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【武術】動く練習と動かない練習【太極拳】

中国武術をしていると、動かない練習、馬歩站椿が特殊で、すごい高級な練習のように誤解されていることが多いです。もちろん、動かない、立つだけの練習というのは中国武術に独特のものですが、それだけでは上手くなれませんし、もちろん強くもなれません。

おそらく、初心者の人が站椿から練習を始める人が多くて、ある程度上達した人も、基本である站椿に戻ってくるから、站椿がすごく重要な練習方法だと勘違いされて来たのではないかと思っています。

まず最初に確認しておきたいのが、歩形と歩法の違いです。歩形というのは馬歩とか弓歩とか虚歩という下半身の形です。これは站椿にも使えますが、ある歩形をして動かないのは站椿です。歩法というのは、動く練習です。運足と呼ぶ人もいます。

例えば、太極拳では弓歩から、一度重心を後ろ足に載せて、後坐という姿勢になります。そこから、もう一度前足に重心を移しながら、後ろ足を寄せて来て、斜め前に差し出します。体重はまだそのままです。そこから、前に出した足に重心を移して行って、弓歩になります。これが歩法です。

太極拳では、早い歩法はありませんが、形意拳や八卦掌では早い歩法を練習します。形意拳では、動かない練習として、三体式での站椿があります。歩法としては、後ろ足を寄せる跟歩(こんぽ)が有名ですが、実はこれは単なる基本です。漫画などですごく重要なように紹介されてしまったので勘違いされがちですが、跟歩の先にまだ重要な歩法があります。それは鶏歩(けいほ)と践歩(せんぽ)です。

鶏歩というのは鶏の足運びを模した歩法です。具体的には、鶏の膝は、人間と違って前に曲がります。逆方向です。そこで、膝を動かないように固定して股関節を鶏の膝に見立てて、足を前に出しながら歩きます。後ろに曲がらないということは、後ろに蹴ることができないので、歩き出すときの気配を消すことができます。さらに、下がツルツルの時には鶏歩を使うと滑らずに進めます。体育館などで、床が滑る時に練習するとその効果がすごくわかります。鶏は、勢いがあってもすぐにピタッと立ち止まれますし、足元が不安定でも動けます。その能力を身に付けようとして研究されたのだと思います。

践歩というのは、2種類あります。1つ目は日本武道にもある、継ぎ足のことです。前足に後ろ足を寄せて、さらに前足を進める。どんどん相手を追い込んでいく時に使えます。2つ目は、継ぎ足ではなく、波状に走る歩法です。八卦掌では円を描きますが、形意拳は波状です。左右に波状にどんどん前に出て行く歩法です。

八卦掌では、「百練は一走に如かず」と言われたり、「走圏に始まり走圏に終わる」と言われるように、動かない練習よりも動く練習が重視されます。

八卦掌に站椿がない(基本的に重視されない)のは、発勁の方法と関係があります。ここでは詳しく書きませんが、同じ内家拳でも太極拳、形意拳、八卦掌では力の使い方が全く違います。形意拳では発勁(暗勁)が重視されるので、アイソメトリクス的な力の使い方を学ぶための站椿は必須ということです。八卦掌はひねりや螺旋の力を使うので、アイソメトリクス的な使い方が必要ないということです。

ということで、まずは動かない練習よりも、動く練習をたくさんした方が体力もつくし、体の使い方、特に股関節の使い方が身に付くので重要です。股関節の使い方は健康にもとても重要です。そして、並行して站椿を行うことで、重心を感じる力や、全身に意識を張り巡らせて、成長の中で身に付けてしまった動きの癖を認識して、修正することができるようになります。

暑い時は動く練習はしんどいですし、立つだけとか、気功とかの方が気楽に取り組めますが、もしクーラーの効く練習場が使えるときには脱水に気をつけながら、動く練習にたくさん取り組んでみてください。夜もぐっすり眠れますし、体も軽くなるし、武術のレベルも目に見えて上がります。

おわり

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