずば抜けていた。
お客様を訪問した際は、帰り道にカフェに寄ってお礼のメールをして、さらにその場でお礼の手紙を書いて訪問先のポストに入れていた。
さらにお客様の誕生日や好みも全て把握しており、営業としてというよりもヒトとしてお客様から好かれていた。それがくまっちという人間なのである。
くまっち自身も大変なはずなのに、らん自身も忘れていた誕生日にこういった気遣いができるのはさすがくまっちとしか言い表せない。
らん
「!!」
くまっちへお礼のLINEを書いている途中にらんは閃いた。
らん
「前売り券をギフトにするのは需要ありそう!リアル店舗だから立地が遠いと行けないから支援しにくい、でもプレゼント用としてあげれば自分は行けなくても知り合いに配ることができる。ロケーションの壁がなくなるから支援に対してのブロックが1つなくなるはず!」
「早速明日セミナーでみんなに伝えよ!」
らんはくまっちにお礼のLINEを返した。
ギフト×クラウドファンディング
相性は抜群だった。
らんがCHEER UPのセミナーで話してから多くのプロジェクトでギフトとしてのリターンが追加された。
そしてそれらのリターンは飛ぶように売れた。
支援したい!という気持ちはあるものの、立地が遠いから使うかどうかわからない前売り券を買うのもためらってしまう。
その間を埋めたのがギフトだった。
以前にもんぐちが言っていた「お金の払いどころを作る」を実践した形だ。
ギフト形式は他のクラファンにも広がった。
かなやんの記事がバズったからだ。
記事のタイトルは「暗い現代に紡がれる新しい絆」
らんはかなやんの文章が好きだ。
柔らかい文章の中に芯の通った強さを感じる。
大学時代のかなやんは文章が書けるようなイメージはなかった。むしろかなやんのメールは読みづらかった。
しかし、今はライターとして活躍している。きっととんでもない努力をしたんだろう。本人に聞いても
「そんなにすごいことしてへんよ、毎日ちょっとずつ頑張ったけどねー、チリツモってやつやね」
謙遜して、こんなことしか言わないが、どれだけ積み上げてきたのか。
らん自身は勢いで突っ走るタイプなので、地道に努力を続けるかなやんは尊敬の対象であった。
ギフト形式による支援が最も効果を発揮したのはCHEER UPだった。
その要因はプロジェクト実行者と支援者の時間軸の長さ。
初めて見る飲食店のギフト券があってもプレゼントしようとは思わない。
その店がどんな店かわからないからだ。
もしその店が良くなかった場合、プレゼントした人の信用が崩れてしまう。
そんなリスクは取れない。
自分で使う以上にギフトは店への信頼が大切になってくる。
CHEER UP内ではお金が廻り出し、プロジェクトも多く立ち上がり、多くのプロジェクトが目標金額を達成していく。
そして、支援実績、ギフト実績、これらは全て信用スコアとしてシステムに反映されていく。
多くのプロジェクトはコミュニティ所属歴が長い人が実行するプロジェクトだが、中にはコミュニティ歴が浅い人のプロジェクトでも多額の支援金額を集めることに成功したプロジェクトがあった。
大佐もCHEER UPでプロジェクトを立ち上げた1人。
大佐の祖父の旅館も今回の伝染病の影響を受けて、利用者が激減。経営危機に陥っていた。
そんな祖父の旅館を守りたい、大佐がらんに相談をしてプロジェクト実行に至った。
ただプロジェクトを立ち上げるだけでは当然支援は集まらない。
らんはクジャクに大佐のキュレーターとしてつくようにお願いした。本来キュレーターの指定はできないが、らんは贔屓した。
とはいえ、CHEER UPに参加したばかりの大佐の信用スコアは0。これでは支援は集まらない。むしろプロジェクトを見てもらえない。プロジェクトページのPVは0に近かった。
ここから信用スコアを貯めて、プロジェクトを成功させるには時間がかかりすぎる。その前に経営が破綻してしまう。もっと早く支援してもらえる人を見つけないといけない。
クジャクが取った戦略は「ドブ板営業」
支援してくれる可能性がある人、1人1人にコンタクトをとって大佐の思いを説明していく。
自分の思いを語るだけではなく、相手のこともしっかりと調べていき、どのような形であれば支援しやすいかを考える。
例えば旅館の近くに会社を構える経営者と話をするときは会社の研修施設として利用してもらえるように、1泊2日の貸切券をを準備した。
別の資産家のところを訪問するときは、旅館の1番いい部屋の1週間宿泊券を用意した。
大佐は1ヶ月で50人以上の人に自分の思いを伝えた。
その結果、500万円の支援金額を集めることに成功した。
これはCHEER UP参加直後のプロジェクトとしては最高金額。
らんはすぐに大佐の活動をCHEER UP内のセミナーで共有した。
これにより、メンバー間のコミュニケーションはさらに活発化した。(中にはスパムアカウントのようにDMを送りまくるメンバーも現れたが、その場合信用スコアが下がるように桜が対応した。)
こうして伝染病によってCHEER UPにギフトの文化がもたらされ、メンバー間のコミュニケーションが活発化し、新しい絆が生まれた。
第4章 次のステージへ
伝染病による外出自粛が広まってから1年がたった。
今では外出自粛も叫ばれることはなくなった。病気は収束したわけではない。今でも発症するし、人から人への感染もある。ワクチンも世には出てこない。
しかし、一人一人の自己管理意識の向上、早期発見方法の確立、既成薬品による症状の緩和により、感染拡大は止まった。
人類は伝染病との共生の道を辿ることになる。
らんはきさきの部屋にいた。
きさき
「らんちゃんに新規事業の立ち上げをお願いしてから2年ぐらいかしらね」
