マンガに現実の音楽が引用されるとなんか嬉しいよねって記事②

不定期連載の第2回です。記事のポリシーについては第1回をご参照ください。




前置きは省略で、自分が飽きないようにどんどん書いていきます。




④REBECCA / MOON



(公式のやつじゃないからそのうち消えるかも)


引用先の作品


集英社、冨樫義博
『幽☆遊☆白書』
完全版第1巻より


作品解説


説明不要の週刊少年ジャンプ。内容について今さら解説することは何もないためただの感想ですが、記事を書くにあたり超久々に読み返してみて、このマンガの魅力ってやっぱり密度の濃さとスピード感だよね、というのを再認識しました。


ラブコメ→探偵もの→王道バトル→トーナメント→コンゲーム→デビルマン→三國志→日常系の順で多岐にわたるジャンルを縦横無尽に盛り込みつつ、

・雑魚敵は1話、中ボスも3話程度でガンガン片付けて次のをお出しするサービス精神

書いてる本人が余白でツッコミをいれるほど唐突に行われる場面転換の数々

・俺は今トゥエンティフォーを観ているのか?と勘違いするレベル
で頻繁に目標までのタイムリミットが設定される作劇

といった、作者の好きなメタリカさながらの高速展開が終盤まで持続し、おかげで巻数はドラゴンボールの半分以下。


そんな幕の内弁当みたいなカンジが誰でもそれなりに楽しめそうかな、と思い、自分じゃなくてお客さん用に全巻買い揃えた経緯があります。完全版のくせにカラーページのバリューがそこまで高くないのはご愛嬌。



引用箇所の考察


同上、P192より



螢子の女友達のひとり(夏子)が話していた、今回紹介した曲にまつわる都市伝説的なやつ。
詳細はWikipediaに載ってるので、そちらをご参照下さい。曲中の該当箇所は2番のBメロで、貼った動画でいうと2:13から。



今だとリアルやネットの中の方が全然怖いですが、こういう系っていろんなところで手を変え品を変えユースカルチャーに登場してきた気がします。自分が知ってるやつだと『仄暗い水の底から』ってホラー映画の、ラジオ版CMのナレーションに「こ◯す」って呟きが混ざり混んでる、とか。


ケータイのまだなかった連載当時であっても、流行の最強インフルエンサーは女子中高生だったはずなので、そういう噂好きな描写を入れ込むことで、モブキャラにも一定程度のリアリティーを持たせたかったのかな、と思います。だから内容は別になんでもいいんですが、一応このマンガ霊能力にまつわるお話なので、申し訳程度にオカルト成分を足すことにしたのかも。


あと今でいう感想スレにあたる場所は連載当時だと学校の休み時間とかになるので、特に週刊連載マンガってそういう場での会話が弾みやすくなるよう、これあれのことだよね!ってなるような時事ネタを結構いろんな所に埋め込んでるため、今回の引用にもそういった側面があるんだと思います。



まあ曲の発表から今回の引用まで2年近く空いてるのはちょっと遅いですが、20世紀の週刊連載は現在に輪をかけたブラック企業なので、多少世俗とズレるのはしゃーない。


⑤DA PUMP / U.S.A.




引用先の作品


集英社、堀越耕平
『僕のヒーローアカデミア』
JC第38巻より



作品解説


説明不要の(略)。


例によって解説は割愛しますが、個人的にこのマンガの立ち位置は原作と作画が分業されてないアイシールド21枠だと考えていて、作業量ゆえいつ作者がキャパの限界を迎えてもおかしくない中、その度にPlus Ultraして踏みとどまってきたギリギリさと、ボロボロになりながらいつも誰かのために戦う主人公の姿とがシンクロしていることにより、言葉だけでは説明できない不思議な魅力を生んでると思うんですよね。


先週体調不良で休載だったんですけど、本誌ではあとちょっとでゴールが見えるところまで来たので、ゆっくりでもいいからぜひ最後まで走りきってほしいです。



引用箇所の考察


同上、P48より


最終決戦のために味方側が用意した浮遊バトルフィールドを、敵側の情報担当スケプティックがハッキングで乗っ取ろうとした時、元ヴィランで天才ハッカーのラブラバに阻止され、逆にスケプティック側がサイバー攻撃を受ける羽目になった場面。作中に曲名は出てこないんですが、ダパンプの固有名詞と、振り付けやビートのカンジからほぼこの曲と考えていいと思います。


ラブラバは過去にも一度、スケプティックが取締役をしている企業のサーバーにお遊びでサイバー攻撃をしたことがあり、その時のコーディングの癖から今回スケプティックの特定に成功しています(こんな感じに専門家だけ分かる手癖で、素性の分からない相手の人物像まで至る演出好き。恐ろしく速い手刀の人とか)。


