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地球温暖化とIPCC第六次評価報告書の話/一般者向け入門解説(4)

※写真は9月頃咲くニラの花です。

一般の人にも理解できるように地球温暖化とIPCC第六次評価報告書の話を分かりやすく解説します。今回はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)内で科学的根拠の評価を行なっている第一作業部会の報告の内容を解説します(今回は前半です)。

A.気候の現状
人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。
人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている。
B.将来ありうる気候
世界平均気温は、本報告書で考慮した全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出量が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える。
気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大する。この気候システムの変化には、極端な高温、海洋熱波、大雨、いくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度、強い熱帯低気圧の割合、並びに北極圏の海氷、積雪、永久凍土の縮小を含む。

※上記の引用部分は「IPCC第六次評価報告書 第一作業部会報告書 政策決定者向け要約の概要」からの抜粋。

【IPCC報告書の解説】
IPCCの報告書には「疑う余地がない」と記載されていますが、その内容に異議を唱える専門家は少なからずいます。気温上昇幅の精度や気温上昇原因の内訳(人為起源と自然要因)等、全ての人が納得できるレベルには達していないように思われます(後述)。

気象及び気候の極端現象としては、極端な高温の頻発と極端な低温の減少、大雨の頻度・強度の増加と干ばつの強度・持続期間の増加(雨の多い地域はより大雨に、干ばつの多い地域はより長期間になる)等が挙げられています。また、これらの気候変動により、農業や生態系への影響、北極圏での海氷、積雪域の減少等が懸念されています(南極に比べて北極の変化が大きいと予測)。

台風については、強い台風は増えるが台風の発生数は減少すると予測されています。ニュース等でも「温暖化の影響で台風の強さが増してます」という言葉をよく聞きます。しかし、日本の戦後以降の台風のうち強大な台風の1位と2位は昭和30年代(現在に比べて二酸化炭素濃度はかなり低い時代)の伊勢湾台風と第二室戸台風です。

実はIPCCの報告書が絶対的に正しいとまでは言えず、まだまだ調べないといけない事が多いように思っています。但し、分かっていない事は多いとしても、今は報告書に書かれている警告を基に諸々の対応、備えを行いつつ今後の推移を注視すべきと思っています。

【補足説明】
IPCCの報告書には1850年〜1900年の世界平均気温に対し、2011年〜2020年の10年間の世界平均気温は1.09℃上昇したと書かれています。下の図は気象庁のHPに掲載されている世界の年平均気温偏差です。横軸が年で縦軸が1991年〜2020年の平均値からの温度差を示しています。●は測定値、青線は5年移動平均線、赤線は長期傾向線です。


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これに対し、1984年〜2020年の二酸化炭素濃度の推移を示した図(気象庁のHPより引用)を下に示します。植物の光合成の効果で北半球の夏は濃度が下がり冬は濃度が上がります(南半球に比べ北半球の方が陸地面積が大きいため)。1985年から2020年にかけて平均2ppm/年の傾きで二酸化炭素濃度がほぼ一直線に上昇しています。

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ここで、素朴な疑問が生じます。二酸化炭素濃度はほぼ一直線で上昇していますが、気温の変化はどうでしょうか?1990年〜2000年、2010年〜2020年の気温上昇に比べて2000年〜2010年の気温上昇は非常に小さくなっています。

つまり、実際の地球平均気温の変化には二酸化炭素以外の変動要因も含んでおり、それらも気温を下げる方向や上げる方向に作用しているということです。従って、自然要因も含めた形で気温上昇偏差の寄与率を正しく評価することが重要で、それが分からないままでは二酸化炭素や他の温室効果ガスの影響を過大評価したり過小評価したりすることになってしまいます。

例えば、江戸時代は小氷期という寒い時代でしたが、小氷期が終わった後は気温が上昇するモードとなります。最初の気温偏差の図で1890年以降の気温上昇には小氷期後の気温上昇も含まれていると見るのが自然と思います。

気温の測定についての課題も指摘されています。測定地点の偏り(陸地に偏っている、先進国に偏っている等)、不適切な測定環境等です。地球の平均気温を正確に知るためには、陸も海も北極も南極も含めて均等な測定ポイントでの測定、地上、海上に加えて高さ方向の気温(例えば標高0.5km毎に標高20kmまで)も均等に測定することが必要です。最近の20年ほどは気象衛星による観測も行われているので、より正確なデータが得られていると思います。

次回は第一作業部会報告書の後半とまとめの予定です。おそらく最終回です。

気候の極端現象について知りたい方は下記の第五次評価報告書の超要約記事を参照下さい。
(7)観測事実(気候の極端現象)
(8)将来予測(降雨、降水)
(9)将来予測(海、雪氷圏の予測)
(10)将来予測(気候の極端現象)

以上