らん
「それぐらい経ちますね。あっという間でしたけど。」
CHEER UPはクラウドファンディング業界で第2位の地位を確固たるものとしていた。
手数料最安のTakibiが1位なのは変わらず、プロジェクト達成率・コミュニティの質などがストロングポイントであるCHEER UPが2位という状況。
会員数も5万人を超え、年間層支援額も10億円を超えるぐらいにまで成長してきている。
きさき
「ありがとう。らんちゃんに任せてよかったわ。」
らん
「いえ、チームのみんなが頑張ってくれたおかげです。きさきさんが紹介してくださったクジャクくん、あつしさんがいなければここまでできなかったですし。私1人の力じゃありません。」
きさき
「らんちゃんだからみんなをまとめられたのよ。」
らんは照れ隠しで頭を下げる。
きさき
「まだみんなに入ってないんだけど、らんちゃんには先に言っておこうと思って。」
「海外で新しい会社を起こそうと思うの。」
突然のきさきの言葉にらんは驚いた。
2年前、きさきが頻繁に外出していたのは海外に行っていたのか。ようやく繋がった。
きさき
「で、その会社の事業に本腰を入れたいから、社長を退任しようと思うの。」
らん
「え。。。」
「その新会社、私も連れて行ってもらえませんか?」
きさきはらんの憧れだった。きさきの誘いだからこの会社に入った。今では多くの仲間もいるが、それでもきさきの存在は大きい。
きさきのもとでもっと仕事がしたい。それがらんの思いだった。それにきさき以外の人の下で働くことが想像できなかった。
きさき
「残念ながらそれはできないわ。」
らん
「そんな。。。次の社長は誰になるんですか?」
きさき
「それは、片桐さん、あなたよ。」
らんの大冒険
〜第2篇 見えてきた理想世界〜
完
あとがき
「ビジネスはドラクエだ!〜第2篇〜」最後まで読んでいただきありがとうございます。
「どこがドラクエやねん!?」
というお気持ちかと思いますwそれを解説するのがあとがきの役割でございます。
第1篇ではらん自らが主人公になって、様々な経験を積み、自らの目標に向かって突き進んでいくという物語でした。
第2篇もらんは自らが掲げる「挑戦を応援できる世界を作る」という目標に向かって進めてはいますが、それよりも強いのは「挑戦できる場を提供する」という側面です。
これはゲームの主人公ではなくゲームを作る側です。らんはCHEER UPというゲームを作りました。ゲームを攻略するには村人(キュレーター)の言うことにしたがって、レベル(信用スコア)をあげてボスを倒さ(プロジェクト成功)なければいけません。
中には攻略本(クジャク)を手に入れて短期間でクリアする人もいる。
CHEER UPがドラクエなら、Takibiはファイナルファンタジーでしょう。超高品質の映像を同じゲーム料金で出しています。しかも新作の頻度も高い。
ですが、どちらか一つしか生き残らないわけではなく、両方がそれぞれのファンを抱えていまだに続く大ヒット作となっております。
物語でもCHEER UPとTakibiは最終的には両方とも生き残り、そして伝染病と戦うときは協力しました。
ビジネスに取り組んでいると、同業種=ライバル、蹴落とす相手として見てしまいがちですが、そうではなく、自分と相手の長所特性をよく把握した上で、お互いに協力して市場を広げつつ高めあっていくのがこれからの正しいビジネスの在り方だと思っています。
CHEER UPの異なるスキルを持つメンバーが協力して一つの巨大サービスを作り上げたように、CHEER UPとTakibiが伝染病の苦境を協力して乗り越えたように、誰かを蹴落とすではなく、全員で協力する。1人でも多くの人がこの意識でビジネスに取り組んでくれることを願います。
あとがきはこれで終わりですが、もうちょっと続くので読んでいってください。
エピローグ
きさきからの社長襲名発言を受けた次の休日、らんはKakoiに向かった。
きさきがいなくなることも自分が社長になることもいまだに信じられない。
気持ちの整理も込めて、じいやに話を聞いてもらおうと思ったのだ。
カランカラン
喫茶店に入るとそこには、、
きさき
「あら、らんちゃん。来たのね」
らん
「え、きさきさん!?なんでここに?」
きさき
「なんでって、私ここよく来るのよ。」
らん
「え、初耳です」
らんはじいやの方を見た。カウンターの奥でいつもと変わらぬ笑顔のじいや。
きさき
「私はらんちゃんが通ってること知ってたわよ。落合さんかららんちゃんの話よく聞いてたからね。」
らん
「えっ!?」
らんは再びじいやの方を見た。相変わらずニコニコしている。
きさき
「今回らんちゃんを社長にするっていうのも落合さんに相談したのよ。そしたら "あの子なら大丈夫ですよ、きさきさんの意志を継いでくれます" て後押ししてくれたから、私も安心してらんちゃんにお願いできたの。」
らん
「えー!そうだったんですか!?」
じいやは相変わらずニコニコうなづいてる。
きさき
「私の夢はらんちゃんと新しい事業を起こすことなの。CHEER UPでの社長と社員みたいな関係ではなく対等な立場で。だから私が会社起こしてCHEER UPに肩をならべる企業になるまで待っててね。」
らん
「はい!」
登場人物紹介
今回の登場人物は前作からのキャラクターを除いて、全員Twitterの人に登場してもらいました。(名前はほとんど妄想で作った名前です。)
※作中のキャラクターは皆様のツイートを見て私が妄想を膨らませただけです。実際どんな人柄かはツイート見ていただくなどでご確認いただければ幸いです。素晴らしい人たちばかりです。
参加許可いただいた皆様ありがとうございました!