そんな文脈から今回の曲の引用意図は明確で、煽りです。過去と全く同じ手口を再現することにより、失敗を強く忌避する性格のスケプティックに対し『お前また同じミスやったな(笑)』と皮肉ってるわけですね。そのため楽曲は過去の時点で一度使ったことが前提となるためやや古めで、なおかつ煽り要素がふんだんに取り入れられたものが望ましいんですが、2018年の曲かつ、開始1秒からケレン味の塊で踊りも印象的なこの曲は両方の条件をバッチリ満たしていると思います。これは多分偶然だけど、ラブラバが本誌に初登場したのも2018年だし。


この作者のギャグはなんか病的なハイ具合を感じるというか、「大丈夫?疲れてない?」という気持ちがついつい先に来がちなんですが、この引用は切れ味が鋭すぎて、本誌で初めて読んだ時思わず笑ってしまった記憶があります。


あとはアメリカ合衆国に対する羨望と現実が入り交じった歌詞と、このマンガのアメコミに対する独特な距離感を無理やり結びつけられなくもないですが、多分そこまでいくと邪推とかこじつけの域ですね。



ちなみに曲についての考察からは外れますが、スケプティックが取締役をしている企業名はフィール・グッド・インクといって、これはブラーのデーモン・アルバーンを中心としたゴリラズという覆面バンドの曲、『Feel Good Inc.』からとられています。スケプティックのモデルはお笑い芸人である金属バットの友保で、あえて多くは語りませんがおそらくはその相方からゴリラズが連想されてきたのだと思います。



Gorillaz 『Demon Days』歌詞カード表紙より


同アルバムのジャケット裏より


画像のとおりゴリラズのメンバーには2Dのイラストがあてがわれていて、細身の体躯に四角っぽい指先など、スケプティックの絵柄もどことなくこちらに似せて書かれています。一方で相対するラブラバはほぼ確実にパワーパフガールズがモデルとなっており、リアルだとゴリラズのメンバーにパワーパフガールズのヴィランが加入したこともある等、両者は一応世界観が地続きになっています。


ラブラバとスケプティックの劇中登場時期はバラバラですが、もしかしたらここで直接対決させることを念頭に、あらかじめデザインソースを似たようなところから引っ張ってきていたのかもしれません。だとしたらかなりすごい。



⑥Lou Reed / New York(アルバム)




引用先の作品


竹書房、水木由真
『まがいの器~古道具屋奇譚~』より



作品解説


コミティア初出から商業誌連載にリブートされた作品。



人の心を分解し、その中から特定の思い出を喰べて自分自身へ溜め込むことができる久真(くま)という幼児と、久真の世話役兼接客担当の音澄(ねずみ)という女性が経営する、ニーズのある人しか見えないし入れない慈空堂(じくうどう)という古道具屋を舞台にした連作短編集。


色っぽい絵柄、衒学的セリフ回し、頻繁に登場するホラー要素など、正しく奇譚ってカンジ。読んでてちょっとだけ松本零士の蜃気樓綺譚を思い出しました。


全7回のうち6回まではオムニバス形式で、最終回にて過去6回の登場人物が再登場し、自分達の物語をそれぞれ少しだけ補完する、という構成になっています。個人的にこういう雰囲気重視なマンガの場合は、読者へおもねらずに最後までぶっちぎってくれた方が好みですが、本作からは物語を畳むにあたって少しでも伝わりやすくしよう、という作り手側の誠実さを感じるため、これはこれでアリ。



引用箇所の考察


同上、P114より


6話あるオムニバスのうち個人的に最も好きな話、『7月のノイズ』の登場人物マチが慈空堂を見つけた際に持っていたレコード。今回の引用はストーリーの根幹部分に関わっていると思われるので、少し長くなりますが考察していきます。


マチには他の事が目に入らなくなるくらい大好きなバンドマンの彼氏がいたんですが、その彼氏には気持ちを汲んでもらえずひどい扱いを受けた上で破局し、それを見かねた共通の友人ヨータと、その彼女で同棲相手のユカがマチのことを色々気にかけてあげるようになります。


マチは先述の経験から、

クリアな気持ちは痛い
心に刺さる

同上、P128より


と、『愛して愛されたい』というキレイで真っ直ぐな気持ちにある種の恐れを抱くようになっており、そんな自分が理想としつつも叶わなかった相思相愛を実現しつつ、自分に対しては『男女の友情』『恋人の異性友達』という、あいまいな感情(=ノイズ)を許容してくれる2人との時間に心地よさを感じ、同棲先へ通いつめるようになります。


ヨータもまたバンドマンなので家には沢山のレコードがあり、好きなのは彼氏であって音楽ではなかったマチに対し、じゃあうちで聴いてけよ!とヨータが色々おすすめした中、一聴して「これ気持ちいい!」とマチが気に入ったのが、今回取り上げるルー・リードのNew Yorkというアルバム。いわゆるひと耳ぼれなので、マチの気持ちを味わってもらうため、リンクにはアルバム1曲目の『Romeo Had Juliette』を貼りました。


ルー・リードはヴェルベット・アンダーグラウンドの頃から続く職人的なソングライター気質(ポップス要素)と、難解な歌詞を抑揚なく歌うスタイルや、1時間エレキギターの音を撒き散らすだけの作品を平気で発表しちゃうような、既存の枠組みを攪乱していく前衛精神(アート要素)とが混在しているアーティストです。



音源にはそれら2つの要素が比重を変えつつ登場してくるんですが、このアルバムは反復ビートの上でメロディほぼ無しの歌を高速詠唱する、というアート寄りのスタイルでありながら、肝心の鳴っている音がオーソドックスかつ超絶気持ちいいので、ポップスとしての要素もしっかり兼ね備えているという特徴があり、そのバランスのよさからキャリアの中でも評価の高い作品になります。方向性としてはちょっとだけヒップホップに近いのかな?


そんなカンジに『難解だけどいい音で聴かせる』この曲の多面性が、レコード再生特有のアナログノイズで増幅されて、先述のとおりノイズのような気持ちに心地よさを感じていたマチのハートを撃ち抜くことになります。マチ自身は音の感触を青空や風といった清々しいイメージに結びつけていて、気持ちが再び上向きになる大きなきっかけとなっています。


ちなみに歌詞はネイティブでもない限り初見で聞き取るのはほぼ不可能ですが、『ロミオにはジュリエットが、ジュリエットにはロミオがいる』というサビ部分だけは何だかんだ判別ができるので、それがマチの判断に影響を与えた可能性もあります。マチにとってヨータとユカは相思相愛な理想の恋人像なので、それが誰しも名前を知ってる超有名なカップルのイメージと重なるわけですね。


じゃあこの歌はサビのイメージどおり純愛にまつわる内容なのか?って話ですが、実は全然そんなことないです。丁度noteでこの曲の歌詞を和訳されてた方がいたので、参考までにリンクを貼らせて頂きます。



和訳のとおり、この歌詞でロマンチックなのはサビのロミオとジュリエットだけで、それ以外は終始徹底して殺伐とした世界観だったんですね(ルー・リードの作風的にはむしろ平常運転)。


作品中に歌詞が引用されることはありませんが、その内容が暗示するとおり、マチは青空のような心地よいノイズの音へばかり夢中になってしまい、目の前にいるユカが実は嫉妬心を圧し殺しつつ、『恋人の異性友達』を受け入れようと努力していた事実に気付くことができず、最終的に耐えかねたユカのことをひどく傷つけてしまいます。


そこでマチは初めて

・ノイズにはプラスばかりではなく、マイナスの側面も入り雑じっている

・自分が大好きなユカとヨータの関係性において、他ならぬ自分自身がマイナスのノイズになってしまっていた


ということを知り、これ以上2人の関係を壊さないよう、悲しみとともに同棲先をあとにします。別れ際にマチは二度と自分達に会わないつもりでいることを察したヨータが、『また返しに来て』という意味合いを込めつつNew Yorkのレコードを渡し、その帰り道に慈空堂を見つけて…という形で、引用箇所へと続きます※。



※(実際には引用箇所は物語の冒頭部分で、先述の流れはマチの回想で少しずつ語られる、という構成なんですが、説明をわかりやすくするため時系列順に直しています)



長くなりましたが、マチにとってこのレコードは当時の自分の理想郷であり、同時にそれを壊してしまった苦い思い出の象徴でもあります。そんな複雑な感情を込められる受け皿として、このアルバムはこれ以上なく的確なチョイスだな、と思います。




ちなみにこれは考察じゃなくて感想ですが、ヨータはマチにいきなりNew Yorkを聴かせたわけじゃなくて、メジャーどころを何枚か聴かせて好みを把握→好きそうなジャンルから更に細かく散らして聴かせる、という丁寧な布教フェーズを経てNew Yorkにたどり着いています。そんでその間ヨータはずーっと子供みたく楽しそうにレコード持ってくるんですよ。そこがめっちゃ好き。



音楽好きも分類すればオタクであり、信仰するもののよさを少しでも多くの人に分かってほしい、という厄介なカルマを抱えているわけですが、こんなカンジで時々得られるキラキラした成功体験が超気持ちいいから、自分含めみんないつまでも沼から抜け出せないんだろうな、と感慨深いです。


自分も妻と付き合いたての頃、いろんなジャンルのCDを貸しては返ってきた感想を参考にまた次のを貸す、という、ちょっと痛い交換日記みたいなことやっていたのを思い出しました。まあそんな妻は布教の甲斐なくBTSばっか聴いてるんですけどね。ジンには勝てない。







ルー・リード好きだからついつい長くなっちゃったので、今回はここまで。次回はもう少しあっさりめにしたい。

更新が済んだら下にリンクを貼ります。

↓↓↓




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?