片桐らん
本作の主人公。「人の挑戦を応援できる世界」の実現に向けて爆進している女性。1人のOLが社長のなるまでの物語です。
Twitterアカウントはこちら↓↓
しばらくは爆進の場をリアルに移すみたいですが、Twitterからいなくなるわけではないとのこと。帰ってきたときに迎えられるようにらんさんのことをみんなの記憶にとどめて置けるようにこのnoteが過ごしでも役に立ったら嬉しいなー。
門口拓也
らんの心強い相棒的な存在。チームのまとめ役として活躍。「頑張ろうな!」の掛け声はその後CHEER UP全体に広がった。
モデルにしたもんぐち社長のTwitterアカウントはこちら↓↓
柳下桜
天才エンジニア。最初はプロジェクトへの参加を断られるも、のちに合流。CHEER UPがシステムトラブルなく進んだのは桜の力によるところが大きい。
モデルにしたさくらわんこさんのTwitterアカウントはこちら↓↓
鈴木陽平
通称すずぽん。このプロジェクトを通して、セミナースピーカーとして大きく成長する。地方からのCHEER UP参加者はすずぽんを慕う声も多い。
モデルにしたすずぽんのTwitterアカウントはこちら↓↓
内田嵐
通称ラン。このプロジェクト最年少。あつしの元でCHEER UPへの集客を担当。元々自分のオンラインサロンを運営していたこともあり、人の気持ちを推し量る能力に長けている。
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九条誠
通称クジャク。CHEER UPの若手のエース。キュレーターとしてCHEER UP参加者の挑戦を1番近くで応援する立場。異常なプロジェクト成功率はクジャクの働きによるところが大きい。
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山口あつし
CHEER UPのマーケティング担当。優しいながらも確固たる芯を持って集客に取り組む。CHEER UPのコミュニティの質はそもそもあつしの運んでくる人が良いことに起因する。
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落合直樹
通称じいや。喫茶店Kakoiのマスター。元々は超敏腕経営者だったが今は引退して喫茶店のマスターをしている。Kakoiには連日多くのビジネスマン、経営者が訪れる。
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らんさんがじいやって呼んでるみたいなので、今作ではじいやというあだ名で登場していただきました。
山宮翔
通称やまみーぬ。Kakoiの常連。薬剤師の働き方改革を発信し続ける読書家。CHEER UPのコミュニティを医療重視者向けの応援メッセージをYoutubeにアップして拡散。その動画は100万再生を超えるバズを生んだ。
モデルにしたやまみーさんのアカウントはこちら↓↓
かなやん
らんの大学時代からの友達。人気のフリーライター。各メディアに引っ張りだこだが、子育てもあり、仕事はセーブしている。CHEER UPが短期間で2記事書いてもらえたのは幸運だったのかもしれない。
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くまっち
らんの旧職での同僚。心で会話する営業マン。お客様のみならず社内のメンバーとも同じように接する。そんなくまっちだからこそ、らんは仕事を辞めてからも交流が続いていた。
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大佐
らんラボメンバー。将来的には祖父の跡を継いで旅館経営に携わりたいと考えているが、今はいろんな方面の知識を吸収しようと動いている。
モデルにした大佐さんのアカウントはこちら↓↓
今回の登場人物はらんさんに選んでいただきました!その後私の方でツイート追わせていただいたりして、皆様のことを知っていきましたが、本当に素晴らしい方ばかりだったので、フォロー推奨です♪
次回作はまだ未計画ですが、反響があれば書いて行きたいなーと思います!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
このnoteが面白かった!という方は❤️とTwitterでシェアしていただけると嬉しいです!それではまた次回作でお会いしましょう🐈...
あとがき②(4/17追記)
このご時世、自分にできることはないかと考えました。私の引き出しは、ライティング、マーケティング、コンセプトメイキングなどなど。
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